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27、揶揄ってなどいません
「自分なんて、一人孤独に死んでしまえば良いと、貴方はまだそう思っているのですか?」
「貴殿は、ずっと、何をそんなに怒っているのですか?」
「怒りますよ。当然でしょう」
「当然って?」
まったく、気持ちが理解できなくて、目と鼻の先まで、セイルが迫ってきているのに、エアリアは身じろぎ一つできないでいた。
「アイツは……? アリザス殿は、貴方に触れたのですか?」
「…………」
「こんなふうに」
セイルは言って、エアリアの顔を覆うほど鬱蒼と伸びた前髪を掻き分けると、隠すものがなくなってしまったエアリアの瞳を、真正面から覗きこんだ。
アリザスのことを散々言っているが、今のセイルだって、彼と同じような仕打ちを、エアリアにしているではないか?
(いや、この人の場合、私を人扱いしていないのかも)
だけど、払いのけてしまうには、優しすぎる手だ。
「……で? 女らしさを消し、生気すらなくし、貴方は、虜囚のように振る舞う。まったく自分に非がないことに罪悪感を覚えて、独り死んでいく。それが……貴方の生き方なんですか?」
「だから、貴殿には関係な……」
「関係ない? こんなに近くにいるのに」
そっと、額を撫でられて、ぞくりと身体が震えた。
生まれて初めての感覚が怖くて、エアリアは平常心を失ってしまった。
「やめてください!」
自分の髪を乱暴に奪い返して、きつく睨みつけると、まるで、珍しいものを発見したように、セイルが目を見開いた。
「何だ。反抗的な顔も出来るんですね。その方が俺は遥かに人間的で良いと思いますが……」
「人を揶揄うのも、ほどほどに!」
「揶揄ってなど、いませんよ。俺は……」
「じゃあ、何で?」
至近距離で覗き込まれて、混乱したエアリアは、思わずセイルを突き飛ばした……つもりでいた。
――が、実際は自分が後ずさっていたらしい。
「わわわっ」
「エアリア様!」
レグリスを隔離していた囲いを破壊し、セイルが差し出した手を拒否したエアリアは、気がつくと、レグリスの顔の下で、仰向けに倒れていた。
「いたたっ」
「まったく、何をやっているんですか?」
セイルが上から覗きこんでいる。
「何って……」
お前のせいだと、言い出すことが出来ず、エアリアは、ゆっくりと上体を起こした。
「ほら、ちゃんと俺に掴まってください」
「…………はい」
二度も拒否するのも、大人げない。
今度ばかりは、セイルが差し伸べてくれた手を取って、渋々、立ち上がろうとする。
だが、再び有り得ないことが起こった。
―――――がぉぉぉっ!
「え?」
突然、レグリスが雄叫びをあげて、こちらに牙を剥いたのだった。
「ちょ、ちょっと、レグリス! どうしたの? 急に吠えだしたりして、ちゃんと鳴きなさい」
「……いや、レグリスは、獅子ですからね。獅子は咆哮ですからね」
「猫ですって」
言い争っているそばから、レグリスが金色の鬣を聳やかして、こちらに突進してくる。
「レグリス! どうしちゃったのよ!?」
「危ない!!」
……そして。
棒立ちだったエアリアを、突き放したセイルはレグリスの巨体に、押し倒されてしまったのだった。
「やだ! セイル殿!? レグリス、お願いだから、やめて!!!」
エアリアが、腹の底から声を出して一喝すると……。
「……レグリス」
まるで、悪い魔法が解けたように、レグリスはおとなしくなって、セイルの上から退いていった。
「ああ、やっぱり、凄いですね。エアリア様は……。興奮した獅子を、静かにさせてしまうんですから」
「別に、私は何もしていませんよ。今までのレグリスがおかしかっただけで。こういうことは、初めてだから、一体、どうしたのかしら? ……あっ、セイル殿の方こそ、大丈夫なんですか?」
「まあ、見てのとおり、生きてますよ」
「怪我は? 痛いところはないんですか?」
「……ありません。無傷です」
しかし、セイルは地べたに倒れたまま、なかなか起き上がって来なかった。
(まさか、打ちどころが悪かったんじゃ?)
