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111話
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夕刻、僕は、用意されていた部屋のソファでミーアを抱くようにして座っていた。ミーアは、青い顔で俯いている。やっと血が止まっただけの、まだ薄皮さえはっていないじくじくとした心の傷をいきなり無遠慮に掻きむしられたようなものだ。僕だって心が泡立つのを抑え切れない。そんなところにドアをノックする音が響いた。僕はミーアを見て一瞬迷ったけれど、
「どうぞ。カギは開いている」
ドアが開き部屋付きのメイドが引くと、そこに居たのは予想通り、アーセルと勇者様だった。それでもドアを開けただけで中々部屋に入ってこない2人。
「どうした、入らないのか」
僕が声を掛けるとおずおずと部屋に入ってくる2人。
「適当に座ってくれ。……2人に何か飲み物を」
部屋付きのメイドにサーブを頼む。テーブルを挟んだ向かいのソファに座って何も言わない2人の前に飲み物が置かれたところでメイドに声を掛ける。
「しばらく席を外してくれ。呼ぶまでは入ってこないように」
部屋付きのメイドがドアから出ていくと、部屋には僕たち4人だけになった。そこまでセッティングしたところでミーアも顔を上げた。相変わらず顔色は悪いけれど、以前のような無気力状態ではない。そして最初に口を開いたのはミーアだった。
「その顔だと、あたしたちのこと聞いたみたいね」
「あのときは、そのせいだったのね。その、何と言って良いのか、あたし」
「アーセルが悪い訳じゃないわ。その時についたのがあたし達の今のふたつ名。あたしがルナティック・リベンジャー、そしてフェイがリベンジ・ジェノサイダー。こんなふたつ名。あたし達が何をしたかわかるかしら」
黙り込むアーセル、口を開こうとして、それでも何も言えない勇者様。
「あたし達は……」
「ミーア、もういいよ。自分を追い詰めるのはやめてくれ」
「それでも、あたし達の手は血にまみれている。あれだけの事をしてもラーハルトは戻ってこない」
僕は涙を流すミーアを強く抱きしめた。
「ミーア、もういい。もういいんだ」
そのまましばらく抱き締めていると、いつしか泣きつかれたのだろうミーアは眠ってしまった。指でそっと頬を撫で、涙を拭うと少しだけ表情が緩んだ。そっと寝ているミーアを抱き上げ隣のベッドルームに連れていきベッドに寝かせる。軽く頭を撫で、頬にキスを落として。
「おやすみ」
僕はリビングに戻りアーセルと勇者様の向かいにすわった。そこにアーセルが言葉を掛けてきた。
「ね、フェイ。あなた達と子供の事、なんとなくは聞いたわ。でも……」
「わかった、全部話すよ。他の人から聞くよりいいだろうから」
そこで、僕は聖国を追われてからの事を話した。偽名で冒険者として活動した事、グラハム伯と再会し後ろ盾になってもらった事、主に上位魔獣討伐依頼を請け負ったこと。上位魔獣のアンデッド、キュプロクス・アンデッド討伐をしたこと、我流の剣に限界を感じて剣聖ブランカ・シエロに師事したこと、仮面で顔を隠し上位魔獣中心のスタンピードを抑え切ったこと。その功績で男爵位を受けたこと、1人息子ラーハルトを授かったこと。貴族派にラーハルトが殺されたこと。貴族派全て一族郎党を女子供に至るまで鏖にしたこと。その際グラハム伯のサポートで反逆でなく戦争扱いとしてもらい戦闘で貴族派の領地を自領と見なされ皇室に全て献上したこと。それによって侯爵に叙されたこと。すべての復讐が終わり僕たちが2人とも無気力に陥ってしまっていたこと。
「その頃だね2人が訪ねて来てくれたのは」
そのあと、どうにか立ち直って深層のさらに奥を探索しウィンドドラゴンと遭遇戦となりどうにか討伐に成功した事、そんなことを話した。
「そんなことが……」
「平民からそれも帝国民でさえない状態から僅か数年で侯爵とは、どんな無茶をしたのかと思いましたが、これほどとは」
「そう、相手から仕掛けられたとはいえ、僕とミーアの手は万を超える人の血にまみれている。これは否定できるものでは無い。それも手に掛けたのは騎士や戦士だけではない、復讐の昏い炎に焼かれるまま戦う力のない女子供までこの手に掛けた。僕たちがジェノサイダーだのルナティックだの言われるのはそういうことさ」
「そう自らを貶める物言いをするものではありません。フェイウェル殿やミーア殿の行いは多少過激だったかもしれませんが、あくまで防衛であり反撃です。すべては貴族派の自業自得です」
「ありがとう。でも僕たちがやったことに変わりはないさ。後悔はないけどその重みは背負っていくしかない」
”キィ”そこに小さな軋み音とともにベッドルームに続くドアが開いた。
「ミーア、大丈夫か」
ソファから立って僕が歩み寄ると
「うん、ちょっと思い出しちゃっただけだから」
そう言いながら僕に寄りかかってくるミーアを抱き寄せソファに座らせた。
「アーセル、勇者様。ご結婚おめでとうございます。出会いの時には色々あったけれど今となっては過去の話。アーセル、お互いに幸せになろうね」
「ミーア、ありがとう」
「それでね、あたしアーセルに渡したいものがあるの」
そう言いながらミーアが魔法の鞄から出したのは布に包まれた何か板状のものだった。受け取ったアーセルが布を剥がすと出てきたのは
「絵」
ちょっと疑問形で言葉を紡ぐアーセルにミーアが声を掛ける。
「最初は結婚のお祝いのひとつにするつもりだったけど、出来上がってきたの見てちょっと結婚祝いには違うかなって思って。でもアーセルに渡したいと思ったの」
「これって、あたし達の」
「うん、あたし達が、幼馴染ってだけの関係だった頃」
その絵には森の中で狩りに向かう2人の女の子と1人の男の子がいた。それはかつての僕たち。ミーアは続ける。
「最初はアーセルがフェイを裏切ったと思ったわ。フェイが苦しんでいるのをみているしかなくて辛かった。でも、あたしがフェイの横に寄り添えるようになって、一緒に人生を歩き出して。そして思ったの、フェイを苦しめてしまった。でも、これは本当のパートナーに出会う順番が違っていたんだって。フェイの本当のパートナーはあたし。アーセルの本当のパートナーは勇者様。だから出会いの時に苦しみはあったけれど、本当の居場所に落ち着くために必要な事だったんだって。だから今あたし達がただの幼馴染だった頃の想いを込めてこの絵をプレゼントしたい。受け取ってくれるかしら」
「ミーア、ありがとう。ありがとう。うれしい」
「どうぞ。カギは開いている」
ドアが開き部屋付きのメイドが引くと、そこに居たのは予想通り、アーセルと勇者様だった。それでもドアを開けただけで中々部屋に入ってこない2人。
「どうした、入らないのか」
僕が声を掛けるとおずおずと部屋に入ってくる2人。
「適当に座ってくれ。……2人に何か飲み物を」
部屋付きのメイドにサーブを頼む。テーブルを挟んだ向かいのソファに座って何も言わない2人の前に飲み物が置かれたところでメイドに声を掛ける。
「しばらく席を外してくれ。呼ぶまでは入ってこないように」
部屋付きのメイドがドアから出ていくと、部屋には僕たち4人だけになった。そこまでセッティングしたところでミーアも顔を上げた。相変わらず顔色は悪いけれど、以前のような無気力状態ではない。そして最初に口を開いたのはミーアだった。
「その顔だと、あたしたちのこと聞いたみたいね」
「あのときは、そのせいだったのね。その、何と言って良いのか、あたし」
「アーセルが悪い訳じゃないわ。その時についたのがあたし達の今のふたつ名。あたしがルナティック・リベンジャー、そしてフェイがリベンジ・ジェノサイダー。こんなふたつ名。あたし達が何をしたかわかるかしら」
黙り込むアーセル、口を開こうとして、それでも何も言えない勇者様。
「あたし達は……」
「ミーア、もういいよ。自分を追い詰めるのはやめてくれ」
「それでも、あたし達の手は血にまみれている。あれだけの事をしてもラーハルトは戻ってこない」
僕は涙を流すミーアを強く抱きしめた。
「ミーア、もういい。もういいんだ」
そのまましばらく抱き締めていると、いつしか泣きつかれたのだろうミーアは眠ってしまった。指でそっと頬を撫で、涙を拭うと少しだけ表情が緩んだ。そっと寝ているミーアを抱き上げ隣のベッドルームに連れていきベッドに寝かせる。軽く頭を撫で、頬にキスを落として。
「おやすみ」
僕はリビングに戻りアーセルと勇者様の向かいにすわった。そこにアーセルが言葉を掛けてきた。
「ね、フェイ。あなた達と子供の事、なんとなくは聞いたわ。でも……」
「わかった、全部話すよ。他の人から聞くよりいいだろうから」
そこで、僕は聖国を追われてからの事を話した。偽名で冒険者として活動した事、グラハム伯と再会し後ろ盾になってもらった事、主に上位魔獣討伐依頼を請け負ったこと。上位魔獣のアンデッド、キュプロクス・アンデッド討伐をしたこと、我流の剣に限界を感じて剣聖ブランカ・シエロに師事したこと、仮面で顔を隠し上位魔獣中心のスタンピードを抑え切ったこと。その功績で男爵位を受けたこと、1人息子ラーハルトを授かったこと。貴族派にラーハルトが殺されたこと。貴族派全て一族郎党を女子供に至るまで鏖にしたこと。その際グラハム伯のサポートで反逆でなく戦争扱いとしてもらい戦闘で貴族派の領地を自領と見なされ皇室に全て献上したこと。それによって侯爵に叙されたこと。すべての復讐が終わり僕たちが2人とも無気力に陥ってしまっていたこと。
「その頃だね2人が訪ねて来てくれたのは」
そのあと、どうにか立ち直って深層のさらに奥を探索しウィンドドラゴンと遭遇戦となりどうにか討伐に成功した事、そんなことを話した。
「そんなことが……」
「平民からそれも帝国民でさえない状態から僅か数年で侯爵とは、どんな無茶をしたのかと思いましたが、これほどとは」
「そう、相手から仕掛けられたとはいえ、僕とミーアの手は万を超える人の血にまみれている。これは否定できるものでは無い。それも手に掛けたのは騎士や戦士だけではない、復讐の昏い炎に焼かれるまま戦う力のない女子供までこの手に掛けた。僕たちがジェノサイダーだのルナティックだの言われるのはそういうことさ」
「そう自らを貶める物言いをするものではありません。フェイウェル殿やミーア殿の行いは多少過激だったかもしれませんが、あくまで防衛であり反撃です。すべては貴族派の自業自得です」
「ありがとう。でも僕たちがやったことに変わりはないさ。後悔はないけどその重みは背負っていくしかない」
”キィ”そこに小さな軋み音とともにベッドルームに続くドアが開いた。
「ミーア、大丈夫か」
ソファから立って僕が歩み寄ると
「うん、ちょっと思い出しちゃっただけだから」
そう言いながら僕に寄りかかってくるミーアを抱き寄せソファに座らせた。
「アーセル、勇者様。ご結婚おめでとうございます。出会いの時には色々あったけれど今となっては過去の話。アーセル、お互いに幸せになろうね」
「ミーア、ありがとう」
「それでね、あたしアーセルに渡したいものがあるの」
そう言いながらミーアが魔法の鞄から出したのは布に包まれた何か板状のものだった。受け取ったアーセルが布を剥がすと出てきたのは
「絵」
ちょっと疑問形で言葉を紡ぐアーセルにミーアが声を掛ける。
「最初は結婚のお祝いのひとつにするつもりだったけど、出来上がってきたの見てちょっと結婚祝いには違うかなって思って。でもアーセルに渡したいと思ったの」
「これって、あたし達の」
「うん、あたし達が、幼馴染ってだけの関係だった頃」
その絵には森の中で狩りに向かう2人の女の子と1人の男の子がいた。それはかつての僕たち。ミーアは続ける。
「最初はアーセルがフェイを裏切ったと思ったわ。フェイが苦しんでいるのをみているしかなくて辛かった。でも、あたしがフェイの横に寄り添えるようになって、一緒に人生を歩き出して。そして思ったの、フェイを苦しめてしまった。でも、これは本当のパートナーに出会う順番が違っていたんだって。フェイの本当のパートナーはあたし。アーセルの本当のパートナーは勇者様。だから出会いの時に苦しみはあったけれど、本当の居場所に落ち着くために必要な事だったんだって。だから今あたし達がただの幼馴染だった頃の想いを込めてこの絵をプレゼントしたい。受け取ってくれるかしら」
「ミーア、ありがとう。ありがとう。うれしい」
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