23 / 153
妹。
しおりを挟む愛する妹に殴られた。
レベルが上がって凄く丈夫になってる私だけど、それに合わせて体重まで増えた訳じゃなく、つまり勢いよく殴られれば吹っ飛ぶのだ。
私はベッドから吹っ飛んだ。
「ま、マーちゃんっ!?」
「おねーちゃんのバカバカバカァァァアッ!」
「ちょっ、まっ……! なにっ!?」
ベッドから落ちた私を追い掛けて、追撃のポカポカを叩き込む妹は鬼のような形相で、でもあの時の私みたいに泣いていた。
「おねーちゃんのバカァ! おねーちゃんバカ! バカァ!」
「まっ、待ってマーちゃんっ、お姉ちゃん何がなんだかっ」
迷宮事変前の私なら結構痛かったと思うけど、今の私には少しの痛痒もない。だけど、本気で怒っている真緒の拳は心が痛い。
なんで怒ってるのか分からないけど、真緒を怒らせちゃったなら謝りたい。そう思って私は口を開き、それを聞いた真緒はさらに怒りを滲ませた。
「なんで、なんでおねーちゃんさいごあきらめたのっ!? なんでぜんぶ燃やそうとしたのっ!? まお待ってたのに! おうちで待ってたのに! おねーちゃんのこと待ってたのにぃッ! おねーちゃんのバカァァァァァアアアアッッ……!」
頭が、真っ白になった。
真緒は、たぶん銅竜と戦った時のことを言ってるんだと分かった。真緒も決死の三ヶ月を見たんだ。全部見たんだ。
「ナイトがんばってたのに! なんでおねーちゃんあきらめたのっ! バカバカバカバカバカァァァアッ……!」
「ごめっ、ごめんねマーちゃっ……」
「やだゆるさない! ぜったいゆるさない! おねーちゃんのバカ! おねーちゃんはバカだァァアッ……!」
そうだ。私はあの時、諦めたんだ。
こんなに怒ってるのに、絶対に「嫌い」とは言わない優しい妹の元に帰ることを、私はあの時諦めた。
ナイトが死んでも私を守ってたのに、私は復讐だけに囚われた。
「おねーちゃんはっ、おねーちゃんはまおのこと嫌いなんだっ! だからあきらめたんだっ!」
「ちがっ、違うよマーちゃん……!」
「ちがわないもんっ! おねーちゃんあきらめたもんっ! まおは待ってたのに、おうちでおねーちゃんが帰ってくるの待ってたのにぃぃっ! おいのりしたのにっ、おねーちゃんが帰ってくるのお祈りしたのにっ、おねーちゃんはあきらめたもんッッ!」
真緒の小さな手が、凄く痛い。殴られる度に心が軋んで痛い。
あの時私は、自分だけが辛いと思ってた。
地獄に落とされて、ナイトが殺されて、ひとりぼっちで、口にしたくも無いおぞましいモノを口に詰め込んで生き長らえて、たくさん怪我して、死にそうになって、自分が世界で一番不幸だと思ってた。
違う。全然違う。DMで私の身に起きた全部を見て、見せ付けられて、涙を流して心配してた家族が居たのに。
あの時の私を見た家族は何を思っただろう。
自分ごと銅竜を焼き殺そうとする私を見た家族は、どれだけ辛かっただろう。
ダンジョンの最奥なんてどうしようもない場所に居る私を、助けに行けない自分たちを責める家族が、命を諦めた私を見た時に何を想っただろう。
馬鹿だった。真緒の言う通り、私は馬鹿だったんだ。
もちろん私は、その時DMのことなんて知らない。生放送されてるなんて知らなかった。勝手に動画が上がるなんて知り得なかった。
でもそんなのは関係ないんだ。
私はあの時諦めて、真緒は諦めて欲しくなかった。
同じ不幸の中に居たのに、私は自分のことだけを考えて命を放り出した。真緒はずっと私のことを想ってくれたのに、私はあの時家族を諦めた。
「おねーちゃんはバカだァァァアアッッッ!」
何も言い返せない。一から十まで全部真緒の言う通り。私は馬鹿だった。
殴られて分かる。真緒はまだ魔力なんてその身に宿してない。
ダンジョンとは関わりがない。だからレベルアップなんてしてなくて、歳相応の心と知性を持った私の妹だ。
そんな真緒が、画面の向こうで命を捨てる姉を見た時、どれだけ怖かったのか。
「マーちゃ……」
「ゆるさないもんっ! ぜったいゆるさないもんッッ……! まおの大好きなおねーちゃんを傷付けたおねーちゃんを、まおはぜったいゆるさないもんッッッ…………!」
例え私自身だったとしても、大事なおねーちゃんを傷付けるなら許さない。
そんな妹の怒りと愛情が、ただただ痛い。
こんなに大事にしてくれたのに、こんなに愛してくれたのに、私は真緒より銅竜を取ったんだ。
顔向け出来ない。情けなくて真緒の泣き顔が見れない。
「まっ、真緒っ!? お前何してんだっ!?」
「真緒ちゃんっ!?」
両親が病室に入って来て、私を殴る真緒を慌てて引き剥がした。
ずっと見ていたナイトは心配そうに私のそばに来て、それでも慰めることはしなかった。
分かる。今なら分かる。
ナイトは戒めてるんだ。軽々に命を放り出したあの時の私を、「二度とやるな」と戒めてるんだ。
そうだ。そうだよね。ナイトはずっとそばに居たんだから、ずっと私を見てたんだ。
地上で心配してるみんなの代わりに、命を燃やして私を助けてたんだ。
それなのに、私は全部投げ捨てた。
「………………ごめんね、ナーくん」
「…………わふっ」
今頃気が付いた。こんな大事な事に今頃思い至った。
なんて馬鹿なんだ。アイズギアに浮かれてる場合じゃなかった。お金の事なんてどうでも良かった。
私はまず、家族に謝らないといけなかった。
「…………ごめんなっ、さいっ」
両親が戸惑ってる。妹が泣いている。ナイトが見てる。
私は、暖かい場所に居る資格があるの……?
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる