Blue Flame Little Girl 〜現代ダンジョンで地獄を見た幼女は、幸せに成り上がる〜

ももるる。

文字の大きさ
94 / 153

リアルわんわんお。

しおりを挟む


「わんわんわんわんわぁぉぉぉぉお~~~んっっ!」

 グレートソードを咥えたナイトが横滑りするように駆け抜け、九層の荒野に出没する砂色巨大タランチュラの脚を切断する。

 ナイトが斬った反対側の脚に私が駆け寄り、しなるシャフトをそのままにゴスドラを叩き付ける。

 ゴスドラが持つ斬れ味と重さによって脚一本で留まらず、連続した手応えを感じる頃には片側四本中三本の脚を斬り飛ばしてた。残りは腕代わりに使う前肢のみ。

 こうしてエヅォルエイトって名前らしい大蜘蛛を達磨・・にしたら、ナイトに合図した後、次が来ない内に私はコイツを生き・・たま・・ま解・・体だ・・

「凍っちゃぇぇえええッッ!」

「墜ちなさいっ……!」

「わぉんっ!」

 九層でまた二人に無茶をやらせながら、私はその内に蜘蛛を解体。お尻を斧で叩き割って蜘蛛糸を回収する。

「むふぅ、これを使えばもっと丈夫な防具が作れるね。ここまで用意すれば、銀級も多少は安心でしょ」

 新装備を手に入れた私達であるが、実のところ私は全然満足して無い。というか永遠に満足する事は無いだろう。

 例え核弾頭の直撃も耐えられるレベルのスペシャルな防具を手に入れたとして、私はそれでも安心なんて微塵も出来ない。

 だって、銅級のボスであれだよ? ローキック一発で高層ビルを粉々に吹っ飛ばせそうな化け物だよ? なら銀級は? 金級は? どんな化け物が居るの?

 その化け物と核弾頭って、どっちの方が強い?

 私には安心出来ない。今だって家族に無茶させてるストレスで頭掻き毟って舌噛み千切りたいのを、それでも私とナイトさえ居れば死なずに済むからって無理やり納得して、ギリギリ我慢しながらレベリングしてるんだ。

 なのに、安全かどうかも分からない防具で耐えられるかも分からない攻撃を食らう? 冗談じゃない。

 だから限界まで準備する。ほんの0.1%だって家族の危険が退くなら、今のうちに何でもやる。

 ストレスで私の脳内がブチッと出血しそうなのも我慢しながら、それが必要なら唇を噛み千切りながらやってみせる。

「んー、どうせ研究や試作にも必要だろうし、もう少し数を確保しとこうかな」

「ナーくん、しばらく二人をよろしくね」

「わんわんぉーん!」

 リアルでわんわんおって言う犬初めて見たよね。うちのナイトは留まるところを知らないな。

 ああ、そうだ。凄く今更だけど、リアルわんわんおであるナイトも、家のパソコンからDMアカウントを作り直させたら、やっぱりスキルを発現してた。

 可愛いお足あんよでキーボードをかちゃかちゃするナイトは鼻血出るほど可愛かったけど、そうやって『NAITO』って入力してDMにログインすれば、そこには私と同じでレベル8の勇者が居た。

「…………守護霊、か」

 ナイトがスキルに付けた名前だ。辞書やら広辞苑をひっくり返して「これ、これ!」とナイトが指し示したので、その通りに私が入力したスキル名。

 その効果は、霊体となって守護したい対象にき、魔力を消費する事で物理法則や魔道則を捻じ曲げてあらゆる方法によって対象を守護する。そう言う効果だった。

 もう、ね。私はこの事で何回泣けば良いんだよって、ボロボロ泣いちゃった。

 DMにしては珍しく、守護霊化についても詳しい記述があったので読んだのだ。

 霊となった存在は、その精神も霊体も何もかもが魔力由来なので、魔力を使い切った時点で二回・・目の・・死を・・迎え・・って。

 ナイトは、ダンジョンで、私を助ける度に文字通りに命を削ってたんだ。あの三ヶ月、私のヘマをどれだけ助けられたかを思い出すと涙が溢れて止まらない。鼻の奥がツーンとして、鼻をずるずるとすすりながら戦うしかない。

「…………八つ当たりさせろっ」

 蒼炎を噴いて軽く滑空しながら蜘蛛に迫る。前肢と鋏角を広げて威嚇する虫ケラを、私は構わず叩き潰す。

 肘や膝、足の裏、更にはゴスドラから蒼炎を噴いてコマのように回転、遠心力を増し増しに乗せた一撃で半身をクシャッと斬り潰した。

 殺しはしない。これで瀕死だ。

 コイツ、何故か殺すとお尻の蜘蛛糸が問答無用で硬化していくのだ。回収するには半殺しからの生きたまま解体ってルートしかない。

 まぁ、数狩れば普通にドロップもするんだけどね。解体でも手に入るならそりゃ狙うよ。

 半身を叩き潰した蜘蛛のお尻をカチ割ろうとすると、別の個体が空から降って来る様子が気配で分かった。いやどっから来たテメェ。

 七層から九層までは荒野であり、私達は上を気にしなくていい場所を選んで戦ってた。身の丈を超えるデカい岩とか無い場所ね。頭の上から、空から降って来るのは絶対おかし…………、

「--ああ、いや、あっちの大岩から大ジャンプして来たんだな? よっし死ねッ」

 降って来る場所とタイミングさえ分かってれば問題無い。着地地点に合わせてゴスドラをフルスイングして真芯にミートした。胴体から真っ二つだ。

「……もう、蒼炎すら要らないなぁ」

 下手すると武器も要らない。殺してしまったからもう良いやと、握った拳で斬り裂いた死骸を殴って吹っ飛ばす。

「…………私でも、武器縛りして重りでも背負えば、まだ此処でレベルアップ出来るかな?」

 ま、今はお母さんとニクスのレベリングが先だからね。自分は後回しで良いや。と言うか、銀級行けば普通にレベリング出来るんだろうし。

 ナイトの方を見れば、今も必死にエヅォルエイトと戦ってるお母さんとニクスをナイトが「わんわんお!」と吠えながら守ってる。

 ナイトが使ってる蒼炎は私の魔力から持ち出しなので、ナイトに負担はほぼ無い。

 ナイトも普通にアタッカーと同じで時間経過で魔力を回復出来るらしく、私の許可を得て蒼炎をジャックする程度なら大した消費にならないそうだ。

 あの様子ならサポートをミスる事も無いだろう。まぁ、そも、そんな事はミリも考えてないんだけど。三ヶ月も死にかけまくった馬鹿わたしをゴールに導いたスーパーお犬様だもん。

 今更、初心者二人の安全かつスパルタなキャリー行為なんて、朝飯前のはず。いや今は時間的に夕飯前なんだけども。

「さてさて、そろそろキャンプ作っちゃおうかね」

 苦行としか言えない戦闘を続ける家族を尻目に、私は寝泊まりの準備をする。

 銀級ではもっと本格的にダンジョン泊が必要になるし、今のうちに予行練習だ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...