幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に

景空

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第166話 ぜったいじゃないんでしょ

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「桜。帰ったんじゃなかったのか」
愛翔は聞かせるつもりの無かった内容を聞かれて気まずい顔だ。
「一度帰って。どうしても気になったから来たのよ」
「来たのよって。もう10時じゃないか、こんな時間に出歩いたら理沙さんも直樹さんも心配するだろう」
「大丈夫。お母さんが車で送ってくれたから」
「ったく理沙さんも何考えてんだ」
「愛翔が心配なのよ」
「過保護だろう、さすがにそれは」
あきれ顔で愛翔が言うけれど
「そんなことないよ。今まで愛翔ってがむしゃらに頑張っていろんな事してきたじゃない」
「まあ、それなりに頑張ってきたのは否定しない。けど、それが」
「でも、今回の事は普通じゃないもの。今の愛翔は頑張らせてもらえないでしょ」
「そりゃ、病気からの回復中だから仕方ないだろう」
「ううん。愛翔自身気づいてない?それともあたしの前だから平気なフリしてるのかな?でも、愛翔辛そうなの分かるもの。愛翔はね自分でどこまで気づいているか分からないけど、がむしゃらに頑張るのは平気な男の子なの。キツイトレーニングだって長時間の勉強だって」
「いや、それさすがに平気じゃないぞ。辛いって、辛いけど頑張っただけだぞ」
「そう言うことじゃないのよ。自分が頑張って辛い分には耐えられるの。ずっとそうやってきたから。でも、今病気からの回復ってそうじゃないでしょ。自分ではもっとやりたい、もっとで身体をいじめられる。そんな感覚があって。でもお医者さんに止められている。自分の努力ではどうにもできない。そういう状態よね。それにそれだけじゃなくあたしたちに話してない何かがあるんじゃないかしら」
愛翔の目を見て話すふだんはおっとりしている桜の鋭さは愛翔をどきりとさせた。
「隠しているって程じゃないんだけどな」
そう一言断ったうえで愛翔は続けた。
「確かに病気関連で不安はあるさ。最初理想に近い回復をした割に、最近では思う通りに数値がよくならなくて先生にトレーニング量を制限されたしな。それにサッカーでもほかのスポーツでも白血病で脊髄移植して復帰した例はいくつもあるけど、復帰を断念した人たちも多い。俺自身どこまで戻せるのかってな。それにまだ治療からそろそろ1年。でも5年は再発に要注意だそうだしな。それに……」
愛翔が言いよどんだのに首を傾げる桜。
「それに?」
「これはまだ検査前で確定じゃないんだが、治療前のインフォームドコンセントの中でな将来普通には子供が出来ない可能性があるって言われたんだよ。それも結構な高確率だそうだ」
これにはさすがに桜も動揺を隠せず
「そ、それは……、そのどうにもならないの?」
「一応、治療開始前に精子の冷凍保存ってのはしてあるけどな。自然な形じゃないしパートナーに負担も大きいそうだから……」
いつになく元気のない愛翔を桜はそっと抱きよせた。
「大丈夫よ。そんなくらいであたしが愛翔をあきらめるとでも思ったの?それにぜったいじゃないんでしょ」
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