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目が覚めたら知らない天井だった。テンプレの異世界転移?いやいや、無いだろ。それを否定する程度には常識がある。視界に映るのは白い天井、白い壁、そして点滴。窓からは明るい日差しがさしこんでいる。更に確認しようと頭を動かそうとすると動かない固定されているようだ。『ズキリ』首に痛みがはしる。手足もどうやら固定されているようで自由に動かすことのできるのはマブタと口くらいのようだ。身体中に鈍い痛みと痺れを感じる。視界の端に時計がうつる。3時43分。普段なら学校のグランドで練習をしている頃だ。聞こえるのは空気での何かの駆動音と『ピッピッ』という電子音だけ。
「誰か」
しわがれた力の無い声。自分の出した声だとは信じられなかった。誰も反応が無い、たった数分、周りを確認しただけだというのに全身の倦怠感が酷い。襲ってくる眠気に意識を明け渡し眠りについた。
次に目が覚めた時、周囲は茜色にそまり夕方であることが分った。時計を見ると6時3分。ふと、近くで何かの気配がした。視界の外に人がいるのか。そこでもう一度声を出し呼びかけてみる。
「だれか……」
その誰かはすぐ近くに居たようで、近づき視界に姿を見せてくれた。薄ピンクのナースウェアにマスク、長い髪をポニーテイルに結った細面の女性が声を掛けてくれる
「天野瑠宇さん。わかりますか」
「はい。ここは、病院ですか」
さっきよりははっきりした声が出た。人と話せたことで少しだけほっとしたけれど、自分の状態がわからないのはやはり不安で。
「あの、オレってどんな状態なんですか。どこも動かせないんですけど」
「天野さんは、交通事故で大怪我をされて、今全身を色々固定していますので動けないと思います。詳しいことは先生に聞いてくださいね」
そういわれて思い出した。部活の終わった帰り道、いきなりエンジン音を響かせたワンボックスが突っ込んできたんだったな。とっさに横にいた1歳年上の幼馴染、祥子ねぇを突き飛ばしたとこまでは覚えている。祥子ねぇは無事だろうか。
しばらくすると母さんが来てくれた。
「瑠宇……」
名前を呼んだとたんに泣き崩れる母さんに声をかける。
「母さん大丈夫だよ。ちゃんと生きてるよ」
そのあと医師の説明を聞いた。事故後オレは1週間昏睡状態だったそうで、怪我は全身打撲、頭骨骨折、腰椎圧迫骨折、右大腿骨単純骨折、右脛骨粉砕骨折、左上腕単純骨折。はは、骨折のオンパレードだな。要注意なのは腰椎の圧迫骨折と右脛骨粉砕骨折か。内臓に被害が無いのが不幸中の幸いか。
「先生」
「なにかな」
優しい声
「オレ陸上選手なんですが。復帰はどのくらい掛かりますか」
すっと先生の表情に影がさした。この表情は知っている。今まで何人かの友人が怪我について医師に尋ねたときの表情だ。
「まずは、普通の生活が出来るように治療しましょう。競技復帰は様子を見てということで……」
「そうですか」
医師が退室したあとで母さんに
「母さん、祥子ねぇは無事だった?」
そう聞いたちょうどそのときに病室のドアをあわただしく開ける音がした。身体のどこも動かすことが出来ないのでわからないが、誰かがきたらしい。
「瑠宇」
あぁ良かった。その声を聞いた最初の感想がそれだった。柔らかなアルトで、その声を聞くだけでオレは落ち着けた。
「祥子ねぇ。怪我はなかった?あと悪いけど顔の向きも変えられないんだわ、正面に来てもらって良い?」
「あたしは大丈夫。どこも怪我してないよ。それより瑠宇、あたしを庇ったせいで、こんなに。ごめんね」
