141 / 153
この後どうするか。
しおりを挟む「…………え? 目の前で発動が条件なんじゃ?」
「バッカさねぇ。上級の攻撃魔法なんか、町中で使われて見なさいな。大変な事になるじゃないさ」
翌日、ニクスがランク4の発動に成功したので、条件をクリアするべく魔法ガチ勢おばちゃんの所まで来たのだけど、思いっきり馬鹿にされた。
おばちゃんは私達が店に来るなり、カウンターの奥から私達を見て、「おや、出来たみたいだねぇ。なら、鍵はそこの棚だよ。……あたしゃ炎の子がやると思ったんだけど、妹に先越されたのかい? だらしないねぇ」とか言って、さっさと鍵を売り付けてきた。
「大体、発動出来たのかくらいは見りゃ分かるのさ。生涯を魔法に捧げたババァを舐めるんじゃないよ」
と、言うことらしい。解せぬ。
「あぁそれと、アンタらが欲しがってたアイテムを作っておいたよ。スクロールってんだろ? この先、アンタらみたいな旅人が増えるなら売れるだろうからねぇ」
「え、マジ!? どれ、どこっ、いくら!?」
「そっちの棚さね。値段はピンキリだよ」
鍵さえ手に入れば、こんなもふもふで気が利いてツンデレ気質な可愛い可愛い獣人おばあちゃん魔女の家になんて用はない! でもたまに遊びに来るからね! って思ってたら不意打ちされて陥落した。
マジかよスクロールめっちゃ欲しい。使い捨てに出来る量産品って言うのは譲れないアドバンテージがあるのだ。
使い回せる魔導具が上位互換だと思う人は多いだろうけど、決してそんな事は無い。使い捨てなら盗まれても一回しか使えないし、奪い返す労力も要らない。だってまた買えば良い。
魔導具なら壊れるまで盗人に使い回されるし、必要なら取り返さなきゃダメだ。だって買い直すの高いし、素材的に一点物って場合もある。
他にも、荷物が持ち切れないなんて場合にも、容赦無く捨てて行ける。量産品だからまた買えば良い。今は希少なドロップを持ち帰るんだ。って感じだね。
他にも、使い捨てだからって利点は少なくない。要するにスクロールは神アイテムだ。
「ぐぬ、魔導具よりは安いけど流石に高い……!」
「あ、おねーちゃんこれ、コルドゥラだね」
「マジかよ買おう」
「高いわよ?」
そう、高いんだよなぁ。ランクにもよるけど、安くても5000DDとかだ。コルドゥラなんて28000DDもする。買うけどね。
「しっかしまぁ、アンタらも物好きだねぇ。魔法専門って言うよりは戦士寄りの癖に、わざわざウチで鍵買うかい?」
「…………………………は?」
ウッキウキでスクロールの棚を漁ってたら、突然後ろから信じられない言葉を聞かされた。
は、え? 待っておばちゃん。それ、まるで他にも鍵の入手ルートがあった様に聞こえるよ?
私が信じたくない思いでおばちゃんに問い掛けると、おばちゃんは逆に「知らなかったのかい?」と言って、真相を教えてくれた。
「武芸百般のところで『武技』を見に付ければ、その祝いに鍵を貰えるさね」
師範ッッ!? 教えといてよ師範ッッッ……!
て言うか武技って何!? 此処に来て新要素は止めて!?
こうして私達は、少なくないダメージをメンタルに抱えながら宿に帰った。もちろんスクロールは買ったよ。
宿の食堂で適当に食事を注文しながら、三人と一頭で相談する。
「で、どうする?」
「土壇場で選択肢が増えたものねぇ」
「おねーちゃん、ぶぎってなに?」
「私も知りたいよ…………」
私達に許された選択肢は、ダンジョンブレイクを誘発してニクスのコルドゥラで確実に災害を止めるか、六層に言って順当にヒートゲージを下げるか、この二択だった。
けど、突然『今まで通りのローテーションで武技を習う』が選択肢にランクインした。正確には、『今まで通りのローテーションで六層攻略も視野に入れた動きで武技も習う』だけど。
「何かお悩みかい? ほら、注文のコプト揚げだよ」
「わーい! コプトの唐揚げ!」
宿の女将さんが持って来てくれた料理にニクスが飛び付く。昨日納品したコプト肉を使ったメニューだね。昨日のお祝いで余ったお肉はそのまま宿に売ったんだ。
「追加注文で悩んでるなら、全部頼んじまいなよ」
「あー、いえ、ちょっと違うお悩みでして…………」
けどまぁ、『悩んでるなら全部やってしまえ』って言うのは、解決法としてはありかな。ダンジョンブレイクについては慎重にならざるを得ないけど。
お仕事に戻っていく女将を見送りながら、サクサクと唐揚げを楽しむニクスを眺めて自分も食べる。はぁ美味しい。
「とりあえず、方針を決めよう。私達的にはダンジョンブレイクが一番楽なんだろうけど、コレは無しにしようと思う。どうかな?」
「そうねぇ。ダンジョンブレイクの回数をゼロのままに出来るなら、その方が良いものね。安易にブレイクさせたら、次回のブレイクは二層のカーバンクルまで放出されるんだし」
「それに、万が一ミスったらそのまま普通にダンジョンブレイクが災害になるしね」
「お母さん達も万能じゃ無いものね」
そうなると、六層へ行くのは確定で、あとは六層以降の攻略に注力するか、五層をこのまま拠点として使って武技を習いながら六層を攻略するか、どっちかだ。
それぞれにメリットがある。攻略に力を入れて六層を超え、七層を目指す様にすれば、その分早くヒートゲージを減らせる。可能ならゼロにして置きたいしね。
そして武技を習う方は単純だ。私達がもっと強くなる。
どっちも一長一短か。まさか別ルートがあったとは…………。どうやって調べたらそれ分かったんだよ。
「ねぇねぇ、それってブギって言うのがどんなのか、確認してから決めても良いんじゃないの?」
「そりゃそうだ」
「そうね。確かに、学んだ方が良い技か否かを確認もせずに決めるのは不毛ね。うん、ニクスちゃんの言う通りよ」
そんな訳で、私達はとりあえず師範の所へ行くことになった。
師範、今日は授業の日じゃないけど許してね
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる