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異世界へ
第16話 肉
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転移からもう10日が過ぎて、あたしと影井さんは川から離れないようにしながら少しずつ下流にむかっているわ。
そのはずだったのだけど……。
あたしと影井さんは今一生懸命に走っている。
「ねえ、影井さん。手当してもらって10日も経つから足はもう痛くないけど。なんであたし達はこんなことになってるのかしら?」
「悪いな。水場にはいろんな動物も集まるってのは分かっていたんだが、まさかここで出会い頭にこうなるとは思ってなかったよ」
「でも向こうの方が速そうに見えるのは気のせいじゃないわよね」
あたし達の後ろには頭に木の枝のような大きめの角を生やした4つ足の動物が追いかけてきているのよね。日本だけではなく地球でなら間違いなく草食のはずのそれは、その角に引っかかる下ばえや細めの木をバキバキと吹き飛ばしながら追いかけてきてるわ。見た目だけなら鹿なんだけど。絶対肉食よねあれ。
「そうだね、でもあんな開けた場所で正面から戦ったら勝ち目ないからね。力の弱い人間は頭を使わないといけないってことだよ」
「でも影井さん。最初竹やりで一突きしてましたよね」
それも正面からかなりギリギリで危ない感じだったのよね。
「そりゃ、何もなしで逃げるんじゃ芸がないからね。それに華さん、体力そんなにないでしょ」
「うっ、それはあたしはインドア派だからしかたないっていうか、でもそれと何が関係あるの?」
影井さん、痛いところを突いてくるわね。確かにこんなペースで走っていたらあたしは、すぐにばてちゃうわよ。
「それは、見ていればわかるよ。ん、そろそろかな」
影井さんはチラリと後ろを見たと思ったら、そこで止まって振り向いたわ。あたしも慌てて止まったけど、いきなり止まるって酷くないかしら。危なく木の根に足を引っかけて転ぶところだったわよ。
「影井さん、ちょっと合図くらいしてくださいよ。危なく転ぶところでしたよ」
文句を言うあたしをスルーして影井さんは追いかけて来ていた動物を見つめているじゃないの。ちょっと、いつもの優しさはどこに行ったのよ。少しは構ってくれてもいいと思うのよ。ってまあ今はそんな場合じゃないてのは分かっているから口に出してこれ以上の文句は言わないけれど。
あら、さっきの動物襲ってこないわね。と思ったら、影井さんが竹やりをまた思いっきり突き刺してたわ。横倒しになっている動物に。
いつの間に倒したの?
そう思いながら見ているうちに影井さんが何度も竹やりを突き刺していくのよね。これはもう勝ちかしら。
影井さんも、そう思ったのね。そっと近づいて竹やりで動物の目をつついているわ。
って、
「危ない」
完全に死んでなかったのね。頭を一振りしてきたわ。影井さんも油断したわけでは無いのだろうけどちょっとひっかけらたみたいだわ。
ちょ、ちょっと手から血が出てるじゃないの。
「影井さん。大丈夫ですか。すぐ手当を……」
あたしはいつも背負っているリュックをおろして中から治療用に道具を出してシートの上に並べた。
影井さんの服の袖をまくり、水で傷口を洗ってクスリを塗る。煮沸消毒しておいたガーゼを当てて、習慣になりつつあるおまじない。
「はやく、よくなりますように。
はい、影井さん出来たわよ」
「ああ、いつもありがとう。じゃあ、こいつを水場に持っていこう」
影井さんは、川にたどり着いて最初に作った石のナイフで仕留めた鹿みたいな動物、いえもう鹿でいいわね。その鹿の首のあたりを裂いて血抜きをしているわね。どうして地球から持ってきたナイフを使わないか聞いたら、補給が出来ないから今は貴重品だからどうしてもっていう時以外は使わないようにするって言われたのよね。そしてある程度血抜きが終わると、今度はお腹を裂いて内臓をとりだし始めたわ。この辺りの作業は何度目かだけど、まだ慣れないわね。必要な事だって分かっているけど。
慣れるために少しだけ見ていたけど、
「華さん、顔が青いよ。無理しないで。少しずつで良いからね」
影井さんの言葉に甘えて少しだけ離れるの。解体している場所の風上にほんの10メートルくらいだけ離れて目を空に向けると少しずつ落ち着いてきたわ。そうしたら一応見張りの真似事くらいはしないとね。
耳を澄まし、下ばえや木の枝の動きに目を配る。これも影井さんに教えてもらったのよね。
「よし、じゃあ水場に持っていくよ」
しばらくしたところで影井さんから声を掛けられたわ。
いつの間にか鹿は持っていけない部分を取り除かれ大分小さくなって木の棒に括り付けられている。あたしはすぐに水を持っていって影井さんの手を洗う手伝いをするの。一番大変なことをしてもらっているのだからこのくらいはしないと申し訳ないもの。
「じゃあ、あと一頑張りだよ」
これまでは小動物を少ししか獲れなかったから食料をかなり節約していたけど。これだけ大きな獲物があれば今日はお腹いっぱい食べられるわよね。
そんな風に思っていたこともあったわ。
「ねえ、影井さん、なんでこれだけしか食べちゃダメなの?今日はたくさんお肉獲れたわよね」
「ああ、これが日本でなら、いや日本でなくても地球でなら遭難中でもたっぷり食べるとこだけどね。この肉が本当
に食べて良いものか分からないからね。少しだけ口にして。せめて半日体調を確認してからじゃないと怖いんだよ」
「うう、わかりました。体調に異常がなければ明日はお腹いっぱい食べられるんですよね」
