元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ

文字の大きさ
141 / 178
第二部

140.変えていくために

しおりを挟む
 伸ばした手は届かず。決して彼女に触れることはない……。

「不吉すぎるだろ……」

 長い夏休みが終わって学校が始まる。
 休み明けという気合を入れなければならない日に嫌な夢を見てしまった。詳しくいえば前世に戻ってしまう夢だ。二度目だってのに一度目と同じルートを辿ってしまった。
 実際に俺はここにいる。だから前世に戻ったわけじゃない。そう思いたいのに、妙にリアルで、なかなか振り払えないでいる。
 あの日から、今日までこの妙な夢は見なかった。俺の間違った答えに対する戒めだったのだろう。そう結論づけて忘れそうになっていたのに……。よりによって学校が始まろうって時に見るはめになるとはな。タイミング見計らってんのかなって愚痴りたくなる。
 こういう時は体を動かすに限る。
 毎朝のランニングはかかさず行っている。帰ってきたら筋トレも忘れない。そのために早起きしているのだ。
 その後にシャワーを浴びる。変な夢のせいでたくさん汗かいたからな。冷静になるためにも冷水を浴びた。
 残った時間で予習をしておく。朝食ができたと母さんから声がかかってリビングへと行った。

「いただきます」

 ご飯はしっかり食べる。まだ身長は伸びるはずだ。そう信じて噛みしめる。

「……」
「……」
「ん? 二人ともどうしたの?」

 父さんも母さんも、揃って俺をじーっと見つめていた。箸を動かしもせず見つめられるとこっちも手を止めてしまう。

「いや、だって……なあ?」
「そうよ……ねえ?」

 夫婦でわかり合うことでも息子には伝わらないんだよ。一体なんの目配せだ?

「俊成」
「一体なんだよ父さん?」
「……背、伸びたか?」

 母さんと目配せして一体何を通じ合っているかと思えば。大したことのないことだった。

「さあ? もしかしたら数センチ伸びてるかもね」

 今日学校に行ったら保健室で身長を測ってもらおう。二、三センチ伸びてたら嬉しいなぁ。

「なんだか俊成が急に大きくなった気がして。何かあったのかなって気になったのよ」
「急に大きくなったって。牛乳は毎日飲んでるけど、そんなに驚かれるほど大きくなった気はしないんだけどな」
「うーん、大きくなったっていうか……大人っぽくなった?」

 母さんは言ってて自分が驚いている理由をちゃんとはわかっていないようだった。
 ……夏休みに大人の階段を上ったのは事実だ。でもそれは俺の誕生日の時のこと。今言われる理由じゃないだろう。まあ……したのはあれっきりってわけでもないけどさ。
 あと心当たりがあるとすれば、前世の夢を見たからか?
 もしかしたらあの夢を見ると前世に近づいてしまうとか。だから急に大人っぽく感じた……。それだとあと何回か夢を見たらおっさんの頃の俺に追いついちゃうってことか?

「俺だってもう高校生になって半年だからね。ちょっとくらい大人っぽくなるよ」
「そうよねぇ。俊成は早熟で手がかからなかったもの。こんなにも大きくなってくれて嬉しいわ」

 母さんがほんわかと笑う。それにつられてか父さんも食事に戻った。
 さすがに前世の夢に引っ張られて成長が早くなったとは考えにくい。いくら逆行という不思議なことを体験したとしても、それはないなと思えた。
 だから、両親が感じ取ったのは俺の心の面。
 これからは葵と瞳子をいっしょには考えない。二人のうちどちらかを選ぶために、俺は答えを出すための決意が必要だ。

「ごちそうさま。俺すぐに出るよ」
「今日は早いのね。葵ちゃんと瞳子ちゃんに早く行くって約束しているの?」

 俺は首を横に振った。

「今日は瞳子と二人きりで学校に行くんだ」


  ※ ※ ※


 二人きりの時間を作る。登下校もそれに含まれていた。
 今日は瞳子の日だ。そういえば、彼女と二人だけでの登校はあまり記憶にない。
 小学生の頃は登校の班が違っていた。中学生になってからは葵を含めた三人で、というのが当たり前になっていた。瞳子と二人きりでとなると、葵が病欠した時くらいなものか。

「おはよう俊成」

 家から出てきた瞳子を見て、俺は固まってしまった。
 キラキラと銀髪が輝いている。青の瞳も朝の陽光に照らされて美しい色を帯びている。それだけじゃなく、雰囲気そのものがいつもより大人っぽくなっていた。

