悪魔の箱庭

荒巻一青/もふモフ子

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和弥、悪魔と出会う

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 あの箱を拾ってからアドレナリン大放出で眠れないのではないかと思ったが、意外に俺の体は単純なのか、10時を過ぎたらぐっすりと寝てしまった。
 寝る直前まで、俺は箱を使って実験してみた。

 まず、箱の映し出す場所は、俺が行ったことのある場所に限られていた。
 樺島をもう一度操りたくて「樺島の家になれ!」と箱に念じたが、箱は応えてくれなかった。
 代わりに学校やショッピングセンター、駅前の図書館など、よく行く場所は簡単に出すことができた。もちろん、夜遅かったため、誰もいなかったが。

 また、再現できる場所の範囲は限られていた。
 我が家のリビングはしっかりと箱の中に収まっていたが、学校の教室や職員室ほどの広さになると、その場所の一部しか再現できない。しかも、箱の中に再現できるその一部分は、俺が自由に決めることはできず、箱が勝手に指定してくる。
 これだと、教室の前方にいる人たちは操れるけれど、後方にいる人たちにその力は及ばない。
 いずれは学校を支配していきたいが、しっかり計画を練る必要がありそうだ。

「あれ?父さんは?」

 朝、いつもより気分良く目覚められた俺は、一階に下りて父さんの姿を探した。軽くフェラでもやってもらおうと思っていた。

「もう会社に行ったわよ。部下がトラブルを起こしたとかって」
「へぇ。上司は大変だねぇ。」
「あんたもさっさと食べちゃって。母さん、今日はパートの日だから。」
「はぁい。いただきます。」

 俺が中学を卒業してから、母さんは近くの回転寿司店でパートとして働き始めた。なんでも、まかないに寿司が食べられるのが良いのだとか。

「あ、母さん。」
「なぁに?」

 洗い物をしている母さんに、俺は言った。

「今日、学校休むから。学校に体調不良で休むこと、連絡して。“よろしくお願いします”。」

 “息子に「よろしくお願いします」と言われたら、親は必ず息子の願いを叶えなければならない。”

 これも両親にかけた暗示だ。
 母さんは「はいはい。」と返事をして、すぐに学校に電話をしてくれた。

「……えぇ……体調不良で。今日一日、休ませます……はい……。」

 電話を切ると、母さんはふぅと息をついた。

「これでいい?先生、珍しいってびっくりしていたわよ。」

 これでも学校では優等生を通してきたからな。
 でも、あの箱を置いて学校になんか行けない。
 それに日中なら、学校に人がいるから、色んな人を好き勝手に操ることができる――。

「樺島、『男は常に元気であれ』みたいな、謎の価値観押し付けてくるから。気にしないで。」

 そういう、妙に熱血なところがいやなんだよな。あの身体は好きだけど。

「元気があっていいんじゃないの?。じゃあ、母さん、もう行くから。ゴミ出し、しといてくれる?」
「はいはーい。いってらっしゃい。」
「昼、適当に食べてね。行ってきます。」

 そうして、母さんは慌ただしくパートに行ってしまった。
 家に一人残されると、いやに静けさが強調される。

「……ゴミ捨て、行くか。」

 ご飯の残りをかきこんで、俺は大きなゴミ袋を二つ抱えて家を出た。

 


 誰ともすれ違わず、俺はゴミ袋を持って、ゴミ捨て場への道を歩く。
 今朝は、井戸端会議をするおばさんたちも、ゴミ捨て場の管理を自主的に行っているおじいさんもおらず、実に静かなものだった。

 そのせいか、ガサゴソとゴミを漁る音と「ふぇぇん!ないよぅ!」という幼い声が、際立って俺の耳に届いてきた。
 俺はゴミ捨て場のある道に出る前に、電柱の影に隠れた。
 角を曲がった先にあるゴミ捨て場を、こっそりと見る。

 男の子が、ゴミ捨て場を漁っていた。
 小学生だろうか。白いシャツに黒の短パンというシンプルな出で立ちだ。しかし、そばにランドセルは見当たらない。
 男の子はひたすら大きなゴミ袋を道端にどかしては漁り、どかしては漁りを繰り返している。小学生が持ち上げるには重たそうな空き缶が大量に入った袋なんかも、ふぅふぅ言いながら引きずっていた。

 ――あんなに必死になって、何を探しているのだろう。

 あまり関わりたくないが、ゴミ収集車がいつ来るか分からないため、俺は意を決して電柱の影から出た。

「お、おはよう、ございますぅ~。」

 適当に挨拶し、バサッと袋を二つ投げ捨て、さっさと戻ろうとした。
 しかし――。

「あ、あのっ!」

 男の子に、声をかけられてしまった。
 内心舌打ちをするが、まさか無視もできず、俺は諦めて男の子の方に振り向いた。

「何ですか。」
「こっ、このあたりにっ、“箱庭”、落ちていませんでしたか!?」

 “箱庭”、だって――?
 ふと嫌な予感がして、黙って男の子を見下ろした。

「え、えっと、大きさはこれくらいで!あの、黒い革でできているんです!ぼ、ぼく、このあたりで落としちゃって……っ!」
「……すみません。何のことだか。」

 あれだ。
 俺が拾った、あの箱のことだ。
 あれは、目の前のこいつが、落としたものだったのか!?
 男の子は目に涙をいっぱいにためて、「しゅ、しゅみません……。変なことを聞いて……。」とうなだれ、またゴミ漁りを始めた。
 俺は「別に」と言って、ゆっくりもと来た道を戻る。
 そして、角を曲がり、完全に男の子の視界から消えたところで、俺は猛ダッシュで家に向かった。

 どういうことだ!?
 あの男の子は何者なんだ!?
 まずいぞ!
 俺はもう、あの箱を手放せない!
 あいつが取り返しに来る前に、何か手を打たねば!
 ドアを乱暴に開け、靴を脱ぎ捨て、俺は二階へと駆け上がる。
 転びそうになりながら、自分の部屋へ入り、例の箱が置いてある棚の前へ立った。

「箱!ゴミ捨て場を映し出せ!」

 箱は光を放つ。
 光が消えると、箱の中の場所は先程までいたゴミ捨て場に変わっていた。
 そこには、相変わらず泣きながらゴミ箱を漁る男の子の姿があった。

「お前は心も身体も、俺の命令に逆らうことはできない!お前は俺の許可なしに、意志をもつことができない!抵抗してはならない!俺を物理的に精神的に傷つけることができない!俺に聞かれたことに嘘をつくことができず、正直に答えなければならない!俺の不利益になることは一切できない!他者に助けを求めたり、連絡を取ったりしてはならない!」

 思いつく限りの暗示を叫ぶ。
 すると、ゴミ漁りをしていた男の子はピタリと止まり、だらんと両腕を下ろした。
 意志のない人形のように、表情の抜け落ちた顔でゴミ捨て場の壁を見ている。

 よ、よし。
 まずは無力化に成功したぞ。
 そのまま男の子に俺の家までの道を伝えて移動させる。
 しばらく待つと、カチャリとドアの開く音が聞こえた。階段を上る足音が近づいてきて、俺の部屋の前で止まる。

「ドアを開けろ。」

 ゆっくりとドアが開く。
 ドアの向こうにいたのは、先程の男の子だ。
 外靴を履いたまま、ぼんやりとした表情で立ち尽くしている。

「チッ。靴を脱がせるのを忘れていたな。靴を脱げ。」

 男の子は素直に靴を脱いだ。靴はとりあえず廊下に放置させる。
 さて、目の前のこいつが、例の箱の持ち主だ。
 相手を無力化させる暗示を思いつく限りかけたが、まだまだ油断ならない。

「全裸になって、両手を頭の後ろに回せ。」

 男の子は俺の命令通り、服を全て脱ぐ。
 すると、真っ白な肢体があらわになった。
 子供体型の細い手足にも、股間にも毛は生えておらず、まだ皮の被った小さな性器が力なく垂れ下がっている。
 男の子が両手を頭の後ろに回すと、自然と胸が強調される。淡いピンク色の乳首を目にした途端、何だか心臓がドキドキしてきて、俺は慌ててカーテンを閉めた。
 とんでもねぇ犯罪臭だ。
 しかし、表情が抜け落ちているとはいえ、よく見てみるとなかなか整った顔立ちだ。将来、イケメンになることが確約されていると言わんばかりに。
 裸になった男の子を前に、俺は咳払いを一つしてから、考えていた言葉を口にした。

「お前は俺の許可なしに身体を動かすことはできない。」
「……はい。」
「よし。意識を戻せ。」

 すうっと、男の子の目に、光が戻った。

「……え?あれ?ここ、どこ?えっ?ぼ、ぼくなんで、はだか、というか、身体が動かな!」
「うるさいな。静かにしろ。」
「んむっ!?」

 口のチャックが閉められたように男の子は黙ったが、混乱した眼差しを俺に向けている。

「俺の質問にだけ答えろ。……名前は。」
「ろ……ロニー。」

 ロニー?ハーフか?

「お前はなぜ、“箱庭”とやらを探している?」
「“箱庭”はボクの任務に絶対必要なものなんです。“箱庭”を無くしてしまったと、上に気づかれたら、ぼ、ボクは、大変なことになります……!」

 任務?
 上?
 こいつ、やはりただの小学生ではないのか。

「“上”とは、誰を指しているんだ?それに、お前、何者だ?」

 男の子は、ポロポロ涙を流しながら、「い、言っちゃまずいのです……!言っちゃだめなのにぃ……!」ともごもご言っていたが、震える声で自分の正体を明かした。

「ぼ、ボクは、人間の男の子の肉体をベースに、つ、造られた、“ハイブリッド悪魔”なんですぅっ!ぼ、ボクたち悪魔は、糧となる人間を捕まえるために、この人間界へ派遣されました!うわぁんっ!言っちゃったぁ!」
「……ハァ?」

 え、悪魔?人間を糧に?
 暗示をかけているから嘘をつける状況ではないのは分かっていたが、まさかの話に、思考が一瞬停止した。
 しかし、どこか納得している自分もいた。
 まともな存在が、あんな代物を作り出すわけがない。

「悪魔……悪魔ねぇ。」

 俺は棚に置いていた箱を持ち上げ、男の子――ロニーに見せた。

「そ、それは……っ!」
「これがお前の探していた“箱庭”ってやつだな。これは何なんだ。説明しろ。」
「うっ……!こ、これは……ボクが“上”から授かった“悪魔の箱庭”なのです……。」

 観念したように、とうとうと語り出した。

「ボクたち悪魔は、偉大なる“あの御方”のために、人間たちからエネルギーを集めなくてはなりません。しかし、ボクたち悪魔がいる“魔界”と、ここ“人間界”はそもそもの世界の在り方が異なっているため、かつて悪魔が“人間界”に直接出向くのは不可能でした。」

 魔界に、人間界ときたか。
 いつのまにこの世界はファンタジーに侵食されていたんだ。

「でも、どうしてもボクたち悪魔には人間のエネルギーが必要でした。そのため、悪魔の手足となる人間を求めたのです。その人間に、ボクたちの代わりに、糧となる人間を集めてもらおうと……。」
「悪魔の甘い言葉に惑わされた人間を利用するってことか。」
「はい……。人間が欲しがりそうなアイテムを提供することで、その人間と悪魔の間に絶対的な契約を結ばせ、一生ボクたち悪魔の糧となる人間を集めてもらう――それがボクたち悪魔のやり口なのです。」
「その、“人間が欲しがりそうなグッズ”が、この“悪魔の箱庭”なんだな?」
「はい、その通りです……。」
「ふぅん。てことは、俺とお前の間に、その契約というのは既に交わされているのか?」
「いえ。交わされていないのです。そ、それが、問題なのですっ!」

 何だって?交わされていない?

「悪魔と人間の契約は、人間が絶対に悪魔を裏切れないようにするために交わすものです!そのため、基本的に契約を結んでから、悪魔は人間にアイテムをお渡ししなくてはなりません!特にボクのように、相手に姿を現さないと契約を交わすことすらできない、弱小悪魔は絶対に!そうしないと……た、大変なことに……!」
「そうだよなぁ。俺みたいにこうやって、悪魔を支配する人間が現れちゃうもんなぁ。」
「ひっ、ヒィッ!?」

 子羊のようにぶるぶる震えるロニーは、今にもショックで気絶してしまいそうだ。そうはさせないけどな。
 しかし、ロニーの話を聞く限り、どうも悪魔界の連中は、思考がお気楽じゃないか?
 せめて、人間が意図せずアイテムを手にしても使えないようロックをかけるべきだろう。俺はするつもりはないが、人によっては不意打ちで悪魔を殺して、アイテムを自分のものにする人間だって出てきそうだ。
 そのことをロニーに聞けば、「あ、あなた、ほ、ボクたち悪魔より、思考が悪魔的ですね……!」と余計に怖がられた。

