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ダンジョンムービー。(ここから優子視点)
しおりを挟む「…………それから、どうなったんでしょう?」
思い出した記憶を手繰った私は、だが自爆のような攻撃で銅竜をたぶん殺したところまでの記憶しか無かった。
そこで記憶が焼き切れて、私は自分の足であの地獄、目の前の医者がダンジョンと呼んだ場所から出た記憶が無い。
そもそも、私は自分ごとあの竜を殺すつもりだった。
だからこそ暴走する蒼炎の手網を手放して、限界を超えて火力を上げたのだ。
なのに、なぜ私は生きてるのか?
思い出したからこそ混乱してきて、答えを知っているだろう目の前のお医者さんに聞く。
「結論から言うね。君は確かにその時に気を失って、もう少しで死ぬところだった。そこをナイト君が助け、君はダンジョンの外に出たんだよ」
しかし返って来た答えは意味が分からない物で、あの地獄で増大した知性をフル回転させても、その言葉を理解出来なかった。
「…………?」
「分からないって顔だね」
「……はぁ、まぁ」
あまりにも意味不明な言葉を吐かれた私は一瞬、ダンジョンで磨かれた獣性が、研ぎ澄ました殺意が顔を出した。
自分の前でナイトの死を、その事実を弄ぶのか?
そう考えてしまった私は、著しく軽くなった殺しの引き金に指が掛かる。
その時銃口から飛び出すのは鉛玉では無く蒼炎だと理解して、私はお医者さんの殺害を視野に入れる。
ナイトの死は、誰よりも私が良く覚えてる。
ナイトは私を守って死んだ。その事実を私はちゃんと覚えてる。
それを、訳の分からない言葉で弄ぶと言うなら、その命を賭けてもらう。
「百聞は一見にしかず。まずはコレを見て欲しい。それで全部分かるはずだよ」
私が本気で殺そうと考えているなど分からないお医者さんは、手に持っていたタブレット端末を私に渡す。
「…………ダンジョン、ムービー?」
手渡されたタブレット端末の画面には、見たことも無い動画サイトが表示されていた。
「え、しかもこれ…………」
その動画サイトに表示されたページ。
タブレット端末の画面、そこに今出ている動画のサムネイルには、何故か薄汚れた自分の顔がデカデカと映されていた。
動画タイトルは「決死の三ヶ月」。
「…………なんで?」
「とにかく、その動画を見てほしい」
何がなんだか分からないまま、私は端末の画面をタップして動画を再生した。
そして始まる動画。
黒一色の画面はゆっくりと色付いていき、実際にあのダンジョンに居た私から見ると違和感しか感じないほどに明るい洞窟が映し出され、そしてそこに仰向けに倒れている私と、ナイト。
「……こ、こんなのっ、誰が」
「それも後で説明するから、今は見て欲しい」
こんな動画があるなら、つまり撮影した者が居たはずで、だったらその人が助けてくれたなら、ナイトは死ななかったかも知れない。
そう思うと、私の中で蒼炎が暴れ狂う。
ああ殺したい。殺したいっ…………。
なんで、なんでっ、なんでッッ…………。
だけどお医者さんは私にこのふざけた動画を見ろと言う。
なら、今は見る。大人しくする。だけど、見たあとに、私が納得出来るだけの説明をしてもらう。
もし、ほんの少しでも納得出来なかった…………。
チリリと、一瞬私の髪が、その毛先が蒼く燃えた。
「…………ッッッ!」
動画進み、すぐにナイトが目を覚ます場面を見せ付けられる。
この後、ナイトが死ぬ。気を失い続けたマヌケな私を守って、ナイトが殺させる。
見たくない。こんな動画見たくない。でも、見たい。ナイトの最後を、私が見れなかった家族の最後の瞬間を。
心がぐちゃぐちゃになりそうで、まだあの小人の化け物が登場してもないのに涙が出て来る。
画面の中のナイトは、目を覚ますとすぐに私を探して視界を回し、そしてすぐ側で気を失ってる私を見付けると、嬉しそうに傍に駆け寄る。
私を起こそうと前足で揺らすナイト。起きない私を心配して、私の顔を覗き込み、ぺろぺろと舐めて起こそうとする愛しい家族。
もう会えない。二度と会えない。もうナイトが私を揺すって起こす日は来ない。ナイトが私の顔を嬉しそうに舐める日も来ない。
二度とそんな日はやって来ない。
殺意が、憎悪が、ドロドロと湧き出てくる…………。
ほとんど無意識で私の毛先が蒼く燃える。チリチリと小さく燃えて、溢れる感情を薪にして燃やそうとする。
「辛いと思う。でも見て欲しい。いや、君は見るべきだ。ナイト君の為にも、君はこの動画を最後まで見るべきなんだ」
お医者さんがそう言う。
私も、ナイトの最後は見るべきだと思う。じゃないとナイトが、こんな場所で誰にも見られずに死んだナイトが可哀想だ。
でもなんで、最後まで?
ナイトはこの後死ぬ。この後すぐに死ぬんだ。
嫌がる私に関係なく、動画は進んでいく。
ほら、もう小人の化け物が出て来た。この後ナイトは戦う。私を守ってボロボロになる。そして私が目を覚ます前に死ぬ。殺される。
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