僕が守りたかったけれど

景空

文字の大きさ
6 / 166

6話

しおりを挟む
 結婚式の翌日、僕たちは簡単に旅支度をして家を出た。元々二人とも狩人なので、狩りのために村の外に出ることが多いから準備も慣れたものだ。村から聖都まで普通の人なら徒歩で3日、狩人の祝福もちの僕たちなら2日は掛からないだろう。そうミーアも狩人としての祝福を神様からいただいている。色は黄だ。僕たち二人掛かりで狩りを行えば狩りの効率でこの世界でも果たして上がいるかどうかわからないような狩りパーティーになるだろう。これからがとても楽しみだ。けれどミーアがちょっと調子が悪そう、というか何か歩きにくそうにしている。
「ミーア、大丈夫か」
「え、大丈夫って何が」
「なんか歩きにくそうにしてるからさ」
途端に顔を赤らめてミーアは上目遣いに僕を見てくる。
「誰のせいだと思って……」
「え、僕のせいなの」
「だってあんなだと思わなくて」
そうだった、ミーアは初めてで
「ごめん、気付かなくて」
僕も少し照れくさくて目を合わせられなくなってしまった。
「いいわよ。これもあたしがフェイのものになったって証拠でもあるし」
「でも、どうする。つらいなら出発を遅らようか」
「そこまでじゃないわ。なんかまだフェイが中にいるように感じるだけだから」
「でも……」
「大丈夫よ」
「わかった、じゃぁ様子をみながらゆっくり行こう。でも辛くなったらすぐいうんだよ」
「うん、ありがとう」

 準備を済ませた僕たちは、出かけることにした。聖都までの道は整備されているし治安も比較的良いけれど、偶には盗賊も出るし、何より魔獣はどこにでもいる。なので僕たちは一応武装している。僕は旅用に厚手の布の服にいつもの狩弓を持ち、背中にブロードソードを背負っている。ミーアも布の服を着て、狩弓を持ち、腰に短剣をぶら下げている。ミーアの弓も僕のほど強弓ではないけれど大の男でも簡単には引けないような強力な弓だ。そして、僕たちは狩人の祝福にある探知を使う。これで僕たちに気付かれずに近づけるのは、隠蔽能力を持つ魔獣くらいなもので勇者様が討伐目標にしている魔獣の王やそれに近い強力な魔獣くらいだろう。

 順調に旅路を進み、簡単な魔獣除けの結界を張られた空き地にたどり着いた。今日はここで野営をする。この結界は旅人の保護のために主要な街道のところどこに国が設置してくれている。もともと魔獣の少ないルートを街道にしているうえに、こんな安全地帯を設置してくれているので本当に主要な街道を旅する限り魔獣の被害にあうことは少ない。そして、実はこの安全な街道こそが聖国が栄えている本当の理由だと僕は考えている。他の国にはこんな結界を設置できる高位の司祭様は多くない。国内を安全に移動できるのは国の繁栄にどれほど役立っていることだろうか。そうは言っても結界内だからといって完全に気を緩めるわけにはいかない。結界をすり抜ける魔獣もわずかながら存在するし、盗賊は人間なので結界に影響されず襲ってくることができる。そのため、だれか一人は見張りに起きているのが定石だ。
「ミーア先に見張りを頼めるかな。3時間くらいで交代するから」
「え、先は良いけど。フェイ3時間しか休まなくていいの。あたしも狩人の祝福あるからそんなに休まなくて平気よ」
「そこはゆっくり休んで欲しいかな。ミーアが黄の祝福をいただいていて疲れにかなりの耐性があるのはわかるけど、僕は銀だからね。それに朝のつらそうだった時の分もあるから僕に頼ってほしい」
僕が、そう言うと、ミーアは耳まで赤くなりながら僕の胸をポカポカと叩いてきた。
「恥ずかしいから言わないで。でもありがとう」

「フェイ。時間よ」
ミーアの声にスッと目が覚める。数ある祝福の中でも狩人の祝福は優秀で、野外活動で有利になる祝福が色々とある。目覚めの良いのもその一つ。
「あいよ。しっかり休めよ」
そう言いながら、僕は今の時間を確認するために星を見る。
「ミーア」
「なにフェイ」
「1時間くらい長かったんじゃないか」
「そ、そんなこと無いよ」
「ま、いいけど。ちゃんと休んで体力回復するのも僕のためにもなるってわかってるよね」
「う、うん」
「じゃ、今度は本当にちゃんと休んでね」
「はーい、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」

 僕は愛用の弓を横に置きリラックスしながら見張りにつく。狩人の祝福のおかげで夜目も効くし、銀の狩人の祝福の探知は僕を中心に800メルドに魔獣や人が入ればわかる。見張りについて3時間ほど、僕は弓を手に取った。立ち上がり闇に向かって3射。少し様子を見て、また座ってリラックスできる姿勢で見張りに戻る。数時間後空が白み始めミーアが起きてきた。
「ミーア」
「うん」
僕たちにそれ以上の言葉は必要ない。僕たちは弓を手に取った。まず僕が3射。僕の4射目以降に合わせるようにミーアも射始める。二人合わせて20数射で終わる。周囲に意識を向けこれ以上必要の無い事を確認し、射た方向に二人で歩いていく。
「フォレストファングみたいね」
ミーアが狼の魔獣の亡骸を見てつぶやいた。僕はミーアにさらに向こうを示す。
「シルバーファングだ」
狼の魔獣。フォレストファングの上位種。普通はこんな森の浅い場所には出てこない。
「数が多い。フォレストファングは証明部位だけ持っていって後は埋めるか」
「シルバーは全部持っていくの」
「そうだね、流石にこれはもっていかないと」
亡骸を処理し回収できるだけの矢を回収。二人合わせ28本の矢を放ったが5本は折れたり歪んだりしていたため矢じりだけ回収、残りの25本は矢筒に戻した。近くの木を伐り、シルバーファングを括り付けて引きずって運べるように準備を進める。
「余計な時間がかかったな。今日中に聖都に入れると良いんだけど」
「まだお昼前だから、あたし達の足ならギリギリ間に合うんじゃない」
とは言え時間に余裕が無いのも確かなので干し肉を齧って朝食兼昼食にする。食後に水筒から水を一口ずつ飲み、
「行くか」
「うん」

 夕刻、空が茜色に染まり始めた頃に聖都の門をくぐることができた。もう少し遅くなっていたら門の前で翌朝まで待たなければいけなくなるところだ。聖都に入って最初に行くのは普通ならば宿の確保なんだけれど、今回はギルドに向かう。
「ここ、かな」
「たぶん」
僕たちはちょっとだけ顔を見合わせて、思い切ってドアを開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...