「あ、悪魔は人間と違って、そこまで思考回路が複雑ではないのです!ボクは人間の肉体と融合して最近造られた“ハイブリッド悪魔”だから、人間の思考に引っ張られているところがありますが、悪魔界にいる悪魔は、基本的に“あの御方”にエネルギーをお渡しすることしか考えていないのです……!」
「へぇ。ところで、さっきから言っている“ハイブリッド悪魔”と普通の悪魔の違いってなんだ?」
「先程も言ったように、悪魔は人間界に来ることはできません。でもそれは、普通の悪魔に限った話です。最近造られるようになった“ハイブリッド悪魔”は人間の肉体をベースにしているので、人間界での直接的な活動が可能なのです!」
「へぇ、すごいじゃん。」
「はい!でも、まだ技術的に不安定で、人間1000体使って、ようやく二、三体しか成功していないのです……。」
「成功率低っ!?」
「し、しかも、ボクは成功体ではなく、どちらかといえば出来損ない……。せっかくトップランカーの“トクジ様”に造っていただいたのに……。うっかりアイテムも落としちゃうし、こうして人間に捕まって、任務も失敗して……。ぼ、ボク……。本当にダメダメな悪魔なのです……。う、うぅ……っ。」 

 あの御方だの、トクジ様だの、色々出てくるなぁ。

「トクジ様ってのは、お前の上司か?」
「はい……。悪魔よりも悪魔的な思考をもつ人間と組んで、ここ数年で一気に成果を上げた、ボクの生みの親にして上司の悪魔です……。」
「じゃあ、“あの御方”ってのは誰だ?」
「“あの御方”は、“あの御方”なのです。」
「はい?」

 答えになっていないその言葉に、俺はか「どういうことだ?」と重ねて聞いた。

「ボクたち悪魔は“あの御方”のために存在しているのです。“あの御方”は、“あの御方”。それ以上でも、以下でもありません。」
「お前、“あの御方”に会ったことあるのか?」
「いえ?でも、会う必要なんてありますか?」

 本当に不思議そうに俺に聞くものだから、俺はうっと言葉に詰まってしまった。
 “あの御方”ってのは、こいつらにとっての神様みたいなものか?
 悪魔に神様がいるなんて、変な話だぞ。矛盾していないか?
 しかし、可愛い顔して、とんでもない話をしてくれたなこの野郎。
 自分たちの糧にするための人間を、人間自身に集めさせるとは。欲望のためならいくらでも非情になれる人間はたくさんいるだろう。

 そう、見ず知らずの赤の他人なら、別に悪魔の糧になったって構わないと考える人間だって――。

「……なぁ。」
「は、はい?」
「捕まった人間は、どうなるんだ?」
「さぁ。ボクも詳しくは分かりませんが、確か半永久的に悪魔のためにエネルギーを搾り取られたり、労働させられたりするって聞いたことがあります。」
「じゃあ、世界で起きている人間の失踪事件に悪魔が関わっているというのか。」
「――いえ。それは違います。」

 やけにはっきりとした口調だった。

「そもそもそうした記録には残りません。なぜなら、悪魔に捕まった人間に関する情報や記録、そして、人々の中にある記憶は全て消去されるからです。」

 ロニーの言葉に、俺の心臓がドクリと動いた。

「きおく、も?」
「誰かがいなくなったと周囲に悟られないよう、あらゆる人間の記憶の齟齬を丁寧に修正し、元々その人なんて存在しなかったようにするのです。そう、定められているのです。」

 俺は、自分が無意識のうちに息を止めていたことに気づき、ハッと息を吸う。

 ――なんだ。
 そうだったのか。
 俺はおかしくとも、何ともなかったんだ!
 おかしかったのは、周囲の方だったんだ!

「はは……はははっ!」
「ヒィッ!?」
「はははっ!ようやくだ!ようやく、俺はっ!」

 突然笑い出した俺に、恐怖の眼差しを向けるロニー。
 笑い出したくもなるだろう。

 ついに――。
 ついに恵一兄さんが、みんなの記憶から消えた理由が分かったのだから!

