僕が守りたかったけれど

景空

文字の大きさ
37 / 166

37話

しおりを挟む
 朝食を済ませて「夜の羊亭」を出る。今日は僕もミーアも探索向けにフル装備だ。
僕は右腰にミスリルのハンド・アンド・ハーフソード、左腰にオリハルコンコートのブロードソードを下げ黒赤の狩弓を持っている。ミーアも右腰にミスリルの短剣を左腰にオリハルコンコートの短剣を吊るし、白緑の狩弓を手に歩く。武器屋に預けた剣はギルドと聖国が褒賞の一部としてこんな剣に変わってしまった。騒がれるのは不本意なので聖都を少し離れるまでは先日購入したフード付きのコートを羽織る。食料や水は魔法の鞄にたっぷり入れて来て野営も視野に入れた準備だ。そして勇者様のパーティーはすでに発見済。前方500メルド程度の位置で森に向かっている。これだけ離れていれば現状スカウトを聖都に置いてきている彼らが僕たちの追跡に気付くことはないだろう。
 勇者様のパーティーが森に入った。僕たちは少し速度を上げて距離を縮める。さすがに森の中で500メルドの距離だと、相手の行動までは把握できない。だから、100メルド程度まで距離を詰めて様子をうかがう。どうやら目的地があるようだ。迷いのない足取りでどんどん奥に進んでいく。勇者様のパーティーは何度か魔獣との戦闘を行いながら奥に進む。今では中位の魔獣の領域、一般に中層と呼ばれる場所まで来ている。今もグレートベアを重戦士が気を引いている間に魔術師が魔法を打ち込み、勇者様が切りつけとどめを刺していた。聖剣ではない。どうやら以前のアドバイスを聞き入れ武器屋で合わせた身の丈に合った武器を使っているようだ。まだ危なげはないが、少々疲労が見られる。と感じたところでアーセルの聖女の癒しによる回復が行われた。バランスも連携もいい。これを見た僕は意図せずそっと呟いた。
「良いパーティーだ。これなら通常時なら深層の入口あたりまでなら行けそうだな。でも……」
僕の想像が正しければ彼らは更に奥に入っていくはずだ。

 僕の予想通り勇者様のパーティーは森の奥へ奥へと踏み込んでいった。盾役の重戦士がダメージを負い、魔術師の魔法の効きが悪くなり、勇者様の切りつける剣が2度3度切りつけても魔獣が倒れなくなる。ダメージの回復頻度が増えアーセルの負担も増える。アーセルによる聖女の癒しによる回復が無ければ、とうに破綻しているだろう。でも、聖女の癒しも無限ではない。長くはもたないはず。その時アーセルの横顔が見えた。汗を流し、口元を引き締め聖女の癒しを発動させる。聖女の癒しの光が弱い。そろそろ本当に限界だ、戻れ。僕は祈るような気持ちで見ていた。
 どうやら彼らも無理をさとり引き返すようだ。僕はホッと胸をなでおろした。そして改めて探知を彼らの周辺だけでなく広範囲に改めて展開する。その探知に巨大な反応があった。踵を返した勇者様の後ろ、木の陰からゴールデンファングが飛び出してきた。ゴールデンファングの1撃目には間に合わない。勇者様1撃だけ耐えて。そう祈りながら僕はとっさに弓を構える。そこには勇者様を庇い代わりにゴールデンファングの前足の一撃を受け吹き飛ばされた重戦士の姿があった。ギリギリで盾ごと勇者様とゴールデンファングの間に身体をねじ込んだようだ。重戦士の耐久力なら吹き飛ばされてることはあっても、あれくらいなら大きな不都合はないだろう。僕は引き絞った弓で慎重に射る。間違っても勇者様のパーティーメンバーに当たらないように。横ではミーアも弓を引き絞っている。僕とミーアはほぼ同時に射た。2本の矢は狙い違わずゴールデンファングの頭部を射抜いた。すぐに2射目の準備に入る。弓を引き絞ろうとして、僕とミーアは弓を下ろした。
 ここに至ってはもはや姿を隠す意味は無い。僕とミーアは、ゆっくりと彼らに近づいていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...