「祥子ねぇのせいじゃ無いよ。車が突っ込んできたんだから。祥子ねぇが怪我してないってだけでも嬉しいよ」
「でも、その怪我のせいで瑠宇は……」
「ジュニアオリンピック欠場は残念だけど、もともと祥子ねぇのおかげでつかめたものだし、祥子ねぇを守れたならいいよ。それに復帰のサポートしてくれるでしょ。またふたりで最初からやり直そうよ」
「誰か」
しわがれた力の無い声。自分の出した声だとは信じられなかった。誰も反応が無い、たった数分、周りを確認しただけだというのに全身の倦怠感が酷い。襲ってくる眠気に意識を明け渡し眠りについた。
次に目が覚めた時、周囲は茜色にそまり夕方であることが分った。時計を見ると6時3分。ふと、近くで何かの気配がした。視界の外に人がいるのか。そこでもう一度声を出し呼びかけてみる。
「だれか……」
その誰かはすぐ近くに居たようで、近づき視界に姿を見せてくれた。薄ピンクのナースウェアにマスク、長い髪をポニーテイルに結った細面の女性が声を掛けてくれる
「天野瑠宇さん。わかりますか」
「はい。ここは、病院ですか」
さっきよりははっきりした声が出た。人と話せたことで少しだけほっとしたけれど、自分の状態がわからないのはやはり不安で。
「あの、オレってどんな状態なんですか。どこも動かせないんですけど」
「天野さんは、交通事故で大怪我をされて、今全身を色々固定していますので動けないと思います。詳しいことは先生に聞いてくださいね」
そういわれて思い出した。部活の終わった帰り道、いきなりエンジン音を響かせたワンボックスが突っ込んできたんだったな。とっさに横にいた1歳年上の幼馴染、祥子ねぇを突き飛ばしたとこまでは覚えている。祥子ねぇは無事だろうか。
しばらくすると母さんが来てくれた。
「瑠宇……」
名前を呼んだとたんに泣き崩れる母さんに声をかける。
「母さん大丈夫だよ。ちゃんと生きてるよ」
そのあと医師の説明を聞いた。事故後オレは1週間昏睡状態だったそうで、怪我は全身打撲、頭骨骨折、腰椎圧迫骨折、右大腿骨単純骨折、右脛骨粉砕骨折、左上腕単純骨折。はは、骨折のオンパレードだな。要注意なのは腰椎の圧迫骨折と右脛骨粉砕骨折か。内臓に被害が無いのが不幸中の幸いか。
「先生」
「なにかな」
優しい声
「オレ陸上選手なんですが。復帰はどのくらい掛かりますか」
すっと先生の表情に影がさした。この表情は知っている。今まで何人かの友人が怪我について医師に尋ねたときの表情だ。
「まずは、普通の生活が出来るように治療しましょう。競技復帰は様子を見てということで……」
「そうですか」
医師が退室したあとで母さんに
「母さん、祥子ねぇは無事だった?」
そう聞いたちょうどそのときに病室のドアをあわただしく開ける音がした。身体のどこも動かすことが出来ないのでわからないが、誰かがきたらしい。
「瑠宇」
あぁ良かった。その声を聞いた最初の感想がそれだった。柔らかなアルトで、その声を聞くだけでオレは落ち着けた。
「祥子ねぇ。怪我はなかった?あと悪いけど顔の向きも変えられないんだわ、正面に来てもらって良い?」
「あたしは大丈夫。どこも怪我してないよ。それより瑠宇、あたしを庇ったせいで、こんなに。ごめんね」
「祥子ねぇのせいじゃ無いよ。車が突っ込んできたんだから。祥子ねぇが怪我してないってだけでも嬉しいよ」
「でも、その怪我のせいで瑠宇は……」
「ジュニアオリンピック欠場は残念だけど、もともと祥子ねぇのおかげでつかめたものだし、祥子ねぇを守れたならいいよ。それに復帰のサポートしてくれるでしょ。またふたりで最初からやり直そうよ」
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