僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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番外編 モブ男子は勝手に対抗意識を燃やす

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※別作品ですが、10/1に『エロ漫画の悪役に転生した俺が、寝取らずに幸せになる方法』2巻発売します!
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 同じクラスに矢沢比呂という男子がいる。
 俺と同じ目立たない男子で、密かに親近感を抱いていた。席が近ければ話しかけて友達になるチャンスがあったかもしれないが、残念ながらそういう運命はないらしい。
 俺がもう少し緊張しない体質なら、矢沢の席まで行って軽快なあいさつの後に「今日昼飯一緒に食わね?」と誘うのに……。まだ友達でもない奴に明るく話しかけるなんて上級者にもほどがある。

「比呂くん、今日のお昼ご飯はどこで食べますか?」

 コミュニケーションの上級者、松雪さんが俺にできないことを軽くやってのけている。
 清楚系を象徴する艶やかな長い黒髪。アイドルにも引けを取らない美貌は、この学校の男子ほぼ全員を虜にしているだろう。
 そんな彼女の名前は松雪綾乃。初めて松雪さんを目にした時は、アイドル級の美少女が実在したことに驚いたものである。
 それでいて自分の優れた容姿を鼻にかけることもしない。外見と中身の両方が優れているなんて、彼女は本当にアイドルにでもなった方がいいのではなかろうか。
 そんな松雪さんに話しかけられて、矢沢は慌てて……いない、だと!?

「今日は城戸さんが弁当を作ってきてくれるそうだから。落ち着けるところがいいかな」
「へぇ……妬けますね。はぁ~、比呂くんといると初めての感情が芽生えてばかりで楽しいですよ」
「僕はまだ複雑だけどね。でも城戸さんも楽しそうだし、松雪さんもこんな調子だから僕まで変な気持ちになるよ」
「こんな調子とはどういう意味ですかー? それに比呂くん、呼び方が元に戻っていますよ」
「いや、だからまだ慣れないんだって……」

 何やら矢沢が、あの松雪さんと楽しそうにおしゃべりしている。
 松雪さんは誰にでも優しい。笑顔を絶やさず、男女分け隔てなく話しかけてくれる。俺にも話しかけてくれた天使だ。
 だけど、特定の男子と長いこと一緒にいるのは珍しい。そういう時は大抵大勢人がいる時くらいなもんだし……って、これじゃ俺が松雪さんをつぶさに観察している変態みたいじゃないか。
 これくらいはクラスメイトなんだから知ってて当たり前だ。うんうん、そうに決まっている。……他の奴に確認したことないけど。

 ……それにしても、いつの間にか矢沢と松雪さんの組み合わせを多く見るようになったな。
 文化祭の前後辺りからそうなっていたように感じる。とくに松雪さんが変わらず自然体なままだから、こうして振り返ってみるまで気づかなかった。
 いいなー。俺も松雪さんとおしゃべりしたいなー。あいさつされるだけで緊張するから、たぶん目を見て会話するとかできないんだろうけど。

「それじゃあ行こうか、綾乃」
「はい、比呂くん♡」

 矢沢と松雪さんが教室を出るのを、横目で見送った。

「……」

 ……え? 今の何?
 空耳だよな? 矢沢が松雪さんのことを「綾乃」って親し気に名前で呼んだように聞こえたんだけど?
 松雪さんは男子が相手でも親しげに名前を呼んでくれる。そのせいか勘違いする奴がそれなりにいて、中には彼氏面で「綾乃」って呼んじゃう恥ずかしい奴もいたっけか。
 だけど、さっきのはそんな雰囲気じゃなかったよな。松雪さんもめちゃくちゃ嬉しそうな笑顔だったし……。

「……飯でも買いに行くか」

 確認しようもないことを考えたって仕方がない。俺は席を立って、パンを求めて購買に向かった。


  ◇ ◇ ◇


 人混みで溢れた購買で、パンを買うことに成功した。
 そこまでは順調だったのに、俺のベストプレイスが陽キャ集団に占領されていた。そのせいで食事する場所を求めて悲しい一人旅に出るはめになってしまった。手にしているパンの袋が寂しそうにクシャリと音を立てる。

「つっても、どこか良い場所ってあるのか?」

 ぼっち飯の場面を誰にも見られたくない。俺にもプライドというものがあるのだ。
 人気がなくて、ゆっくり過ごせそうな場所……。一瞬トイレの個室が頭を過ったが、さすがにそこまで落ちぶれていないと首を振った。

「今日は緊急事態ってことで……い、いいよな?」

 考えた末に出した結論は、図書室だった。
 どこの学校でもそうだと思うが、図書室は飲食禁止である。
 逆に言えば、昼休みに来る奴は飯を食ってからということになる。ということは、さっさと食べてしまえば、誰にも気づかれずに済むのではなかろうか。
 パンを懐に隠しながら、音も立てずに図書室に入った。我ながら忍者の素質がありすぎる。

