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プラン。
しおりを挟む取り敢えず、DM生配信があるとペイートしてたのに一時間で終わってしまったお詫びをペイッターに呟いて、再準備が出来次第またアタックする予定をネットに投げて置く。
それから魔力が枯渇した二人のそばで、私のインベントリから取り出したMPポーション的なお薬を焚いておく。
本当は内服する水薬なんだけど、加熱しても効果には変化が起きないらしいので、火にかけてる揮発させてる。
すぐ傍で鍋に入れて温めたMPポーションが気化して、その成分を二人がゆっくり呼吸して摂取出来ればいいと思う。買っといて良かったキャンプガジェット。
流石に急いで無いし、口移しとかはちょっとね。別に大好きな家族にだったらしても良いけど、緊急性も無いのにちゅっちゅするのは変かなって思うので。
ちなみにMPポーションはまだ世の中に出て無いので、多分五層より先でドロップするアイテムなんだと思う。
私も相変わらず五層以降でドロップする物がよく分かってないんだよね。私のインベントリの中にある、現在四層まででドロップした記録の無いアイテムは五層以降のドロップなんだろうなって漠然と思ってるだけだ。
「うーん、どうしようかな」
正直、予定が狂った。
もちろん良い方向にだけど。でも狂い方が大き過ぎて、予定を大幅に変えざるを得ないのも事実だ。
「んー、予定通りなら蒼乃式レベリング理論をDM生配信で披露するつもりだったのに」
世の中のダンジョンアタッカー達がもたらす情報やDMの動画、SNS、ニュースサイトやテレビ番組等々、様々な情報を精査した結果…………。
私は、世間で広がってるレベリング理論が間違ってると理解した。
だから一年も経って、未だに銅級五層もクリア出来ないんだ。
いくらスキルに覚醒してるとは言え、年齢一桁の子供が死ぬ気を尽せば何とかなる程度のダンジョンで、一年も足踏みをしてるのはオカシイと思ってたんだ。
世間のレベリング理論が、方法が間違ってる。
そのせいでステータス的にダンジョンを攻略出来る指標に至ってない。
この世界は、ダンジョンは、ダンジョン攻略の指標に使うべき推奨基準がレベルじゃなくてステータスなんだ。それを世界が理解してない。
その辺の事をお母さんと真緒のレベリングついでに配信しちゃえば、もしかするとタイムリミットまでに銀級ダンジョンに挑戦出来るかも知れない人材が増えるかな……、なんて考えてた。
「でも、覚醒しちゃった…………」
だけど、二人ともゴブリンを目にしただけでトラウマがフラッシュバックして覚醒してしまった。
こうなると、レベリングの理論が同じでも配信による効果が変わってしまう。
なぜなら蒼乃式レベリングで効果が出ても、それは『覚醒者が特別なのでは?』って言われると否定出来なくなるから。
非覚醒者でもレベリングのやり方次第で五層もちゃんと突破出来るって説得力が欲しいのに、お母さんも真緒も、二人ともが覚醒してしまった。
「悪い事じゃ無いんだけどなぁ」
むしろ、圧倒的に良い事だ。
ダンジョンが持つある種の不文律として、『瞬間火力が有れば死なない』なんて法則がある。
絶対じゃ無いけど、それでも『一時的にモンスターを一掃出来る』火力が有るなら、帰還が楽に行える。よって死なない。ないし死にづらい。
そしてアタッカーが持てる最大出力とは、やっぱりスキルなのだ。だって私は今のところ、私以上の火力を持ってるアタッカーを知らない。
これは私がレベル8だからって事じゃなくて、例え同レベルだったとしても、私の火力は群を抜いてるのだ。
私だけじゃなく、覚醒者は基本的に火力が高い。ああ当然、攻撃系のスキルのおはなしだけど。
もちろんどんな事情があれ、火力が高いのはほぼ無条件に良い事だ。それは私のスキルに限らず。
つまり要は本当に危険な状況でも火力でゴリ押しすれば逃走の隙を作れるって事だから。そしてスキルとは、殆どがどんな体勢、どんな状況でも魔力さえ有れば意思一つで行使出来る暴力である。
例えば、三桁あまりのゴブリンに集団でボコられたりすれば、普通のアタッカーなら何も出来ずに死んで行くだろう。
けど、スキルなら思うだけで、考えるだけでゴブリンを薙ぎ払える。一瞬でも自分の周りに空白地帯を生み出せる。空白地帯を生み出せたなら、ゴリ押しで帰還出来る。
それは、基本的に安全地帯が存在しないダンジョンに於いて、とてつもないアドバンテージだ。
お母さんも真緒も、そんな力を手にして安全性が跳ね上がったと思えば喜ばしい事で間違い無い。
「ただ、やっぱりスキル持ってると育成方針が変わっちゃうんだよなぁ」
非覚醒者が率先して伸ばすべきステータスは膂力と耐久、次いで敏捷か。魔力を使える環境に無いから、魔力を伸ばす意義は低い。
けど覚醒者は逆に他のステータスよりも優先して魔力を上げるべきだろう。なにせ魔力がスキルの威力と使用率に直結するんだから。
「育成方針プランが反対になっちゃう…………」
でも、でもでも、やっぱり覚醒したのは良い事だ。
二人とも攻撃系スキルっぽかったし、それなら育成しだいで銀級も問題無く戦えるはず。これは僥倖って言って差し支えない。
二人の命が失われる危険が遠のいた。まず喜ぶべきだ。
「うん、よし。二人が起きるまで、育成プランの練り直しでもして待ってようか。それで、起きたら二人におめでとうって、ありがとうって言おう」
私の三ヶ月を、覚醒しちゃうくらい悲しんでくれて、怨んでくれてありがとうって。大好きだよって。
ありがとう、お母さん。真緒。私は浅田家に産まれて、幸せだよ。
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