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二章 魔道学校編
第29話 純情な乙女心
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対校戦の前日となった。朝から周りの生徒が明日のことばかり話題にしているのが耳に入ってくる。
もう明日が本番だっていうのに、わたしはそれどころではなかったのだ。
ぶっちゃけホリンくんとトーラ先生の関係が気になって仕方がない。
付き合ってるのかな? 禁断の関係なのかな? ルヴァイン先輩と秘密にしようって約束したけれど、気になってしまうものは気になるのだ。
なんだかホリンくんの顔が見れなくて、目が合っては逸らすという行動を最近ずっと続けている。
自分がおかしいという自覚はある。でもどう接したらいいのかわからない。誰か教えておくれよー。
ギクシャクしたわたしにホリンくんが気づいていないのが救いか。イメージ通りの鈍感男なんだろうね。助かるけど。
「最近ホリンさんとお話されていないようですけれど、何かありまして?」
男は鈍感だけど女はそうではないらしい。
コーデリアさんがわたしの態度に気づいたようでそんなことを言われた。お嬢様はよく見ていらっしゃるようだ。
「いや別に……そんなことないよ」
気づいてくれたからって事情を話すわけにはいかないだろう。それこそホリンくんの沽券にかかわるといいますか。言えないものは言えないのだ。
コーデリアさんは小首をかしげる。綺麗な巻髪がふわりと揺れた。
悪い子じゃないんだよなぁ。むしろとても良い子。わたしなんて足元にも及ばないほどの大貴族のご息女でありながらそれで偉ぶる様子もない。
身分よし性格よし。魔法だって対校戦の代表者には選ばれなかったものの、一年の中では上の方だ。将来的には代表者になるかもしれない実力はある。
あらまあ優良物件でございますわよ奥さん。……何キャラになってるんだわたしは。
ちょっとおかしい感じになってんなぁ。ふぅと息を吐いていると、コーデリアさんがじーっとわたしを見つめていた。
「……何か?」
思わずそう口にしていた。
しまった。ぶっきらぼうな言い方になっちゃったかも。感じ悪かったかなぁ。
そんなわたしの心配をよそに、コーデリアさんは気にする素振りもなく口を開いた。
「もしかしてエルさん。緊張していらっしゃるんですの?」
「え?」
「ついに明日が対校戦ですものね。緊張して当然ですわ」
あ、そっちか。いや、状況的にそうなんだろうけどさ。
コーデリアさんは知らないであろう事実。ホリンくんの友人として口を滑らせるわけにはいかない。
「そうだね。さすがに緊張しちゃってさ。あははー」
そんなわけでごまかすことにした。それがベターだろう。
自分のことでもないのになんでこんなに悩んでんだろ。はぁ……。
※ ※ ※
昼時になってシグルド先輩が教室にやってきた。
先輩は授業が終わる鐘が鳴ったと同時くらいに教室に入ってきた。先生だってびっくりしてる。三年の授業はどうなってんのかな。
「エルくん。私といっしょに昼食はどうかな?」
「はあ……」
最近はシグルド先輩からのこういったお誘いが多くなった。
周囲の女子からの恨みがましい視線が突き刺さる。そしてホリンくんが立ち上がった。
「おい、エルにちょっかいかけるんじゃねえよ」
上級生相手でも睨みつける攻撃を緩めないホリンくんだった。ここまでが最近の流れだったりする。
ホリンくんが怖い顔になるもんだからわたしも反応に困ってしまう。上級生からのお誘いを無下にできるはずもなく、わたしはあいまいな返事をすることしかできないのであった。
端から見れば一人の美少女を男二人が取り合っているように見えるのではなかろうか。たまに忘れるけど、わたしって美少女なんだよね。……だよね? 自分ではそう思うのに誰も容姿について褒めたりしてくれないんだよなぁ。自分を勘違いナルシストだとは思いたくない。
だったらあれか? 最近のシグルド先輩がわたしに対してお誘いをかけてくるのはつまり、わたしに気があるってことなのだろうか? 今更になってその考えに思い至る。
え、ほんとに? そんな風に考えてしまうと急に恥ずかしくなってきた。
頭が熱くなってくる。いやいや待てよ。わたしの思い違いっていう可能性だってある。
別に愛の告白をされたわけでもない。勘違い女になんてなりたくない。クールになって、冷静な心で相手を見るのだ!
わたしが心の中で勝手にあたふたしている間もホリンくんとシグルド先輩の口論は続いていた。
ホリンくんはホリンくんでシグルド先輩が嫌いでたまらないみたい。ちょっとびっくりするくらいの嫌いっぷりだ。
わたしにシグルド先輩と関わるなって注意するくらいだし。それも何度も。まあ関係なくシグルド先輩がこうやって来ちゃうからなかなか言う通りにはできていないんだけども。
「ごめんなさいシグルドさん。わたくしお昼をエルさんと先約していましたの」
男二人の間に割って入ったのはコーデリアさんだった。チラリとわたしに目配せしてくる。
どうやら助け舟を出してくれているようだった。ありがてえ。
「そ、そうなんですよ。申し訳ないですがコーデリアさんと昼食をとりますので」
「む、そうなのかい?だったら――」
シグルド先輩の言葉は途中で遮られた。
わたしがお誘いを断ったのでチャンスと思った女子生徒達がシグルド先輩に殺到したのだ。我先にとアピールする女子達。すごい勢いだ。
あっという間に取り囲まれたシグルド先輩だった。なんてハーレム。前世だったら妬みの感情に支配されていたかもしれない。モテ男は滅びればいいのに。
まあ女の身となってしまった今ではそんな感情は一ミリも生まれないんですけどねー。すごいなーってのが感想かな。ただそれだけ。
「行きましょうかエルさん」
「あ、うん」
コーデリアさんに手を引かれて教室を出た。彼女は他の女子と違ってシグルド先輩に興味ないみたい。
そんなわけで食堂。コーデリアさんと並んで食事する。
アルバート魔道学校の食堂はきらびやかで、出てくる料理も毎日豪華だ。毎日がお祝いごとなのかって感じ。さすがは貴族学校と言われるだけはある。
「エルさんも大変ですわね」
「え、何が?」
「シグルドさんに言い寄られて迷惑じゃなくて?」
なんかばっさり聞いてくるなぁ。こういうさばさばした感じなのがコーデリアさんらしいと思える。
「まあ……どうかな?」
人前で先輩をディスれる度胸はわたしにはなかった。曖昧に苦笑する。
別に困るってわけじゃない。むしろ声をかけられるのは嬉しいことだ。シグルド先輩に対して恋がどうとかって意味じゃないのであしからず。
問題なのはホリンくんと先輩との仲が悪いってこと。そのせいでどう接していいものかと困ってしまうのだ。うん、わたし困ってるね。
「……わたくしはシグルドさんよりもホリンさんの方がいいと思いますわ。男らしくて頼りになるでしょう?」
「確かに」
それには頷く。
いじめられてたわたしを助けてくれたホリンくんはカッコ良かったからね。あの時のことは今でも覚えている。たぶん一生覚えているのだろう。それくらい嬉しかったことなのだ。
それにしてもコーデリアさんはホリンくん派か。あの二人はタイプが違うからなぁ。好みが分かれるところだろう。
……待てよ。
「コーデリアさんはホリンくんがいいと思うんだね。仲良いんだっけ?」
「え? そ、そうですわね……。少しだけですが、お話ししますわ」
この反応……、もしかして。
わたしの脳内にピコリーンと軽快な音が鳴った。
コーデリアさんはホリンくんが好きなのか。ライクじゃなくてラブ的な意味で。
恋する乙女心に気づいてしまった。これが女の勘ってやつか。実感として味わってしまった。
コーデリアさんは良い子だ。こんな子なら素直に応援したくなる。
けれど、ホリンくんはトーラ先生と付き合っているようなのだ。
純情な乙女心。だけどそれを突っ走ってしまえば横恋慕だ。
それを知ってしまっているだけにどうしたもんかと悩んでしまう。
こういう時、うまいアドバイスができない自分が恨めしい。前世の『俺』の頃から誰かに相談なんてされたことなかったし。逆に相談したこともなかったけど。おいそれと悩み相談する相手がいなかっただけってのが悲しい。
こんなわたしでごめんよ。彼女にがんばっての言葉すらかけられないのであった。
もう明日が本番だっていうのに、わたしはそれどころではなかったのだ。
ぶっちゃけホリンくんとトーラ先生の関係が気になって仕方がない。
付き合ってるのかな? 禁断の関係なのかな? ルヴァイン先輩と秘密にしようって約束したけれど、気になってしまうものは気になるのだ。
なんだかホリンくんの顔が見れなくて、目が合っては逸らすという行動を最近ずっと続けている。
自分がおかしいという自覚はある。でもどう接したらいいのかわからない。誰か教えておくれよー。
ギクシャクしたわたしにホリンくんが気づいていないのが救いか。イメージ通りの鈍感男なんだろうね。助かるけど。
「最近ホリンさんとお話されていないようですけれど、何かありまして?」
男は鈍感だけど女はそうではないらしい。
コーデリアさんがわたしの態度に気づいたようでそんなことを言われた。お嬢様はよく見ていらっしゃるようだ。
「いや別に……そんなことないよ」
気づいてくれたからって事情を話すわけにはいかないだろう。それこそホリンくんの沽券にかかわるといいますか。言えないものは言えないのだ。
コーデリアさんは小首をかしげる。綺麗な巻髪がふわりと揺れた。
悪い子じゃないんだよなぁ。むしろとても良い子。わたしなんて足元にも及ばないほどの大貴族のご息女でありながらそれで偉ぶる様子もない。
身分よし性格よし。魔法だって対校戦の代表者には選ばれなかったものの、一年の中では上の方だ。将来的には代表者になるかもしれない実力はある。
あらまあ優良物件でございますわよ奥さん。……何キャラになってるんだわたしは。
ちょっとおかしい感じになってんなぁ。ふぅと息を吐いていると、コーデリアさんがじーっとわたしを見つめていた。
「……何か?」
思わずそう口にしていた。
しまった。ぶっきらぼうな言い方になっちゃったかも。感じ悪かったかなぁ。
そんなわたしの心配をよそに、コーデリアさんは気にする素振りもなく口を開いた。
「もしかしてエルさん。緊張していらっしゃるんですの?」
「え?」
「ついに明日が対校戦ですものね。緊張して当然ですわ」
あ、そっちか。いや、状況的にそうなんだろうけどさ。
コーデリアさんは知らないであろう事実。ホリンくんの友人として口を滑らせるわけにはいかない。
「そうだね。さすがに緊張しちゃってさ。あははー」
そんなわけでごまかすことにした。それがベターだろう。
自分のことでもないのになんでこんなに悩んでんだろ。はぁ……。
※ ※ ※
昼時になってシグルド先輩が教室にやってきた。
先輩は授業が終わる鐘が鳴ったと同時くらいに教室に入ってきた。先生だってびっくりしてる。三年の授業はどうなってんのかな。
「エルくん。私といっしょに昼食はどうかな?」
「はあ……」
最近はシグルド先輩からのこういったお誘いが多くなった。
周囲の女子からの恨みがましい視線が突き刺さる。そしてホリンくんが立ち上がった。
「おい、エルにちょっかいかけるんじゃねえよ」
上級生相手でも睨みつける攻撃を緩めないホリンくんだった。ここまでが最近の流れだったりする。
ホリンくんが怖い顔になるもんだからわたしも反応に困ってしまう。上級生からのお誘いを無下にできるはずもなく、わたしはあいまいな返事をすることしかできないのであった。
端から見れば一人の美少女を男二人が取り合っているように見えるのではなかろうか。たまに忘れるけど、わたしって美少女なんだよね。……だよね? 自分ではそう思うのに誰も容姿について褒めたりしてくれないんだよなぁ。自分を勘違いナルシストだとは思いたくない。
だったらあれか? 最近のシグルド先輩がわたしに対してお誘いをかけてくるのはつまり、わたしに気があるってことなのだろうか? 今更になってその考えに思い至る。
え、ほんとに? そんな風に考えてしまうと急に恥ずかしくなってきた。
頭が熱くなってくる。いやいや待てよ。わたしの思い違いっていう可能性だってある。
別に愛の告白をされたわけでもない。勘違い女になんてなりたくない。クールになって、冷静な心で相手を見るのだ!
わたしが心の中で勝手にあたふたしている間もホリンくんとシグルド先輩の口論は続いていた。
ホリンくんはホリンくんでシグルド先輩が嫌いでたまらないみたい。ちょっとびっくりするくらいの嫌いっぷりだ。
わたしにシグルド先輩と関わるなって注意するくらいだし。それも何度も。まあ関係なくシグルド先輩がこうやって来ちゃうからなかなか言う通りにはできていないんだけども。
「ごめんなさいシグルドさん。わたくしお昼をエルさんと先約していましたの」
男二人の間に割って入ったのはコーデリアさんだった。チラリとわたしに目配せしてくる。
どうやら助け舟を出してくれているようだった。ありがてえ。
「そ、そうなんですよ。申し訳ないですがコーデリアさんと昼食をとりますので」
「む、そうなのかい?だったら――」
シグルド先輩の言葉は途中で遮られた。
わたしがお誘いを断ったのでチャンスと思った女子生徒達がシグルド先輩に殺到したのだ。我先にとアピールする女子達。すごい勢いだ。
あっという間に取り囲まれたシグルド先輩だった。なんてハーレム。前世だったら妬みの感情に支配されていたかもしれない。モテ男は滅びればいいのに。
まあ女の身となってしまった今ではそんな感情は一ミリも生まれないんですけどねー。すごいなーってのが感想かな。ただそれだけ。
「行きましょうかエルさん」
「あ、うん」
コーデリアさんに手を引かれて教室を出た。彼女は他の女子と違ってシグルド先輩に興味ないみたい。
そんなわけで食堂。コーデリアさんと並んで食事する。
アルバート魔道学校の食堂はきらびやかで、出てくる料理も毎日豪華だ。毎日がお祝いごとなのかって感じ。さすがは貴族学校と言われるだけはある。
「エルさんも大変ですわね」
「え、何が?」
「シグルドさんに言い寄られて迷惑じゃなくて?」
なんかばっさり聞いてくるなぁ。こういうさばさばした感じなのがコーデリアさんらしいと思える。
「まあ……どうかな?」
人前で先輩をディスれる度胸はわたしにはなかった。曖昧に苦笑する。
別に困るってわけじゃない。むしろ声をかけられるのは嬉しいことだ。シグルド先輩に対して恋がどうとかって意味じゃないのであしからず。
問題なのはホリンくんと先輩との仲が悪いってこと。そのせいでどう接していいものかと困ってしまうのだ。うん、わたし困ってるね。
「……わたくしはシグルドさんよりもホリンさんの方がいいと思いますわ。男らしくて頼りになるでしょう?」
「確かに」
それには頷く。
いじめられてたわたしを助けてくれたホリンくんはカッコ良かったからね。あの時のことは今でも覚えている。たぶん一生覚えているのだろう。それくらい嬉しかったことなのだ。
それにしてもコーデリアさんはホリンくん派か。あの二人はタイプが違うからなぁ。好みが分かれるところだろう。
……待てよ。
「コーデリアさんはホリンくんがいいと思うんだね。仲良いんだっけ?」
「え? そ、そうですわね……。少しだけですが、お話ししますわ」
この反応……、もしかして。
わたしの脳内にピコリーンと軽快な音が鳴った。
コーデリアさんはホリンくんが好きなのか。ライクじゃなくてラブ的な意味で。
恋する乙女心に気づいてしまった。これが女の勘ってやつか。実感として味わってしまった。
コーデリアさんは良い子だ。こんな子なら素直に応援したくなる。
けれど、ホリンくんはトーラ先生と付き合っているようなのだ。
純情な乙女心。だけどそれを突っ走ってしまえば横恋慕だ。
それを知ってしまっているだけにどうしたもんかと悩んでしまう。
こういう時、うまいアドバイスができない自分が恨めしい。前世の『俺』の頃から誰かに相談なんてされたことなかったし。逆に相談したこともなかったけど。おいそれと悩み相談する相手がいなかっただけってのが悲しい。
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