「本当に誰もいないのか?」

 図書室の先生くらいはいると思っていたのに、室内を見渡す範囲には誰の姿も見えない。予想外だが、都合がいい。
 人が来る前に早くパンを食べてしまおう。死角になるような場所に当たりをつけて、一歩踏み出した時だった。

「誰かの……話し声?」

 微かに聞こえる人の声。だけど、どれだけ辺りを見回しても誰の姿もなかった。

「準備室の方からか?」

 ちょっとしたホラーを感じていると、『図書準備室』というプレートがかかったドアを発見する。
 たぶん先生や図書委員が仕事でもしているのだろう。見つからないうちに本棚の向こう側にでも隠れようっと。

「……」

 ……そうするはずだったのに、俺の足は準備室の方へと向いていた。
 確か、松雪さんって図書委員だったよな? もしかしたら彼女が委員会の仕事中かもしれない。
 偶然バッタリ会えば、松雪さんなら明るく声をかけてくれるだろう。何かの間違いで、仲が深まるイベントに発展するかもしれない。妄想ばかりが膨らみ、胸がドキドキしてきた。
 ドアが少しだけ開いている。こっそり覗けば中の状況がわかるよな……。

「……っ」

 俺は意を決して、ドアの隙間を覗き込んだ。

「比呂くん比呂くん、紬さんのお弁当どうですか?」
「うん、美味しいよ。すごく上手になったね」
「比呂先輩の口に合ったのなら、良かった……」

 そこには信じられない光景が広がっていた。
 学校で一番可愛いと噂されている松雪綾乃と、文化祭を機に人気上昇中の城戸紬が、一人の男子を挟んで食事しているではないか。
 隣り合って座っているどころではない。本当に挟んでいると表現できるくらい距離が近いのだ。え、ちょっとエロくない?

「それなら私も紬さんのお弁当を食べてみたいですね。比呂くん、あーんして食べさせてくださいよ♡」
「綾乃先輩、人のお弁当をだしに使って比呂先輩とイチャイチャしようとしないでください」

 松雪さんと城戸さんが争うみたいに、真ん中にいる男子に密着する。え、何このラブコメ世界? 俺はいつから漫画の世界に迷い込んだんだ?

「綾乃も、紬ちゃんも。食事中くらいはケンカしないでね」

 しかも、その男子はこんな羨まけしからん状況の中心人物でありながら、焦りもせず自然体で美少女二人をたしなめる。どこのラブコメ主人公だよ、それ!
 ……って、松雪さんと城戸さんという極上の美少女に、サンドイッチの具みたいに挟まれている男子って、同じクラスの矢沢か!?
 いや、確かに松雪さんと二人して教室を出たのは見かけたけど。まさかこんなにも仲良しだとは思わねえだろっ。
 そもそも仲良しっていうか……これってイチャイチャしているようにしか見えないよな。
 明らかに松雪さんと城戸さんが矢沢を取り合っている状況。ダメだ……頭がどうにかなりそうだ……。
 矢沢はずっと俺と同じ陰キャだと思っていたのに……。いつの間にこんなリア充になったんだよ!

「比呂くんが、あーんしてくれたらケンカしませんよ」
「あたしも大人しくするから……して、ほしい……」
「急に息合いすぎなんだけど!?」

 甘さを増してきた空間のせいで、目が潰れそうになった。

「…………」

 俺はゆっくりとその場を離れて、静かに図書室を後にする。

「「あーん♡♡」」

 もう聞こえるはずのないところまで離れたのに、学校で一、二を争う美少女に迫られている矢沢が目に浮かんだ。
 受け入れがたい現実を前にして、脳が沸騰しているんじゃないかってくらいの熱を持つ。

 憧れの女子ではあったけど、別に松雪さんと付き合いたいだとか思ったことはない。
 それは興味がないとかじゃなくて、自分なんかじゃ絶対に無理だからという、後ろ向きな理由だった。

「負けてらんねえ……」

 だけど、矢沢は違った。
 矢沢は俺と同じ陰キャだと思っていた。それどころか勝手に比較して、俺の方がマシだよなと、心の底で思ってた。
 だけど実際は正反対どころではなくて……。矢沢はいつの間にか陰キャの壁を乗り越えて、リア充を超えたスーパーリア充になっていた。

「俺だって……モテたい!」

 きっと矢沢は努力したのだ。俺の知らないうちに、あの有名な松雪さんと城戸さんに好かれるほどに。
 俺の歩みは早足になっていき、気づけば駆け出していた。
 今すぐ何かしたい。灰色の学校生活だと思って、怠惰に生きてきた自分を恥じた。
 矢沢に負けてられねえ! 勝手に仲間意識を抱いて、今度は勝手に対抗意識を燃やす。
 俺も、矢沢みたいにモテモテな男になってやる。おかしくなった頭が導き出した答えを信じてしまったがために──俺の熱い青春は、ここから始まったのだった。
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