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77話
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僕とミューは侵入者の微かな痕跡を追い街を出た。どうやら馬車で南に向かったようだ。しかし、森の中の魔獣の痕跡と違い狩人の僕たちには馬車の追跡は簡単ではなかった。それでも銀という高レベルの祝福の補正によりどうにか追跡を続ける。極度の集中が必要なため周囲への監視がどうしてもおろそかになる。そのため周囲への警戒はミューにまかせることにした。街道での周囲への警戒となればミューの黄の狩人の祝福もオーバースペックだ。痕跡の濃さから少しずつ追いついているのは間違いないけれど、このままだとおそらく追いつくのにまだ10日以上掛かりそうだ。犯人も発覚を恐れているためか街での宿泊をせず街道脇の馬車止めスペースで短時間の野宿をしながら移動しているのがわかる。街に泊まらないことで痕跡が交じり合わず追跡が続けられているのと同時に追いつくのに時間が掛かっている。そしてその痕跡の向いている街道は、まさに先日僕たちが往復したルート。僕の予想が確信に変わってくる。怒りに我を忘れそうになるのをギリっと歯を食いしばることで耐える。まだだ、怒りを開放するのはラーハルトをこの手に取り戻してからだ。僕たちは不眠不休で追跡をする。怒りが限界を限界で無くしている。追跡を開始して17日目、直前の野営跡が確認できた。おそらくもう2時間も掛からず追いつける。しかし、問題がある。すでにここはレイ子爵領に入っている。相手に援軍がつく可能性が高い。そしたらどうするか。
「ミュー」
「なにファイ」
「ここはもうレイ子爵領だ。子爵領軍が相手になる可能性が高い」
「だから何。まさか軍が相手だからラーハルトを諦めるとでも言うつもり」
「逆だ。子爵領軍を殲滅する覚悟を決めるぞ。いや、子爵領を亡ぼしてでもラーハルトを取り返す」
犯人の痕跡はついにこれまで避けていた街に入っていった。
「ファイ、軍の気配がある」
ミューの言葉に、痕跡の追跡を続けながら聞く
「規模はどのくらい」
「たぶん1000以上」
「やつらもう隠すつもりも無いな」
そんな中でも追跡を行い、ついに1軒の商家にたどり着いた。ミューが僕を見て
「ここなの」
聞いてくるので、僕は頷き
「ああ、間違いない」
正面から乗り込む。
「いらっしゃいま……」
僕たちの剣呑な雰囲気に店員が黙る。
「お客様、ここは商家でございます。そのような物騒なものはお控えください」
「ふん、男爵の子さえ商材にするのか貴様は」
「そ、そんなことはございません。いくらなんでも狼藉が過ぎます」
言葉では埒が明かない
「邪魔をするな。押して通る」
「ここを只の商家と思いなさるな。ジョナサン・ダン・レイ子爵様御用達の商家ですぞ」
「やはりな、黒幕はジョナサン・ダン・レイ子爵だったか」
その僕の言葉に真っ青になり言葉を失う店主。
「死にたくなければどけ」
その僕の言葉にも逡巡する店主に剣を一振り。邪魔者を排除した僕たちは奥に進む。奥まった部屋に人の気配を感じ戸を蹴破る。寝台に寝かされた小さな身体が見えた。
「ラーハルト」
僕とミューの声が重なる。
「おっと、動くな」
ラーハルトの横にいた小柄な男が短剣をラーハルトに突き付けながら叫んだ。
「まずは剣を手放してもらおう」
「ラーハルトは無事なんだろうな」
「さっさと剣を離せ」
僕とミューは剣を床に置いた。
「剣を離したぞ。ラーハルトは無事なんだろうな」
「この躯の事か。甘いな遺恨を残すわけがないだろう。やれ」
男の左右にいたローブ姿の男女5人が魔法を放ってきた。すべてを僕が受ける。爆炎が残っている間に僕もミューも動く。小柄な男以外を素手で仕留めた。
「ば、ばかな直撃だったはずだ」
「伊達にフォートレスとか呼ばれている訳じゃない。あんなもので俺たちを止められると思ったのがお前の失策だ」
クルリと身をひるがえし逃げようとする男の左足を手刀で切り飛ばす。
「人間相手ならオレ達は剣などいらないんだよ。しばらくそこでおとなしくしてな」
「ば、ばけもの」
僕とミューは変わり果てた我が子を抱きしめた。
「ラーハルト。つらかっただろう。苦しかっただろう。間に合わなかったオレ達を赦してくれ」
ゴトン。物音に目を向けると小柄な男が這って逃げようとしていた。僕は行く手を遮る。
「どこに行くつもりだ。まだお前には聞くことがある。逃がしはしない」
「ひっ」
脅える男に
「これの首謀者は誰だ」
「し、知らない」
「今の俺は手加減を知らんぞ」
男の残った右足をまた手刀で切り落とす。
「あああ、ややめ」
「いい加減吐け。おまえに指示したのは誰だ」
「ジ、ジョナサン・ダン・レイ子爵だ、子爵がお前たちの息子を……」
そこまで聞いたところで首を刎ねた。
「ラーハルト。しばらく我慢してくれ」
ラーハルトの亡骸を僕の背中に括り付け、僕たちは床に置いた剣を拾うと部屋を出た。店の表に出ていくとジョナサン・ダン・レイ子爵その人がそこにいた。
「この狼藉はなんのまねですかな、グリフィン男爵」
「わが子を誘拐し殺したやつらを殺しただけだ」
「それはそれは、ご不幸でしたな」
「そいつは死の間際に、あんたに指示されたと吐いたよ」
「そんなわけがないでしょう」
「元々おかしいと思っていたんだ。1級冒険者パーティーとはいえ、たった1パーティーだけでスキューレ討伐しようとして相打ちになったとか、それがアンデッドになってオレ達に指名討伐依頼があって、そのスキに辺境伯の屋敷を襲ってラーハルトを誘拐する。あまりにできすぎだ。すべて貴様が裏で糸を引いていたんだろう」
「ふん、だったらどうだというんだ。ここは我が領土。我が領軍3000を相手にするか」
「問答無用」
僕はジョナサン・ダン・レイ子爵の右腕を切り落とした。とっさに騎士が僕とジョナサン・ダン・レイ子爵の間に入り庇う。
「き、貴様。たかが新参の男爵の風情で。こいつらを殺せ」
レイ子爵の命令で軍が僕たちを狙って動き始めた。
「ジョナサン・ダン・レイ子爵。貴様の手駒の全てをつぶしてやる、その上で貴様を貴様の一族郎党を殺す。城の奥で脅えて待っているがいい」
僕たちは、逃げる子爵を敢えて追わず軍と対峙した。
「ジョナサン・ダン・レイ子爵は、幼い我が子を誘拐し無残に殺した。そのような非道な領主に仕えるというのならば貴様らも同罪として殲滅する。敵対するものはザ・フォートレスとジ・アルマダの名は伊達ではない事を知るだろう。それでもその非道な領主につくというのならば掛かって来い」
僕が宣言すると軍に動揺が走ったのを感じたけれど、しかし決定的に崩壊までは行かなかった。
僕とミューは軍に向かって歩き出した。隊列の最前列と剣の間合いまで近づき、無言のままに両手に持った剣を振るう。剣を一度振るえば周囲3、4人の騎士の首が飛ぶ。周りこんできた相手にはミューの剣がその金属鎧ごと断ち切った。3000の軍を相手に屍山血河を築き殲滅するのに半日もかからない。ただの1兵に至るまで切り捨てた。そして宣言通りにジョナサン・ダン・レイ子爵を城に追い詰め
