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13,鬼畜地道モード。
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退院したあとは、しばらくカブ畑に専心。右足が完全復活するまでは、【覇王魔窟】に再挑戦することもできないし。
カブへの愛情だけを生きがいに過ごしていたところ。
ある日、街道を馬車がやって来るのが見えた。こんな辺鄙な場所にしては、珍しく豪華な馬車だ。
私は畑仕事にも使っている魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を、それとなくいつでも戦闘に入れるように構えた。【覇王魔窟】への挑戦を始めてから、どうも警戒心が強くなったなぁ。
馬車から降りてきたのは、ミリカさんだった。女剣士にして伯爵令嬢。ちなみに私は、カブ畑の娘。
「ミリカさ──ん。もう体は大丈夫なんですか?」
一瞬、『さま』か『さん』で迷ったが、ミリカさんは後者を好みそうだったので。
「おかげさまで。あなたが助けてくれたおかげだ。ありがとう、アリアさん」
改めてミリカさんを眺める。
空色の髪をサイドテールにした、程よい筋肉のついた、スタイルの良い美人さんだ。年齢は、私より少し上くらいかな。
そう、私のドストライク! しかし、私にはセシリアちゃんという、一生を決めた人がいるのです。
ところでミリカさんは、右眼には眼帯をしていた。右眼は蟲化してしまったので、おそらく空っぽの眼窩、または義眼が入っているのだろう。
「いえ、そんな。こちらこそ──ミリカさんの身体を裂いたり、トンカチで殴ったり、いろいろと失礼しました」
「身体を裂いたのは、寄生型魔物を取り出すため仕方なかった。あなたが取り出してくれていなかったら、私の全身は複数の蟲と化していただろう。アレックスたちがそうなってしまったように」
「アレックスというのは、ミリカさんと同行したパーティ仲間ですね。あの、よろしかったら、あのとき何が起きたのか話してくれませんか? 寄生型魔物、〈寄生操魔(パペットマスター)〉というんですが、アイツとは、どの階で遭遇を?」
「7階で」
「7階……私が7階に上がったときは、回転刃の魔物〈回転刃人〉がいたのですが」
「そうらしいね。アレックスたちも驚いていた。寄生する魔物など、7階で遭遇したことがないと。そして、あの魔物は悪魔のようなスキルを持っていたんだ。実はね、あなたが私から取り出してくれたのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉の本体ではない。というより、アレの集合体が本体を構築するんだ。いってみるなら、私の体内に入り込んでいたのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉の皮膚の一片。アレックスは私を庇ったため、一気に30体以上、アレに体内へと入り込まれてしまった。そのため、ほんの数秒で、アレックスの肉体は数多の蟲へと分離してしまった」
なるほど。ミリカさんの体内に入り込んだのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉パーツの一体だけだった。だから蟲化する速度が遅く、右眼球だけで済んだわけか。いずれにせよ、〈寄生操魔(パペットマスター)〉という魔物、ひとことで言い表すならば──初見殺し。
「直接会って、助けてくれたお礼を言いたかったんだ。改めて、ありがとうアリアさん。必ずこの恩は返させてもらうよ」
「いえ、そんな──私こそ、ありがとうございました」
ミリカさんは『何のことだろう』という顔で、馬車に乗った。
走り去るを馬車を見届けながら、やはり私は、ミリカさんに感謝したい。仮に、前知識なく〈寄生操魔(パペットマスター)〉と遭遇していたらどうなっていたか? まず、私は数多の蟲と化されていただろう。九死に一生を得たというところだ。
にしても──ふーむ。なぜミリカさんたちは、7階で〈寄生操魔(パペットマスター)〉と遭遇したのか。
さらに日付は過ぎ去り──ついに右足も完治。私は約一か月ぶりに、【覇王魔窟】へと戻った。【覇王魔窟】の前では、ジェシカさんが待っていてくれた。
「アリア! はい、これ。復帰祝いだよ~。といっても、ただのサンドイッチだけど」
「ありがとうです。あの、ジェシカさん。【覇王魔窟】では、階層ごとに出現する魔物は決まっているはずですよね?」
「そうだよ~」
「ですよねぇ」
いただいたサンドイッチを食べながら、ふぅむ、と一考する。
しかし、ミリカさんが嘘をついたとも、記憶が混乱しているとも思えない。ということは、【覇王魔窟】にはまだ秘密があるのだろう。
おそらく、何らかの条件が整うと、一時的に階層がランダム化する、とか。
とすると、〈寄生操魔(パペットマスター)〉は実際は、もっと上層階にいるのだろう。まず33階よりは上に(ミリカさんと同行したパーティの人たちは、33階までは上ったことがある、という話なので)。
改めて、考えさせられる。上へ上へと階が上がれば、〈寄生操魔(パペットマスター)〉のような、初見殺しの固有スキルをもつ魔物が、わんさかいるのだろうと。
「ジェシカさん。私は、気づきましたよ。今はまず、鬼畜地道モードに入るべきなのだと」
「う~ん。ごめん、何モードだって?」
「鬼畜地道モードですよ。これから500日間、私は【覇王魔窟】1~7階を行ったり来たりします。そして、コツコツと魔素を集めて、〈スーパーコンボ〉の強化に励むのです」
「………………まぁ、いいけど。いちおう復習だけど、雑魚い魔物をいくら倒しても、取り込める魔素は限りなく少ないんだよ。それじゃあ、快適なレベル上げは難しいよ」
「ですが、少なくとも魔素は取り込めるんですよね? それならば、まずは少しずつでも確実にコツコツ取り込むことです。私はあと一歩間違っていたら、8階で〈影鰐(シャドウアリゲーター)〉によって、右足を失っていたんですよ。義足じゃぁ、もう最上階に挑むことはできなかった。運が良かっただけです。
だから大事なことは、血のにじむような鬼畜のような地道さです。何事も、地道が一番。だから私は、500日縛りを自分に設けることにしたんです」
「ふぅん。まぁ、キミのやりたいように望めばいいさ。頑張って」
「はいっっっ!」
カブへの愛情だけを生きがいに過ごしていたところ。
ある日、街道を馬車がやって来るのが見えた。こんな辺鄙な場所にしては、珍しく豪華な馬車だ。
私は畑仕事にも使っている魔改造鍬〈スーパーコンボ〉を、それとなくいつでも戦闘に入れるように構えた。【覇王魔窟】への挑戦を始めてから、どうも警戒心が強くなったなぁ。
馬車から降りてきたのは、ミリカさんだった。女剣士にして伯爵令嬢。ちなみに私は、カブ畑の娘。
「ミリカさ──ん。もう体は大丈夫なんですか?」
一瞬、『さま』か『さん』で迷ったが、ミリカさんは後者を好みそうだったので。
「おかげさまで。あなたが助けてくれたおかげだ。ありがとう、アリアさん」
改めてミリカさんを眺める。
空色の髪をサイドテールにした、程よい筋肉のついた、スタイルの良い美人さんだ。年齢は、私より少し上くらいかな。
そう、私のドストライク! しかし、私にはセシリアちゃんという、一生を決めた人がいるのです。
ところでミリカさんは、右眼には眼帯をしていた。右眼は蟲化してしまったので、おそらく空っぽの眼窩、または義眼が入っているのだろう。
「いえ、そんな。こちらこそ──ミリカさんの身体を裂いたり、トンカチで殴ったり、いろいろと失礼しました」
「身体を裂いたのは、寄生型魔物を取り出すため仕方なかった。あなたが取り出してくれていなかったら、私の全身は複数の蟲と化していただろう。アレックスたちがそうなってしまったように」
「アレックスというのは、ミリカさんと同行したパーティ仲間ですね。あの、よろしかったら、あのとき何が起きたのか話してくれませんか? 寄生型魔物、〈寄生操魔(パペットマスター)〉というんですが、アイツとは、どの階で遭遇を?」
「7階で」
「7階……私が7階に上がったときは、回転刃の魔物〈回転刃人〉がいたのですが」
