Blue Flame Little Girl 〜現代ダンジョンで地獄を見た幼女は、幸せに成り上がる〜

ももるる。

文字の大きさ
10 / 153

暴炎。

しおりを挟む


 自己防衛などもう知らない。
 
 安全も安寧も、もう要らない。

 心を取り戻した獣がえる。

「殺してやるぅぁぁァァアアッッッ……!」

 腕は折れてる。

 武器は無い。

 有ってもこの腕では持てない。

 優子は思う。--だから・・・どうした・・・・

「燃えろぉぁあァアッッ……………!」

 この地獄では最初からそうだった。

 斧なんて最初から無かった。

 敵を殺せる腕力なんてなかったんだから。

 ずっと、ずっと、優子はこの地獄で燃やしてきた。

 ただ燃やしてきた。憎悪も、敵も、ただ燃やしてここまで来た。

 だから最初のように、最初と同じで、ただ燃やせばいい。

 この怨みを焚べた蒼い炎で、総てを残らず燃やし尽くせば良い。

「よくもナイトをぉォオぉぁぁァアぁッッッ……!」

 優子の殺意が燃え盛る。

 全身から吹き出した蒼炎が広大な空間を最大火力で埋め尽くす。

 とどめを刺すために接近していた銅竜が悲鳴をあげる。空間の総てを燃やされてはどうにもならないらしい。

 ナイトを返せ。ナイトを還せ。ナイトを帰せ……!

 身に余る憎悪は凍える程の蒼を炎に宿し、もう優子にすら制御出来ない段階まで暴走する。

 自身すら消し炭になりかねない炎を前に、優子はそれでもいいやと考えた。

 ナイトと一緒に帰りたかった。優しい場所に帰りたかった。

 もうナイトは居ない。ナイトは死んだ。亡骸すら四散した。

 残ったのは腐った屑肉と、ドス黒く固まった血液ヘドロと、傷んで砕けた骨片だけ。

 もうそれはナイトじゃない。ナイトの形すら失った生ゴミだ。

 怨念が煮え滾る優子に、犬の鳴き声が聞こえる。

 ああ、頭がおかしくなって幻聴が聞こえ始めたのかと、優子は逆に吹っ切れた。

 ここまで壊れたら、もうダメだろう。幻聴が聞こえる子供なんて、帰ってもろくな人生が送れない。

 だからもう、優子は生存をすら諦めた。

 だけど。

「だから」

 お前だけは。

「絶対に」

 殺す。

「確実にッッ…………!」

 優子は蒼炎に更なる怨みを焚べた。更なる火力を求めて憎悪した。

 全身を焼かれながら燃料・・を奪われる銅竜。

 ふと見ると、蒼炎の一部が愛犬の姿を象って自分を見ている気がした。

 優子は幻聴に続いて幻覚まで見え始めたと、乾いた笑いで更に・・吹っ・・切れた・・・

「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ」

 全部燃えろ。すべて消えろ。

「こんな場所に落ちた現実も、ナイトが死んだ事実も、家族を殺した奴も、ナイトを守れなかった自分わたしも、全部全部……、残らず総て燃え尽きろぉぉぉおおおッッッッ……!」

 優子は辛うじて握っていた暴走する蒼炎の手綱を、意図して手放した。

 もう総て燃えてしまえと願って、何もかも消し炭になってしまえとこいねがう。

 幻覚のナイトが、蒼炎で象られたナイトが悲しげに優子を見ている。

 生きて欲しいと鳴いている泣いている

 だからこそ、優子は薪を足す。

 守れなかった癖に、死なせたナイトの幻覚まで産んで縋り付く、弱い自分ごと燃えて無くなるように、ありったけの愛情さついを蒼炎に焚べる。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええッッッッッ…………!」

 蒼がはしる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...