罪ノ贄

黒砂糖

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エピローグ

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 一月後――利樹の死体が、町からほど離れた雑木林から発見された。死体は落ち葉で半ば隠すように遺棄されていたという。
 結局、利樹の車は見つかっていない。海か湖に沈められたのだろうというのが、捜査にあたった警察の見解だった。
 利樹の死体があったのとはまた別の場所からは、女性のものと思われる黒焦げ死体も見つかっていた。肺にも損傷が見られることから、被害者は生きたまま焼き殺された可能性が高いという。死体の状態から、死亡推定時刻の解明はまず不可能であるらしい。


 桐村の自宅で火災があった翌日中に、修平は自分のアパートに帰った。ときおりニュースで、あの町で起きた事件の続報をたまに目にするくらいで、あとは大学の 講義にバイトにと、普段通りの日々を送っている。
 それでも真紀のことは――彼女のことだけは、どうしても忘れられずにいる。もうこの世にいないのは頭で理解しているつもりだった。それでもまだ日は浅く、そう簡単に割り切ることができない。
 夢魔だろうが何であろうが、もう構いはしない――また真紀に会いたかった。
 自室のベッドに寝転がっていると、真紀のことを考えるのを止められない。一睡もできない夜もあった。

 そして、この日の夜も――修平は眠れず、ぼんやりと天井を見つめていた。
 いなくなる前の真紀――夢に現れた女――そして早紀――彼女たちの顔が、次々と思い返される。
 早紀と夢の女は、同一人物だったようだが――。

 ――と、そのとき修平は、妙な引っかかりを覚えた。
 
 「…………ん?」

 おかしい――明らかに変だ。小さな引っかかりは、やがて大きな違和感に変わった。
 
 「な、何だ……?」

 あのときは、それどころではなかった。自分は何も見ていないはずだった――だが、彼の目は無意識のうちに、それを認識していた。
 
 「どうして……どういうことだ……?」

 体を起こそうとする――だが金縛りにあったように、なぜかいうことをきかない。
 思い出した――あれは見間違いではない。自分は確かに見ていた。
 あのとき――引き裂かれたブラウスから覗いた肌――。

 早紀の肌には、いくつもの青痣が残されていた。

 あれは何を意味するのだろう――真紀ではなく、なぜ早紀の体にあんな痣があったのか――。
 いや、そもそも自分は、大きな勘違いをしていたのかも知れない。
 真紀の部屋で見つけた避妊薬の袋――あれが早紀による偽装だったとしたら。
 早紀が真紀を殺して入れ替ったのもまた、自分と出会うより前だったとしたら――。


 ――白い肌が、視界に飛び込んだ。
 傷一つない、綺麗な肌だった。それは見間違いようない、修平にとって理想の女性の姿だった。
 女は修平の上に屈み、彼の寝巻きに手をかける。
 細くしなやかな指を動かし――一つ一つ、あえて緩慢な仕草で、女は修平の寝巻のボタンを外していく。
 体の自由は一切きかなくても、修平の目だけは、女の顔を常に捉えている。
やがて修平も全裸になった。
 女は何も語らない。修平も声が出せない。だからといって、そのことを不満に思うことはなかった。言語で伝わることなど、たかが知れている。そんなものがなくても、意思の疎通はいくらでも図れる。
 自分と彼女にだけ伝われば、それでいい。
 
 ――真紀……また会えた。

 頬を流れる一筋の涙を感じながら、修平はこの夢が永遠に覚めないことを祈った。

                                   (了)
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