「そうらしいね。アレックスたちも驚いていた。寄生する魔物など、7階で遭遇したことがないと。そして、あの魔物は悪魔のようなスキルを持っていたんだ。実はね、あなたが私から取り出してくれたのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉の本体ではない。というより、アレの集合体が本体を構築するんだ。いってみるなら、私の体内に入り込んでいたのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉の皮膚の一片。アレックスは私を庇ったため、一気に30体以上、アレに体内へと入り込まれてしまった。そのため、ほんの数秒で、アレックスの肉体は数多の蟲へと分離してしまった」
なるほど。ミリカさんの体内に入り込んだのは、〈寄生操魔(パペットマスター)〉パーツの一体だけだった。だから蟲化する速度が遅く、右眼球だけで済んだわけか。いずれにせよ、〈寄生操魔(パペットマスター)〉という魔物、ひとことで言い表すならば──初見殺し。
「直接会って、助けてくれたお礼を言いたかったんだ。改めて、ありがとうアリアさん。必ずこの恩は返させてもらうよ」
「いえ、そんな──私こそ、ありがとうございました」
ミリカさんは『何のことだろう』という顔で、馬車に乗った。
走り去るを馬車を見届けながら、やはり私は、ミリカさんに感謝したい。仮に、前知識なく〈寄生操魔(パペットマスター)〉と遭遇していたらどうなっていたか? まず、私は数多の蟲と化されていただろう。九死に一生を得たというところだ。
にしても──ふーむ。なぜミリカさんたちは、7階で〈寄生操魔(パペットマスター)〉と遭遇したのか。
さらに日付は過ぎ去り──ついに右足も完治。私は約一か月ぶりに、【覇王魔窟】へと戻った。【覇王魔窟】の前では、ジェシカさんが待っていてくれた。
「アリア! はい、これ。復帰祝いだよ~。といっても、ただのサンドイッチだけど」
「ありがとうです。あの、ジェシカさん。【覇王魔窟】では、階層ごとに出現する魔物は決まっているはずですよね?」
「そうだよ~」
「ですよねぇ」
いただいたサンドイッチを食べながら、ふぅむ、と一考する。
しかし、ミリカさんが嘘をついたとも、記憶が混乱しているとも思えない。ということは、【覇王魔窟】にはまだ秘密があるのだろう。
おそらく、何らかの条件が整うと、一時的に階層がランダム化する、とか。
とすると、〈寄生操魔(パペットマスター)〉は実際は、もっと上層階にいるのだろう。まず33階よりは上に(ミリカさんと同行したパーティの人たちは、33階までは上ったことがある、という話なので)。
改めて、考えさせられる。上へ上へと階が上がれば、〈寄生操魔(パペットマスター)〉のような、初見殺しの固有スキルをもつ魔物が、わんさかいるのだろうと。
「ジェシカさん。私は、気づきましたよ。今はまず、鬼畜地道モードに入るべきなのだと」
「う~ん。ごめん、何モードだって?」
「鬼畜地道モードですよ。これから500日間、私は【覇王魔窟】1~7階を行ったり来たりします。そして、コツコツと魔素を集めて、〈スーパーコンボ〉の強化に励むのです」
「………………まぁ、いいけど。いちおう復習だけど、雑魚い魔物をいくら倒しても、取り込める魔素は限りなく少ないんだよ。それじゃあ、快適なレベル上げは難しいよ」
「ですが、少なくとも魔素は取り込めるんですよね? それならば、まずは少しずつでも確実にコツコツ取り込むことです。私はあと一歩間違っていたら、8階で〈影鰐(シャドウアリゲーター)〉によって、右足を失っていたんですよ。義足じゃぁ、もう最上階に挑むことはできなかった。運が良かっただけです。
だから大事なことは、血のにじむような鬼畜のような地道さです。何事も、地道が一番。だから私は、500日縛りを自分に設けることにしたんです」
「ふぅん。まぁ、キミのやりたいように望めばいいさ。頑張って」
「はいっっっ!」
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