「瞳子、髪……」
「うん、ちょっと気分転換」

 はにかみながら彼女は自分の長い髪にそっと触れる。
 いつものツインテールではなく、銀髪のストレートロングが風になびく。度々見たことはあるけれど、学校へ行くのに髪を結ばないのは初めてじゃないだろうか。

「……ううん、気分で変えたわけじゃないわ。本気で葵に対抗するための決意よ」

 そう言って瞳子は胸を張った。にじみ出るのは確固たる決意だ。

「うん。綺麗だよ瞳子」

 素直な感想を述べた。口から勝手に出たのだから仕方がない。

「そ、そう……。俊成がそう言ってくれるのならよかったわ」

 そっぽを向く彼女の頬は朱に染まっていた。決意と言っていたし、がんばってくれたのだろう。よく見れば毛先とか整えてもらっているみたいだしね。

「それじゃあ学校に行こうか」
「ええ。行きましょう」

 手を差し出せばすぐに握ってくれる。駅までの道のりを銀髪の美少女といっしょに歩いて行った。


  ※ ※ ※


「高木くん、宮坂さんとなんかあったんか?」

 始業式の後、人気のない廊下でなぜか佐藤が心配そうに声をかけてきた。
 話を聞けば、葵は小川さんといっしょに登校したようだ。いっつも三人なのになんで? との疑問に葵は答えなかったらしい。それで小川さんから佐藤へ伝わり、俺に確認してこいとの命令を受けたとのことだ。

「命令って……それでいいのか佐藤」
「でも小川さんよりは僕の方が答えやすいやろ?」

 そりゃまあそうだけどさ。小川さんだと不用意に大きな声を上げちゃいそうだしね。

「もしかしてやけど、決めたんか?」
「いや、決めようとしている段階だ」

 何を、と言わなくても伝わる。佐藤はごくりと喉を鳴らした。

「そっか。大変になりそうやね」
「まあ、な」

 これまで固まっていた関係を変えていこうっていうのだ。それは想像しているよりも大変なことだろう。

「むしろ大変なくらいがちょうどいいでしょ」
「うおっ!?」

 にょきりと美穂ちゃんが顔を出した。まったく気配を感じなかったぞ。
 彼女は無表情のまま目だけで俺を見た。

「高木は三人で楽しいばかりだったかもしれないけど、二人は楽しいばかりじゃなかったかもだから」
「え?」
「自分が好きな人の一番じゃないかもしれない。それで全力で笑えるほど女の子は図太くないってこと」

 言われて頭に衝撃が走った。
 確かに三人でいっしょにいるのは楽しい。二人もそうだろう。でも、俺と違って何か挟まったような、そんな引っかかりみたいなものはずっと感じていたのかもしれない。
 それを、美穂ちゃんに言われるまで思い至らなかった。二人があまりにもかわいく笑うものだから気づかなかった。いや、気づかなかったのは鈍感な俺の責任だ。

「たくさん悩んであげて。それだけ宮坂と木之下が大変だったんだから。きっと、ずっと言えずにいたことだろうから」
「……うん。言ってくれてありがとう」

 やっぱり答えは出さなきゃダメだったんだ。改めて自分に言い聞かせる。しっかり二人を見よう、と。
 美穂ちゃんはふぅと息をついて、佐藤の肩にぽんと手を置いた。二人は見つめ合う。

「なんやろうね。赤城さん無表情なのに何を思うとるかわかってまうわ」
「以心伝心?」
「それは違うと思うで」

 何か通じ合ってる二人。え、なんなんだ?

「答えを出すのは高木くんやけど、困ったことがあったら言いや。赤城さんも僕も、他のみんなも、ちゃんと味方やから。助けが必要やったら手を貸すで」
「……本当にありがとうな」

 長い付き合いの中で、俺達の関係を見守ってくれていた。中学の時なんか周りから見れば歪な関係で、たくさんのごたごたもあった。
 それでも味方であり続けてくれた奴らがいる。それは本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「うおおい高木ィーー!! お前今日銀髪美少女と二人きりで学校に来たんだってなぁ!? どういうことか説明しろぉぉぉぉぉーーっ!!」

 下柳が大声を上げながら突撃してきた。それを佐藤と美穂ちゃんがカウンターのラリアットで黙らせてくれた。
 さっそく助けてもらってしまった。沈む下柳を眺めながら、俺は二人に感謝を述べるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...