 あぁ、恵一兄さん!
 俺の大好きな恵一兄さん!
 俺の誕生日の前日に、突然消えてしまった恵一兄さん!
 あの日、恵一兄さんがくれたミニチュアたちも、ボトルシップも、全てが俺の部屋から消えてしまっていた。まるで元々存在しなかったかのように。
 俺は泣きわめいたが、母さんも父さんも「そんなもの、買ったことなかったでしょう?」と不思議がっていた。
 そして、「あなたに従兄弟なんていないじゃない」とも。
 恵一兄さんは俺の頭の中だけに存在する人じゃない!
 あの日、恵一兄さんは悪魔に連れて行かれたんだ!

「はははっ!……はぁ。」

 笑うのを止め、俺は視線をロニーへと向ける。
 決めた。
 俺は決めたよ、恵一兄さん。

 ――あんたを、悪魔から絶対に取り戻す。

 俺は、ロニーの方へ一歩踏み出す。

 ――そのために、お前は有効活用させてもらうよ、ロニー。

「な、何をするのです……っ!」
「そろそろ、その体勢もキツくなってきたんじゃないか?ロニー。」

 全裸な上、頭の後ろにずっと手を置いているロニーは、警戒するようにこちらを睨んだ。

「そ、そんなことは……っ!あるけど!」

 そんなロニーに、微笑んでやる。

「解放してやってもいい。だが、その前に――俺が、お前にとっての“あの御方”になってやる。」
「え?」
「いいか、ロニー。良く聞くんだぞ。」
「い、いやです……っ!そんな、聞きたくなっ!」

 俺はロニーに近づき、彼の小ぶりなまろい耳に囁いてやった。

「“『あの御方』への忠誠心を全て捨てろ。これから、お前は俺のために生きるんだ”。」
「あっ……ひ、やぁ、あっ……!」
「“俺の命令に従い、俺の願いを聞き、俺のために身も心も尽くすことが、お前の最上の喜びであり、存在意義だ”。」
「ひ、ぐっ……!お……、お゛か゛し゛く゛な゛る゛ぅ゛ッ!!」

 おかしくなる?
 ちがうな。

「生まれ変わるんだよ、新しいお前に!」

 目から鼻から口から涙や鼻水、唾液がとめどなく流れ、その混ざったものがロニーの顎の下に伝っていく。

「ふ、げぇっ!ぉっ、ぼっ!」

 白目を剥いて、体全体を痙攣させる。
 下半身では、ペニスが小さいながらも勃起して、ショロショロとおしっこを漏らしていた。
 それでも、頭から両手は離れていないのだから、“悪魔の箱庭”の暗示の強さがうかがえる。
 やがてロニーは、かくんと脱力した。
 俯いた顔は上がらず、しばらく静寂の時が流れる。
 やばいな。精神崩壊させたか?
 呼びかけてみようかと俺が口を開いたその時、ロニーがゆっくりと顔を上げた。

「……さま」
「え?何だって?」
「ご主人……様ぁ♡」

 ロニーの蕩けた声色に、今度は俺のほうがビクッとした。
 ロニーの顔は相変わらずいろんな液で汚れていたが、もう意識を取り戻していた。
 キラキラと、どこか盲信的な目を俺に向け、目元や頬を赤くし、ハァハァと息を荒げている。

「ろ、ロニーは生まれ変わりました……♡これからは、ご、ご主人様のために精一杯お仕えいたします!♡で、出来損ないの悪魔ですが、が、がんばりますぅ!♡」
「本当に?俺に尽くすの?」
「はいっ!♡ロニーの幸せは、ご主人様を幸せにすることです!♡」
「これから、お前の上司や、他の悪魔と敵対することになるかもしれないぞ?」
「別にいいですぅ!♡」
「“あの御方”を裏切ることになっても?」
「はいっ!♡」

 ロニーは目をぐるぐるさせながら、満面の笑みで答えた。

「もう、“あの御方”なんて、どうでもいいです♡なんで、あんなにボクって、よく分かりもしない存在のためにがんばっていたんだろう?よく分かりませんが、もういいのです!♡――今のボクには、ご主人様がいるのです!♡♡♡」
「そうだよなァ。良い子だなァ、ロニー。」

 ロニーの手触りのいい黒いサラサラとした髪を撫でると、ロニーは感極まって「ふえぇっ!い、一生、お仕えしますぅ!」と泣き出した。
 泣き虫だな、こいつ。
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