「どうした、レイ子爵さっきの威勢はどこに行った。おまえの自慢の軍は殲滅したぞ。次はお前の番だ」
「ち、違う。私は命令されただけなんだ。こんな事をするつもりはなかったんだ」
「貴様に命令したのは誰だ」
「げ、元老院だ。元老院がお前たちを」
「なるほど、しかし実際に実行に移してしまった以上貴様も同罪だ。死ね」
僕とミューの剣がレイ子爵の頭部に突き刺さった。
「元老院か」
僕のつぶやきにミューが答えた。
「貴族派全体が敵ということよね」
僕は頷き
「一度辺境伯領に戻ろう。長期戦になる。ラーハルトをこのままにしておくわけにもいかないし、グラハム伯にも状況を説明する必要があるだろう」
「で、どうするの。グラハム伯が止めたら」
「わかっているだろう」
僕とミューは昏い瞳で頷きあった。
「ミュー」
「なにファイ」
「ここはもうレイ子爵領だ。子爵領軍が相手になる可能性が高い」
「だから何。まさか軍が相手だからラーハルトを諦めるとでも言うつもり」
「逆だ。子爵領軍を殲滅する覚悟を決めるぞ。いや、子爵領を亡ぼしてでもラーハルトを取り返す」
犯人の痕跡はついにこれまで避けていた街に入っていった。
「ファイ、軍の気配がある」
ミューの言葉に、痕跡の追跡を続けながら聞く
「規模はどのくらい」
「たぶん1000以上」
「やつらもう隠すつもりも無いな」
そんな中でも追跡を行い、ついに1軒の商家にたどり着いた。ミューが僕を見て
「ここなの」
聞いてくるので、僕は頷き
「ああ、間違いない」
正面から乗り込む。
「いらっしゃいま……」
僕たちの剣呑な雰囲気に店員が黙る。
「お客様、ここは商家でございます。そのような物騒なものはお控えください」
「ふん、男爵の子さえ商材にするのか貴様は」
「そ、そんなことはございません。いくらなんでも狼藉が過ぎます」
言葉では埒が明かない
「邪魔をするな。押して通る」
「ここを只の商家と思いなさるな。ジョナサン・ダン・レイ子爵様御用達の商家ですぞ」
「やはりな、黒幕はジョナサン・ダン・レイ子爵だったか」
その僕の言葉に真っ青になり言葉を失う店主。
「死にたくなければどけ」
その僕の言葉にも逡巡する店主に剣を一振り。邪魔者を排除した僕たちは奥に進む。奥まった部屋に人の気配を感じ戸を蹴破る。寝台に寝かされた小さな身体が見えた。
「ラーハルト」
僕とミューの声が重なる。
「おっと、動くな」
ラーハルトの横にいた小柄な男が短剣をラーハルトに突き付けながら叫んだ。
「まずは剣を手放してもらおう」
「ラーハルトは無事なんだろうな」
「さっさと剣を離せ」
僕とミューは剣を床に置いた。
「剣を離したぞ。ラーハルトは無事なんだろうな」
「この躯の事か。甘いな遺恨を残すわけがないだろう。やれ」
男の左右にいたローブ姿の男女5人が魔法を放ってきた。すべてを僕が受ける。爆炎が残っている間に僕もミューも動く。小柄な男以外を素手で仕留めた。
「ば、ばかな直撃だったはずだ」
「伊達にフォートレスとか呼ばれている訳じゃない。あんなもので俺たちを止められると思ったのがお前の失策だ」
クルリと身をひるがえし逃げようとする男の左足を手刀で切り飛ばす。
「人間相手ならオレ達は剣などいらないんだよ。しばらくそこでおとなしくしてな」
「ば、ばけもの」
僕とミューは変わり果てた我が子を抱きしめた。
「ラーハルト。つらかっただろう。苦しかっただろう。間に合わなかったオレ達を赦してくれ」
ゴトン。物音に目を向けると小柄な男が這って逃げようとしていた。僕は行く手を遮る。
「どこに行くつもりだ。まだお前には聞くことがある。逃がしはしない」
「ひっ」
脅える男に
「これの首謀者は誰だ」
「し、知らない」
「今の俺は手加減を知らんぞ」
男の残った右足をまた手刀で切り落とす。
「あああ、ややめ」
「いい加減吐け。おまえに指示したのは誰だ」
「ジ、ジョナサン・ダン・レイ子爵だ、子爵がお前たちの息子を……」
そこまで聞いたところで首を刎ねた。
「ラーハルト。しばらく我慢してくれ」
ラーハルトの亡骸を僕の背中に括り付け、僕たちは床に置いた剣を拾うと部屋を出た。店の表に出ていくとジョナサン・ダン・レイ子爵その人がそこにいた。
「この狼藉はなんのまねですかな、グリフィン男爵」
「わが子を誘拐し殺したやつらを殺しただけだ」
「それはそれは、ご不幸でしたな」
「そいつは死の間際に、あんたに指示されたと吐いたよ」
「そんなわけがないでしょう」
「元々おかしいと思っていたんだ。1級冒険者パーティーとはいえ、たった1パーティーだけでスキューレ討伐しようとして相打ちになったとか、それがアンデッドになってオレ達に指名討伐依頼があって、そのスキに辺境伯の屋敷を襲ってラーハルトを誘拐する。あまりにできすぎだ。すべて貴様が裏で糸を引いていたんだろう」
「ふん、だったらどうだというんだ。ここは我が領土。我が領軍3000を相手にするか」
「問答無用」
僕はジョナサン・ダン・レイ子爵の右腕を切り落とした。とっさに騎士が僕とジョナサン・ダン・レイ子爵の間に入り庇う。
「き、貴様。たかが新参の男爵の風情で。こいつらを殺せ」
レイ子爵の命令で軍が僕たちを狙って動き始めた。
「ジョナサン・ダン・レイ子爵。貴様の手駒の全てをつぶしてやる、その上で貴様を貴様の一族郎党を殺す。城の奥で脅えて待っているがいい」
僕たちは、逃げる子爵を敢えて追わず軍と対峙した。
「ジョナサン・ダン・レイ子爵は、幼い我が子を誘拐し無残に殺した。そのような非道な領主に仕えるというのならば貴様らも同罪として殲滅する。敵対するものはザ・フォートレスとジ・アルマダの名は伊達ではない事を知るだろう。それでもその非道な領主につくというのならば掛かって来い」
僕が宣言すると軍に動揺が走ったのを感じたけれど、しかし決定的に崩壊までは行かなかった。
僕とミューは軍に向かって歩き出した。隊列の最前列と剣の間合いまで近づき、無言のままに両手に持った剣を振るう。剣を一度振るえば周囲3、4人の騎士の首が飛ぶ。周りこんできた相手にはミューの剣がその金属鎧ごと断ち切った。3000の軍を相手に屍山血河を築き殲滅するのに半日もかからない。ただの1兵に至るまで切り捨てた。そして宣言通りにジョナサン・ダン・レイ子爵を城に追い詰め
「どうした、レイ子爵さっきの威勢はどこに行った。おまえの自慢の軍は殲滅したぞ。次はお前の番だ」
「ち、違う。私は命令されただけなんだ。こんな事をするつもりはなかったんだ」
「貴様に命令したのは誰だ」
「げ、元老院だ。元老院がお前たちを」
「なるほど、しかし実際に実行に移してしまった以上貴様も同罪だ。死ね」
僕とミューの剣がレイ子爵の頭部に突き刺さった。
「元老院か」
僕のつぶやきにミューが答えた。
「貴族派全体が敵ということよね」
僕は頷き
「一度辺境伯領に戻ろう。長期戦になる。ラーハルトをこのままにしておくわけにもいかないし、グラハム伯にも状況を説明する必要があるだろう」
「で、どうするの。グラハム伯が止めたら」
「わかっているだろう」
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