82 / 153
経験の種類。
しおりを挟む「よし、もう充分ゆっくり休んだよね」
「そうね。お母さんも、もう大丈夫よ。フラムちゃん、ありがとね」
「おかーさんげんきになったー!」
おほぉ~いお茶500mlをゆっくり飲み切って、私がスティッカーズを二ケースほどムシャムシャする頃に、お母さんが復活した。
お母さん曰く、「歳を取るとね、身に付けた常識が壊れるだけで歩けなくなるものよ」って。
いやいや、お母さんまだピッチピチだよ。そんな親戚のおばちゃんみたいなこと言わないでよ。
「とは言っても、あとはもうこれ一つ教えたら終わりなんだけどね」
「その、レベルの秘密についてね?」
「うん。まぁそんな大した事じゃないんだけど……」
「おねーちゃん。ニクスは、もうじゅーぶん『たいしたこと』だとおもうなぁ……」
「ニクスちゃんの言う通りね。フラムちゃん、情報の爆弾だって自覚してね」
ササッと話して今日は終わろうかと思ってると、お母さんとニクスに呆れられた。いやいや待って欲しい。
「え、いや、私が他に抱えてる情報爆弾に比べたら、コレは本当に大した事じゃないんだよ? 五層以降で手に入るドロップとか、爆弾ばっかりだよ?」
「…………言われてみれば、フラムちゃんが平気な顔して出してるこのお薬も、結構な爆弾だったわね?」
お母さんがポーションの空瓶を持ってそんな事を言う。うん、その通りなのである。
五層以降でしか手に入らず、現代医学では治せない類の怪我や病気すら治せる可能性が見えてるポーション類は、何をどう考えても爆弾だ。
ただポーションも、結局は重い怪我や病気に悩む人と、その家族。あとは医療関係者が騒ぐだろうってだけなので、これも言うほどの爆弾じゃない。他と比べたら爆竹程度だ。
私のインベントリに眠ってる銅竜素材。これは世界中の人々に関係しちゃう特級の核爆弾なので、コレの公表には本当に悩んでる所だ。
世間に新種の金属、合金を大量に増やし、尚且つ現在だってクリーンエネルギーとして賑わってる魔力発電に更なる躍進を約束する素材でもあり、魔法の存在を確定的に肯定する素材でもある。
うん、爆弾過ぎる。手に負えない。
本当なら特注の武器は銅竜素材で作りたいところなんだけど、本当にコレを表に出して良いのか、未だに悩んでる。その内、笹木さんに相談しよう。そうしよう。
一緒に胃に穴を開けようよ笹木さん(にちゃぁ……)。
「で、もうパパッと行くけどさ。レベルを上げる為に必要な経験値って概念だけど、実はコレ、一種類じゃ無いんだよね」
「………………? えっと?」
理解し切れないお母さんが、心底悩むように眉根がシワシワになってる。ああお母さんの綺麗な顔が台無しだよ…………。
「えーとね……? 私が言い張ってるコレ、ダンジョンから付与される経験値って概念は、レベルアップの為だけに使われる要素じゃなくて、ステータスアップの為の素材でも有るの」
詳しく説明すると、ダンジョンから得られる経験値は『レベルアップの為の経験値』では無く、『膂力アップの為の経験値』や『魔力アップの為の経験値』等々、ステータスの五項目に対応した経験値が貰える。
ああ、断言してるけど結局は私の推測に過ぎない。けど、私は確信してる。だからこうだと言い張る。
「簡単に言うとね、経験値を『ポイント』って呼び方をするとして、膂力ポイント、魔力ポイント、敏捷ポイント、技量ポイント、耐久ポイント……、この五種類の経験値が存在すると仮定して、これらを総合して一定量に届いたらレベルアップって形になって現れる。それで、レベルアップした時に貯まってた経験値に対応したステータスが、貯まってた経験値分だけ上昇する仕組みなんだと思う」
そして、
「それで、私はこの経験値に『密度』が有ると思ってる。例えば100ポイント稼いだらレベルアップ出来ると仮定してね? 私の三ヶ月みたいなギッチギチに経験が詰まった漆黒の100ポイントと、モンスターを囲んで安全に袋叩きして得た薄灰色の100ポイント。…………どっちの方が強くなれると思う?」
これが、私と世間の乖離。
私は端末なんて無くて、帰還出来なくて、諦めた時点で『死』が確定する環境で戦ってた。
対して今の世の中は、危なくなると帰還するのは大前提として、可能な限り複数人で安全を確保しながら、作業的にモンスターを討伐している。
この二つを比べて、どちらの経験値の方が重いかを調べたら、まぁ順当に私の方が勝つよね。
「ああ、ちなみにだけど」
経験値が五項目って言うのはあくまで仮定だ。他にもステータスに表示されてない『連携』とか『集中力』とか、そう言うのにも経験値が発生してる可能性はある。
「だから、世間のアタッカーさん達はもしかすると、『連携』の経験値ばっかりが貯まってステータスが伸びないのかも知れない。ステータスには『知性』の項目なんて無いのに、私は見て通りに歳相応の知性じゃ無くなっちゃったし。多分マスクデータは有るんだと思う」
むしろ私の知性こそがその実証だと思ってる。
「要は、ステータス八段階評価はあくまで『そのレベルではどのくらい強いか』って評価だから、どれだけレベルを上げても、レベル毎の平均値を超えないなら評価も上がらないんだよ。レベル上げて行けば能力値は上がってくけど、ステータスに表示されてる評価は『そのレベルでの評価』だからね。『今は弱くても仕方ない』とか、そう言う仕組みじゃない」
もちろん、まだ仮定の話しばっかりだ。
「私が感覚的にでもまだ把握出来てないから、戦闘以外の事でも経験値が発生してるのか否かは分からない。私の三ヶ月が丸々評価されてるのか、それとも戦闘だけを評価されてるのか…………」
でも、私は確信してる。
「ダンジョンでは、苦労と困難の密度でステータスの上昇幅が増減する」
これを意識して攻略して行かないと、いつまで経っても人類はダンジョンに対して後手に回る。
「………………フラムちゃん、これで大した事無いの?」
「えっ? あぁ、うん。序の口?」
「……フラムちゃん。お家に帰ったらちょっと家族会議を開きましょうね」
「はーい」
私が口にした推測を理解して困惑してるお母さんと、そもそも良く分かってないニクス。
「えーと…………。おねーちゃん、どーいうことなの?」
分かろうと頑張ってたけど、結局分からなかったニクスが私に聞く。ちゃんと質問出来てニクスちゃんは偉いなぁ~。
「ものすっごく簡単に言うとね?」
「うんっ」
「ダンジョンでは真剣に頑張ってレベル上げると強くなって、不真面目にテキトーなレベル上げをすると強くなれないの」
「そうなの?」
「そうなの。ほら、おねーちゃんは三ヶ月で凄く大変な思いをしたでしょ? だからとっても強いの」
「そっかぁ! おねーちゃんすごーい!」
可愛いのできゅっと抱き締める。私の妹は世界一可愛い…………。
「じゃぁ、ニクスもたくさんがんばるねっ! おねーちゃんみたいにつよくなるぅー!」
語りたい事は語り終えて、ダンジョンに慣れるって目的も達成してる今回のダンジョンアタック。
妹が可愛くてメンタルがふにゃふにゃになったし、丁度いいから今日はここまでだ。
「よし、じゃぁ今日は帰ろっか」
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる