74 / 166
74話
しおりを挟む僕とミューはグラハム伯に伴われ、皇帝陛下への謁見に望んでいる。こんな国の偉い人に会うのは聖国に居た頃含めても2回目なので緊張の度合いがすごい。しかも僕たちは皇帝陛下への謁見ということでさすがに仮面をつけていない。その代わりグラハム伯を通して最低限の人間以外は人払いをお願いしてあった。護衛がどうとかいう話もあったようだけれど、僕たちがその気になったら護衛とか意味は無いということで納得してもらったようだ。
グラハム伯に続いて謁見の間に上がった僕たちは毛足の長いフカフカの絨毯の上をゆっくりと歩いている。目だけで左右を見れば豪華な衣装を身に着けた比較的高齢の男女が20人程左右に立って僕たちを値踏みするように眺めていた。聞いていた通りなら右側にいるのが皇室派で左側にいるのが貴族派のはずだ。聖国で顔を合わせた人間はいなさそうだったのでホッと胸をなでおろす。そのままゆっくり歩いて聞いていた位置で立ち止まり片膝をつき首を垂れる。ここからは声を掛けられるまでは動いてはいけないらしい。
「面をあげよ」
その言葉に僕たちはゆっくりと前を向く。玉座に座っているのがこの国の皇帝クラエス・ロッシ・フクトヴルム7世。齢36歳にして帝国の頂点に君臨する絶対の王。20台後半の若さで帝位につき、その剛腕的政治手法で帝国を掌握したという生きた伝説。それゆえ先帝時代には貴族派が優勢だったのが、現在では皇室派が圧倒している。そしてその状況を更に後押ししているのがグラハム伯の最大戦力としての僕とミューの存在であり、それゆえにこの偉大な皇帝陛下をして僕たちに会いたいと言わしめたらしい。
「ふむ、若いな。年はいくつだ」
皇帝陛下の唐突な問いにやや戸惑いながらも僕とミューは答える。
「21歳になりました」
「あたしは20歳です」
「その年で国中に鳴り響く武を修めるとはな。その働きに褒美をとらせる」
皇帝陛下のその言葉に続き横に立つ典礼官が告げた。
「冒険者ファイ。その業績に対しグリフィン男爵の称号を与える。今後ファイ・グリフィンを名乗ることを許す。それに伴い妻ミューにもグリフィン男爵夫人を名乗ることを許す」
「男爵。僕が」
その言葉に左手からザワつきが聞こえる。どうやら貴族派としては相当に不満なようだ。そこでハッと気づき。僕とミューは首をたれ
「謹んでお受けいたします」
僕はどうにか答えることができた。
「うむ、これからも帝国の剣として励めよ」
との皇帝陛下の言葉を最後に謁見の間を辞した。
控えの間に下がった僕とミューはグラハム伯に詰め寄った。
「グラハム伯。知ってましたよね。知っていて黙っていたのでしょう」
それに対するグラハム伯の返事は
「まあ知らされてはいなかったが、予想はしていたかな」
そう言った後を続けた
「お前たちのその強大すぎる武力は、どこにも所属しないとなると、潜在的な脅威とされてしまう。爵位を与えて国の組織に組み込みたかったんだろう。なに心配はいらない、形だけだ。今まで通りで行けるさ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる