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いきなきゃ。
しおりを挟むまず一ヶ月。
自覚もなくそれだけの時間を過ごした優子は、多くの事を学んだ。
一番重要な学びは、化け物を殺し続けると力が蓄積し、一定量を集めると自己強化現象が発生する事実。
この頃既に地上ではレベルアップと呼称され始めた現象が、変化前と変化後の違いをハッキリと自覚出来るほどに優子の体力も膂力も引き上げ、幼子に有るまじき思考能力も与え、自身が内包する蒼き炎に使う燃料の総量さえも増大させていた。
次に優子が大事だと思った学びは、現在自分が居る場所が普通じゃない事。
冷たい岩をくり抜いたような洞窟には小人の化け物と巨大なコウモリが居て、そんな危険な洞窟をひた歩けば、階段にしか見えない人工的な四角い穴を見付けた。明らかに普通じゃない。幼い優子にもそれだけは良く理解出来た。
その他には、元々薄く理解はしていたが、今回の出来事で優子は当たり前の事をより深く理解し、学べた。
それは人が生きるために行う当然の営みで、誰もが理解し、しかし殆どの人が真に理解し切れていない事実。
人は、食べないと死ぬ。
人は命を殺め、命を食んで生きている。
そんな当たり前の摂理を優子は真に理解した。そして口に出来そうな化け物を殺め、血にまみれながらその肉を貪って生き長らえている。
どれだけ燃料が無限にあっても、人は生きている限り腹が減り、当然ながら優子も空腹を覚える。そして最初は巨大なコウモリを適度に燃やしてはその肉を貪った。
優子は閉ざした精神で、レベルアップで得た知能で、生きる為の行動を覚えていく。
ナイトを殺した存在、小人の化け物だけはどうしても口にしたくない。そんな小さいワガママだけは絶対に手放さず、優子はあらゆる生き物を殺しては口にした。
最初の洞窟では小人の化け物と巨大コウモリ。階段を降りた先の洞窟には最初の洞窟に出て来た二つに加えて巨大ネズミと巨大な昆虫。さらに階段を降りれば小人の化け物が出て来なくなり、代わりに巨大な石くれの人形が現れた。
生きる為なら、己の糧になるならばおぞましい虫さえも口にする。
優子はもう、この頃には「ころす」、「しね」、「いきなきゃ」、「かえらなきゃ」の四つしか言葉を話さない野生児となっていた。
そんな日々を過ごし一ヶ月、優子は三層も続いた洞窟エリアを抜け、鬱蒼とした森林地帯へとやって来た。
深い森の中にポツンと建った石の箱から見る、まるで地上のどこかと見紛う森。自分は上から階段を降りて来たのに、真四角で地面から生えるように建った石の箱には、降りて来る上が存在しなかった。
久しく見てない陽の光が降り注ぐ空は青々として、中に階段がある石の箱とは無縁のようだ。上から来たのに、上がない。
それを見た優子は、この場所が本当に普通じゃなく、常識が全く通じない地獄なんだと再認識した。
それでも、もう優子にはそんな些事に驚くほどの純真も無垢も、残ってなかった。
「…………かえらなきゃ」
この一ヶ月でぐずぐずに腐り、絶え間なく異臭を放つ愛犬を背負いながら進む優子は、もう取り返しがつかない程の人間性を犠牲にしていた。
「………………いきなきゃ」
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