「あの、やっぱり、お医者様を……」
「医者は、必要ありません」
「本当に?」
(顔面蒼白じゃないの)
警戒しつつも、エアリアは、じりじりと近づいて、セイルの顔を覗き込んだ。
けど、それは失敗だった。
「貴殿は、ずっと、何をそんなに怒っているのですか?」
「怒りますよ。当然でしょう」
「当然って?」
まったく、気持ちが理解できなくて、目と鼻の先まで、セイルが迫ってきているのに、エアリアは身じろぎ一つできないでいた。
「アイツは……? アリザス殿は、貴方に触れたのですか?」
「…………」
「こんなふうに」
セイルは言って、エアリアの顔を覆うほど鬱蒼と伸びた前髪を掻き分けると、隠すものがなくなってしまったエアリアの瞳を、真正面から覗きこんだ。
アリザスのことを散々言っているが、今のセイルだって、彼と同じような仕打ちを、エアリアにしているではないか?
(いや、この人の場合、私を人扱いしていないのかも)
だけど、払いのけてしまうには、優しすぎる手だ。
「……で? 女らしさを消し、生気すらなくし、貴方は、虜囚のように振る舞う。まったく自分に非がないことに罪悪感を覚えて、独り死んでいく。それが……貴方の生き方なんですか?」
「だから、貴殿には関係な……」
「関係ない? こんなに近くにいるのに」
そっと、額を撫でられて、ぞくりと身体が震えた。
生まれて初めての感覚が怖くて、エアリアは平常心を失ってしまった。
「やめてください!」
自分の髪を乱暴に奪い返して、きつく睨みつけると、まるで、珍しいものを発見したように、セイルが目を見開いた。
「何だ。反抗的な顔も出来るんですね。その方が俺は遥かに人間的で良いと思いますが……」
「人を揶揄うのも、ほどほどに!」
「揶揄ってなど、いませんよ。俺は……」
「じゃあ、何で?」
至近距離で覗き込まれて、混乱したエアリアは、思わずセイルを突き飛ばした……つもりでいた。
――が、実際は自分が後ずさっていたらしい。
「わわわっ」
「エアリア様!」
レグリスを隔離していた囲いを破壊し、セイルが差し出した手を拒否したエアリアは、気がつくと、レグリスの顔の下で、仰向けに倒れていた。
「いたたっ」
「まったく、何をやっているんですか?」
セイルが上から覗きこんでいる。
「何って……」
お前のせいだと、言い出すことが出来ず、エアリアは、ゆっくりと上体を起こした。
「ほら、ちゃんと俺に掴まってください」
「…………はい」
二度も拒否するのも、大人げない。
今度ばかりは、セイルが差し伸べてくれた手を取って、渋々、立ち上がろうとする。
だが、再び有り得ないことが起こった。
―――――がぉぉぉっ!
「え?」
突然、レグリスが雄叫びをあげて、こちらに牙を剥いたのだった。
「ちょ、ちょっと、レグリス! どうしたの? 急に吠えだしたりして、ちゃんと鳴きなさい」
「……いや、レグリスは、獅子ですからね。獅子は咆哮ですからね」
「猫ですって」
言い争っているそばから、レグリスが金色の鬣を聳やかして、こちらに突進してくる。
「レグリス! どうしちゃったのよ!?」
「危ない!!」
……そして。
棒立ちだったエアリアを、突き放したセイルはレグリスの巨体に、押し倒されてしまったのだった。
「やだ! セイル殿!? レグリス、お願いだから、やめて!!!」
エアリアが、腹の底から声を出して一喝すると……。
「……レグリス」
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「ああ、やっぱり、凄いですね。エアリア様は……。興奮した獅子を、静かにさせてしまうんですから」
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「まあ、見てのとおり、生きてますよ」
「怪我は? 痛いところはないんですか?」
「……ありません。無傷です」
しかし、セイルは地べたに倒れたまま、なかなか起き上がって来なかった。
(まさか、打ちどころが悪かったんじゃ?)
「あの、やっぱり、お医者様を……」
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