がっかりするあたしの頭を影井さんはくしゃくしゃと撫でるの。
「ああ、はやいところ食べられるものを見分けるのも大事だしな」
そのはずだったのだけど……。
あたしと影井さんは今一生懸命に走っている。
「ねえ、影井さん。手当してもらって10日も経つから足はもう痛くないけど。なんであたし達はこんなことになってるのかしら?」
「悪いな。水場にはいろんな動物も集まるってのは分かっていたんだが、まさかここで出会い頭にこうなるとは思ってなかったよ」
「でも向こうの方が速そうに見えるのは気のせいじゃないわよね」
あたし達の後ろには頭に木の枝のような大きめの角を生やした4つ足の動物が追いかけてきているのよね。日本だけではなく地球でなら間違いなく草食のはずのそれは、その角に引っかかる下ばえや細めの木をバキバキと吹き飛ばしながら追いかけてきてるわ。見た目だけなら鹿なんだけど。絶対肉食よねあれ。
「そうだね、でもあんな開けた場所で正面から戦ったら勝ち目ないからね。力の弱い人間は頭を使わないといけないってことだよ」
「でも影井さん。最初竹やりで一突きしてましたよね」
それも正面からかなりギリギリで危ない感じだったのよね。
「そりゃ、何もなしで逃げるんじゃ芸がないからね。それに華さん、体力そんなにないでしょ」
「うっ、それはあたしはインドア派だからしかたないっていうか、でもそれと何が関係あるの?」
影井さん、痛いところを突いてくるわね。確かにこんなペースで走っていたらあたしは、すぐにばてちゃうわよ。
「それは、見ていればわかるよ。ん、そろそろかな」
影井さんはチラリと後ろを見たと思ったら、そこで止まって振り向いたわ。あたしも慌てて止まったけど、いきなり止まるって酷くないかしら。危なく木の根に足を引っかけて転ぶところだったわよ。
「影井さん、ちょっと合図くらいしてくださいよ。危なく転ぶところでしたよ」
文句を言うあたしをスルーして影井さんは追いかけて来ていた動物を見つめているじゃないの。ちょっと、いつもの優しさはどこに行ったのよ。少しは構ってくれてもいいと思うのよ。ってまあ今はそんな場合じゃないてのは分かっているから口に出してこれ以上の文句は言わないけれど。
あら、さっきの動物襲ってこないわね。と思ったら、影井さんが竹やりをまた思いっきり突き刺してたわ。横倒しになっている動物に。
いつの間に倒したの?
そう思いながら見ているうちに影井さんが何度も竹やりを突き刺していくのよね。これはもう勝ちかしら。
影井さんも、そう思ったのね。そっと近づいて竹やりで動物の目をつついているわ。
って、
「危ない」
完全に死んでなかったのね。頭を一振りしてきたわ。影井さんも油断したわけでは無いのだろうけどちょっとひっかけらたみたいだわ。
ちょ、ちょっと手から血が出てるじゃないの。
「影井さん。大丈夫ですか。すぐ手当を……」
あたしはいつも背負っているリュックをおろして中から治療用に道具を出してシートの上に並べた。
影井さんの服の袖をまくり、水で傷口を洗ってクスリを塗る。煮沸消毒しておいたガーゼを当てて、習慣になりつつあるおまじない。
「はやく、よくなりますように。
はい、影井さん出来たわよ」
「ああ、いつもありがとう。じゃあ、こいつを水場に持っていこう」
影井さんは、川にたどり着いて最初に作った石のナイフで仕留めた鹿みたいな動物、いえもう鹿でいいわね。その鹿の首のあたりを裂いて血抜きをしているわね。どうして地球から持ってきたナイフを使わないか聞いたら、補給が出来ないから今は貴重品だからどうしてもっていう時以外は使わないようにするって言われたのよね。そしてある程度血抜きが終わると、今度はお腹を裂いて内臓をとりだし始めたわ。この辺りの作業は何度目かだけど、まだ慣れないわね。必要な事だって分かっているけど。
慣れるために少しだけ見ていたけど、
「華さん、顔が青いよ。無理しないで。少しずつで良いからね」
影井さんの言葉に甘えて少しだけ離れるの。解体している場所の風上にほんの10メートルくらいだけ離れて目を空に向けると少しずつ落ち着いてきたわ。そうしたら一応見張りの真似事くらいはしないとね。
耳を澄まし、下ばえや木の枝の動きに目を配る。これも影井さんに教えてもらったのよね。
「よし、じゃあ水場に持っていくよ」
しばらくしたところで影井さんから声を掛けられたわ。
いつの間にか鹿は持っていけない部分を取り除かれ大分小さくなって木の棒に括り付けられている。あたしはすぐに水を持っていって影井さんの手を洗う手伝いをするの。一番大変なことをしてもらっているのだからこのくらいはしないと申し訳ないもの。
「じゃあ、あと一頑張りだよ」
これまでは小動物を少ししか獲れなかったから食料をかなり節約していたけど。これだけ大きな獲物があれば今日はお腹いっぱい食べられるわよね。
そんな風に思っていたこともあったわ。
「ねえ、影井さん、なんでこれだけしか食べちゃダメなの?今日はたくさんお肉獲れたわよね」
「ああ、これが日本でなら、いや日本でなくても地球でなら遭難中でもたっぷり食べるとこだけどね。この肉が本当
に食べて良いものか分からないからね。少しだけ口にして。せめて半日体調を確認してからじゃないと怖いんだよ」
「うう、わかりました。体調に異常がなければ明日はお腹いっぱい食べられるんですよね」
がっかりするあたしの頭を影井さんはくしゃくしゃと撫でるの。
「ああ、はやいところ食べられるものを見分けるのも大事だしな」
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