【完結】縁起終夜の華麗なる異世界支配

荒巻一青/もふモフ子

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第一章:第三師団の陥落

第三師団へようこそ②

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 ***


「エンギ・シュウヤをお連れしました!」
「あぁ。通してくれ。」

 ハインリヒがそう言うと、団長室の扉が開かれ、一人の青年が入ってきた。
 縁起終夜。ゼネットが推薦した、新たな第三師団の団員である。

 終夜を案内した衛士は敬礼をして、部屋から出て行くと、残された終夜はぐるりと室内を見渡した。
 室内は広く、大きな窓から太陽の光が差し込む。中央に置かれたデスクには団長ハインリヒが座り、その左右に第三師団の面々が並んでいた。

「やぁ、初めまして。」

 ハインリヒはそう言うと、椅子から立ち上がり、終夜の元へと歩み寄る。団員たちの視線が一気に終夜に集まるが、終夜はそれをものともしないで自らハインリヒに近づいた。

「僕が団長のハインリヒ・ヴァン・デミールだ。君がゼネット教官の推薦で入団した、新人くんなんだよね?」
「はい。エンギ・シュウヤと申します。」

 そう言って終夜が軽く頭を下げると、「げー、マジ?」という小さな声が聞こえてきた。そちらへ目をやると、ケニーがコソコソとブラックに耳打ちしていた。

「あいつ……なんか陰気そうじゃね?前髪長いし、見るからにヒョロヒョロで筋肉ねぇし……。どう考えたって、戦闘要員じゃねぇぞ。」
「……まぁ、落ち着け。もしかしたら、魔法系の使い手か、事務作業に長けた人材かもしれんぞ。」
「そうかぁ?俺はそんなふうには見えねぇけど。フィオ姉はどう?」

 フィオナに話を振ったケニーは、彼女の表情を見て、すぐに口を閉ざす。
 フィオナは眉間にシワを寄せていた。

「フィオ姉?」
「フィオナ?」

 フィオナの表情に気づいたケニーとブラックが彼女を心配する言葉をかけると、フィオナはハッと我にかえった。

「あ、いえ……なんでもないわ。」

 フィオナは首を横に振り、微笑む。
 そんな彼女の様子を横目で見ていたハインリヒは一度、手を叩いた。

「とにかく、それぞれ自己紹介をしようか。ケニーから頼んだよ。」
「ハイハイ。」

 団長であるハインリヒから促されたケニーは肩をすくめて返事をする。

「俺は、ケニー・ロイネル。二つ名は『神速』。よろしく。」
「ブラック・レインだ。『黒騎士』なんて呼ばれている。分からないことがあったら、何でも聞いてくれ。」
「フィオナ・ローズベルよ。自分で言うのは恥ずかしいけれど、二つ名は『聖女』。怪我でも病気でも治せるわ。だから、何かあったとき、必ず助けてあげるから安心してね。」

 三人がそれぞれ名乗っていく中、終夜はまだ一言も喋っていない人物に気づき、そっちへ目を向ける。
 すると、その人物は、無表情のまま、淡々と口を開いた。

「……シュタイン・エルバドラ。」

 無表情な上に、口数の少ないシュタインに、ハインリヒは苦笑いをする。

「シュタインはうちの副団長だ。常に睨んでいるように見えるけれど、本当は義理を重んじるタイプでいいやつなんだよ。よろしくね。」
「……。」

 終夜は、黙り込んだままのシュタインを一通り観察してから、他の団員たちと同じように挨拶をした。

「改めまして、エンギ・シュウヤです。これから、ご指導ご鞭導の程、よろしくお願いします。」

 ハインリヒは満足げにうんうんと頷く。

「さて、これで全員終わったかな。改めて僕の自己紹介もしておこう。――僕はこの第三師団の団長を務めているハインリヒ・ヴァン・デミールだ。まぁ、色々抜けているから、いっつもみんなに助けてもらっているんだけど、ね。」

 照れたように笑い、終夜に手をさしのべる。終夜はその手を取り、握手を交わした。

「よろしく、お願いいたします。」

 彼の手を握りながら、終夜はハインリヒを観察する。
 へらへらと笑っているが、食えない人物だ。一癖も二癖もある『覚醒者』をまとめ上げていふ人間なのだから、他の『覚醒者』に比べて弱いということはありえないだろう。

(ハインリヒ、か。この男に関する情報は、早めにゼネットから聞き出すとしよう。)

 ハインリヒの手を離し、終夜は姿勢を正す。

「さて、何から始めようかな。なんせ、これまで新入隊員はいなかったものだから、勝手が分からなくてね。うーん……。とりあえず、建物内の説明とかしてしまおうか。ケニー。君にお願いしよう。」
「えぇっ!?俺ェ!?」

 いきなりハインリヒに指名されたケニーは驚く。

「うん。なんせ、君はシュウヤの先輩になるんだからね。」
「うっ……。まぁ、団長がそう言うなら……。」

 嫌そうな顔をしながらも了承したケニーは「ついてこい」と言って終夜を促す。

「シュウヤ。」

 終夜はケニーの後を追って団長室から出ていくところで、ハインリヒに呼び止められた。

「第三師団へようこそ。我々は君を歓迎しよう。」
「ありがとう、ございます。」

(こちらこそ、うまそうな男共は大歓迎だよ。)

