ゴミ屋敷の姫君と家出騎士

丹羽 史京賀

文字の大きさ
28 / 64

27、揶揄ってなどいません

「自分なんて、一人孤独に死んでしまえば良いと、貴方はまだそう思っているのですか?」
「貴殿は、ずっと、何をそんなに怒っているのですか?」
「怒りますよ。当然でしょう」
「当然って?」

 まったく、気持ちが理解できなくて、目と鼻の先まで、セイルが迫ってきているのに、エアリアは身じろぎ一つできないでいた。

「アイツは……? アリザス殿は、貴方に触れたのですか?」
「…………」
「こんなふうに」

 セイルは言って、エアリアの顔を覆うほど鬱蒼と伸びた前髪を掻き分けると、隠すものがなくなってしまったエアリアの瞳を、真正面から覗きこんだ。
 アリザスのことを散々言っているが、今のセイルだって、彼と同じような仕打ちを、エアリアにしているではないか?

(いや、この人の場合、私を人扱いしていないのかも) 

 だけど、払いのけてしまうには、優しすぎる手だ。

「……で? 女らしさを消し、生気すらなくし、貴方は、虜囚のように振る舞う。まったく自分に非がないことに罪悪感を覚えて、独り死んでいく。それが……貴方の生き方なんですか?」
「だから、貴殿には関係な……」
「関係ない? こんなに近くにいるのに」

 そっと、額を撫でられて、ぞくりと身体が震えた。
 生まれて初めての感覚が怖くて、エアリアは平常心を失ってしまった。

「やめてください!」

 自分の髪を乱暴に奪い返して、きつく睨みつけると、まるで、珍しいものを発見したように、セイルが目を見開いた。

「何だ。反抗的な顔も出来るんですね。その方が俺は遥かに人間的で良いと思いますが……」
「人を揶揄からかうのも、ほどほどに!」
「揶揄ってなど、いませんよ。俺は……」
「じゃあ、何で?」

 至近距離で覗き込まれて、混乱したエアリアは、思わずセイルを突き飛ばした……つもりでいた。

 ――が、実際は自分が後ずさっていたらしい。

「わわわっ」
「エアリア様!」

 レグリスを隔離していた囲いを破壊し、セイルが差し出した手を拒否したエアリアは、気がつくと、レグリスの顔の下で、仰向けに倒れていた。

「いたたっ」
「まったく、何をやっているんですか?」

 セイルが上から覗きこんでいる。

「何って……」

 お前のせいだと、言い出すことが出来ず、エアリアは、ゆっくりと上体を起こした。

「ほら、ちゃんと俺に掴まってください」
「…………はい」

 二度も拒否するのも、大人げない。
 今度ばかりは、セイルが差し伸べてくれた手を取って、渋々、立ち上がろうとする。

 だが、再び有り得ないことが起こった。 

 ―――――がぉぉぉっ!  

「え?」

 突然、レグリスが雄叫びをあげて、こちらに牙を剥いたのだった。

「ちょ、ちょっと、レグリス! どうしたの? 急に吠えだしたりして、ちゃんと鳴きなさい」
「……いや、レグリスは、獅子ですからね。獅子は咆哮ですからね」
「猫ですって」

 言い争っているそばから、レグリスが金色の鬣を聳やかして、こちらに突進してくる。

「レグリス! どうしちゃったのよ!?」
「危ない!!」

 ……そして。
 棒立ちだったエアリアを、突き放したセイルはレグリスの巨体に、押し倒されてしまったのだった。

「やだ! セイル殿!? レグリス、お願いだから、やめて!!!」

 エアリアが、腹の底から声を出して一喝すると……。

「……レグリス」

 まるで、悪い魔法が解けたように、レグリスはおとなしくなって、セイルの上から退いていった。

「ああ、やっぱり、凄いですね。エアリア様は……。興奮した獅子を、静かにさせてしまうんですから」
「別に、私は何もしていませんよ。今までのレグリスがおかしかっただけで。こういうことは、初めてだから、一体、どうしたのかしら? ……あっ、セイル殿の方こそ、大丈夫なんですか?」
「まあ、見てのとおり、生きてますよ」
「怪我は? 痛いところはないんですか?」
「……ありません。無傷です」

 しかし、セイルは地べたに倒れたまま、なかなか起き上がって来なかった。

(まさか、打ちどころが悪かったんじゃ?)

「あの、やっぱり、お医者様を……」
「医者は、必要ありません」
「本当に?」

(顔面蒼白じゃないの)

 警戒しつつも、エアリアは、じりじりと近づいて、セイルの顔を覗き込んだ。
 けど、それは失敗だった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。