JC聖女とおっさん勇者(?)

景空

文字の大きさ
75 / 155
新たな仲間

第75話 奴隷と裏切りと

しおりを挟む
「あれか。女神の雷は、ギリギリな感じだな。朝未、ラウドネスでリーダーに救援の確認を」
「はい」

「こちら6級ハンター、瑶と朝未です。ラウドネスで声のみ届けています。救援は必要ですか。そちらの声もこちらで拾っていますので普通に話していただければ聞こえます」

あたしはラウドネスで女神の雷のリーダーと思われるバスタードソード使いに声を届けた。反応はどうかしらね。


「何?救援?おい、噂の6級ハンターペアが救援に来てくれたぞ。どうする依頼するか?」

リーダーのバスタードソード使いがパーティメンバーに声を掛けたわね。さすがに勝手に依頼するわけにはいかないみたい。

「いくら記録的な勢いで昇級してきたって言っても6級のペアだろう、役に立つのか」
「そんな贅沢言っている場合か。フランディアは気を失ったままだし、俺ももうもたんぞ」

フランディアというのは倒れている細身で優男の弓使いのことみたいね。ただ、槍使いの女の子だけは何も言わずに黙々とオークの変異種に槍を突きつけて牽制しているわ。残念ながら十分なダメージを与えることは出来ていないみたいだけど。
でも、こんなにのんびりしていて良いのかしら。

「あ!」

盾持ちのハンターが盾で受けきれずに飛ばされたわ。どうするのかしら。さっさとしないと間に合わなくなると思うのだけど。

「ファビオ!」

リーダーの男性ハンターが叫んだ。幸い、ファビオと呼ばれた盾持ちのハンターはすぐに立ち上がったわね。あ、でもちょっと腕を痛めたのかしら盾を構える時に顔を顰めているわね。

「わかった。救援を頼む」

やっと返事が来たわね。

「了解しました。まずは通常種のゴブリンとオークを始末します。その後、ゴブリンの変異種に、次いでオークの変異種の順で攻撃をします。そちらは防御優先で耐えてください」

ラウドネスではピンポイントで声を届けられるのでまず対象以外には気づかれないのよね。こういう時にはとっても便利だわ。

まずは、いつものように補助魔法を瑶さんとあたし自身に掛けた。
補助魔法をかけ終わったあたしは瑶さんに頷いて、弓を構え。手前から2番目のオークを狙う。
無防備に矢を頭に受けたオークがその場に崩れた頃には、あたしと瑶さんは敵との距離を走って詰めていたわ。
近接戦闘の距離に入る前に奥側のオークに魔力を少し多めに込めたファイヤーアローを放つ。
これで2体。

瑶さんが手前のゴブリンに突っ込むので、あたしは瑶さんのやや後ろで短剣を構えてバックアップ。
ゴブリンやオーク程度なら瑶さんは一刀のもとに切り伏せる。そんな瑶さんに敵意を向け横から近づいてきたオークにあたしも短剣を振り切る。瑶さんほどの近接戦闘力は無いけど、あたしの身体もこの世界に来て高性能になっている。短剣でゴブリンの腕を切り飛ばすくらいは難しくない。
そして

「ファイヤーアロー」

魔法でゴブリンの胸に大穴を開けとどめを刺す。生き物の命を奪うこともこちらに来て最初の1カ月のサバイバル生活で慣れた。そして、近接戦闘中にでも初級魔法くらいなら使えるようになったのであたしにとってもゴブリンやオーク程度ならもう大した脅威ではないわ。

群れに囲まれさえしなければ。

もっともその囲まれなければっていうのも周囲に人がいなければホーリーでどうにかなってしまうと思うのだけど。

「っと、ストーンミサイル」

女神の雷のメンバーに後ろから襲い掛かろうとしていたオークに初級の地属性魔法を放つ。この魔法は半分物理攻撃。ファイアーアローに比べて殺傷力は低いけれど、質量があるので吹き飛ばす力がある。近づけさせないのには便利なのよね。

あたし達が通常種の討伐を終えるころには、倒れていたフランディアさんも身体の痛みに顔を顰めながらも立ち上がっていた。あら?さっきのマナセンスの反応だと死にかけていた感じだったのだけど。

「ハイポーションを使った。あんたらが来てくれるまでは使う余裕も無かったからな。助かった」

あたしが疑問に思っているのを感じ取ったのだろうリーダーのバスタードソード使いが説明してくれた。

「雑魚を片付けてくれて、戦いやすくなりはしたが……」

変異種から目を離すことなくバスタードソード使いが続けた。

「こいつら、ゴブリンやオークの変異種の割に強いからな、気をつけろ。特にオークの変異種はこんな強いのはオレたちも出会ったことがない」
「逃げられないんですか?」
「無理だな。動きも速い」

なんと、ここでまさかの『ボスからは逃げられない』に遭遇するとは思わなかったわね。
それでも、攻撃しないわけにもいかないので、瑶さんがゴブリンの変異種に切りつけた。
『ザクッ』という感じで刺さった瑶さんの長剣だったけど、さすがに通常素を相手にしたようにはいかなくて、ほどほどのダメージを与えた程度みたい。

「く、硬い」

顔を顰める瑶さんの言葉に、女神の雷のメンバーはそれでも驚いた表情を見せたわね。

「あれに、あんなあっさりとダメージを?」

そんな驚いている女神の雷の反応よりも斃すほうが優先よね。

「ファイヤーアロー」

く、普通のゴブリンやオークなら1発で倒せる程度には魔力込めたのに表面が抉れただけって。

「ええ!!変異種って魔法耐性もあるの!?」

しかもあたしのファイヤーアローであれって、普通の魔法使いのファイヤーアローじゃ皮がちょっと焦げる程度じゃないかしらね。あたしは振り下ろされるゴブリンの変異種の腕を短剣でいなしながら驚きを隠せなかったわ。

「いや、魔法使いってのは聞いてたけど……」

後ろがうるさいわね。おしゃべりしている暇があるなら攻撃しなさいよ。

「でも、あれじゃまだ……」

ん?何か気になる言い方ね。

「おい、マルティナ。オークの方を抑えろ」

女神の雷のリーダーが槍使いの女の子にとんでもない指示をだしたわ。

「ちょ、ちょっと、いくら距離の取れる槍って言っても1人では無理よ」

あたしは、ゴブリンの変異種に牽制のファイヤーアローを打ち込んで距離を取りながら抗議したのだけど、取り合ってくれない。

「良いんだよ。そいつは奴隷だ。多少使い勝手がよかったからこれまで一緒にいたがな。俺たちの命が掛かっているとなれば別さ。そして……」

ドンッ。え?あたしの身体が2体の変異種の間に突き飛ばされた。

「あばよ、甘々な天使ちゃん。せいぜい俺たちが逃げる時間を稼いでくれよ」

振り下ろされるオークの変異種の腕をかろうじて躱したけれど、何が起こったのか分からずあたしは、地面を転がった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...