 終夜は頭を下げ、団長室をあとにした。



 ***


 
 第三師団は『覚醒者』のみを集めた、ほんの数名の少数精鋭部隊である。
 そのため、第三師団は第五師団と共同で宿舎を使っている。第三師団に比べ、第五師団は百数人の団員を抱えているため、宿舎には訓練場や演習場、食堂や浴場など広い施設が揃っていた。

「ここが食堂。昼と夜の二回だけしか開いてねぇけど、美味いから、ちゃんと来いよ。」
「はい。」

 最初は不満げな顔をしていたケニーだが、先輩風を吹かせられることもあって、終夜が思っている以上に親切に案内をしてくれていた。

「で、こっちの扉の向こう側が女子寮になってて、男子禁制なんだぜ~。まぁ、覗きたい気持ちも分かるけどな。」
「はぁ。」
「……お前、聞いてんのか?」
「聞いてますよ。」
「そうか?だったらいいんだけど……。そうだ!フィオ姉の部屋にだけは入るなよ!すっごく美人で優しいから惚れちゃうのも無理ねぇけど、フィオ姉は副団長の婚約者だから、二人の邪魔をしちゃ殺されるぜ!」
「安心してください。そんな恐れ多いこと、考えてもおりません。」

 それに、性的な趣味嗜好を男性に向けている終夜にとっては、いくらフィオナが素敵な女性であっても好きになる可能性はゼロである。むしろ、終夜にとっては今案内してくれているケニーの方が好みだ。

「ふぅーん。ま、いいけど。」

 ケニーは興味なさげに返事をして、廊下の奥にある部屋のドアノブに手をかけた。

「ここは会議室、作戦会議をする場所だ。」
「はい。」
「次行くぞー。」

 それからも、宿舎内を歩き回り、一通りの施設の使い方を教えてもらった。

「よし、こんなもんかな。」
「助かりました。ありがとうございます。」
「へへ。気にすんなって!」

 終夜は、最後に一番気になっていることを質問する。

「ところで、ボクの泊まる部屋はどこに――。」
「お?もしかして、噂の新人か?」

 突然、背後から声をかけられた。終夜が振り向くと、そこには褐色肌の、背の高い男が立っていた。
 その男は、オールバックの茶髪で、目元に切り傷があった。服の上からでもわかるほど鍛えられた肉体をしており、顔立ちは整っているものの、無精髭と大柄な身体のせいで少し威圧感がある。
 しかし、ニカッと笑った顔はまるで太陽みたいで、彼の人柄を表していた。

「って、ナヴァル団長!いつの間にこっちに帰ってきていたんすか!おかえりなさい!!」
「おう!ただいま!まぁ、ついさっきだけどな。」

 ナヴァルと呼ばれた男は、ケニーに挨拶をしたのちに、終夜に視線を向けた。

「よう。俺は第五師団の団長を務めている、ナヴァル・エルバインだ。よろしく頼む。」
「エンギ・シュウヤです。」
「エンギか!珍しい名前だな!」

 そう言ってナヴァルは手を差し伸べてくる。終夜が握手をすると、強い力で握られた。

「あの、痛いです。」
「あぁすまんすまん。つい力んでしまったようだ。悪い悪い!」

 そう言いながら手を離し、バシバシとナヴァルは終夜の背中を叩く。行動も言葉も豪快な男らしい。

「第三師団に新人が入るなんて、前代未聞だからな!俺も気になって、急いで任務から帰ってきちまった!」
「すげぇヒョロヒョロでしょ、こいつ。」
「あぁ。こいつぁ、食った方がいいな!肉を!」

 またガハハと笑う。

「じゃあ、俺たちはこれで失礼しますねー。」
「お疲れ様です。」
「おう、ご苦労さん!エンギ。」
「はい?」
「第五師団の食堂はうめぇぞ!次会うときは、そのヒョロガリな身体、なんとかしておけよ!じゃねぇと、ここでは生きていけないからな!」

 再び笑い声を上げながら、ナヴァルは去って行った。

「ナヴァル団長っていつもあんな感じで声がでかいんだ。」

 ケニーの言葉に、終夜は頷く。

「はい。とても元気のある方ですね。」
「うちの団長が月なら、あの人は太陽みたいなもんだ。結構、第五師団の連中はナヴァル団長のこと慕っているんだぜ。あの人、結構兄貴肌で面倒見もいいからな。」
「へぇ……。」

(あれだけの筋肉量と体躯なら、美味そうだな。第三師団だけだはなく、第五師団にまであんな逸材がいるんだな。)

 そんなことを考えていると、ケニーが終夜の顔を覗き込んできた。

「シュウヤ?どうした?」

 終夜はハッとして、すぐに表情を取り繕う。

「いえ、なんでもありません。」
「ふぅん。まぁいいや。とりあえず、お前の部屋に行くか。」
「はい。」

 終夜はケニーの背中を追いかけた。
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