農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

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38,片足旅。

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161階に入ったとたん、右足側で浮遊感があった。

 この感覚、以前も経験したような。そうそう、はじめて【覇王魔窟】に入ったときにも、こんな感じでしたねぇ。

 左足でけんけんしながら、魔改造くわ〈スーパーコンボ〉を構えるも、敵がいない。いや、見えない? 
 動きは鈍くなるが、《鎧装甲》で全身に鎧を装着し、防御力を爆上げ。
 その上でまず左手を伸ばして、切断された右足を回収。
 
 右太腿のところで、あまりに綺麗に切断されているのだ。
 こんなに綺麗に切断してくれたので、エルフの里の病院なら再接合手術できるかも? 

 とにかく左足だけでは戦えないので、〈緊急脱出トンカチ〉を使って脱出するわけだけど。せめて敵の正体くらい知りたい。
 そして、見た。鋭い風の塊が吹いていて、いまそれが私に向かって飛来してくる。
 紙一重で避けた──と思ったが、右わき腹が抉られ出血する。

 理解した。厳密には視認していないが視認したということで、〈魔物図鑑:視覚版〉が機能。敵魔物の名は《鎌鼬カッティング》。
 視認するのも難しい風の塊、それが161階の魔物の正体だ。しかも、その切れ味が異常すぎる。こっちは『(防御Lv.5)+《鎧装甲》』で防御していたのに、かすっただけで右わき腹を削がれている。
 それにあんなに速い敵に打撃を当てられるスキルも手持ちにはないし。

〈緊急脱出トンカチ〉で頭を打ちながら、「いきなり難易度が上がりましたねぇ」と、【覇王魔窟】に心の中で言ってみた。
 これは文句ではなくて、『そうなくちゃ!』という賞賛です念のため。

【覇王魔窟】の外へ空間転移。こんなときに限って、ジェシカさんがいない。すると自力でエルフの里に行かなきゃなのかぁ。
 右太腿の切断面からの出血がさほどなのは、余程スパッッと切断されたからだろうか。それでもちゃんと止血はしておかないと。
 えーと。素人考えだけど、このビュッビッュと鮮やかな血を噴いている大動脈を止血しなきゃだよね。じかに糸で大動脈の切断面を結んでみた。あ、出血がとまったぞい。

 ここからエルフの里まで行かなきゃだけど。あそこは王国民には秘密の場所。よって乗合馬車で行ける場所でもない。
 が、とりあえずその近くまでは、乗合馬車を利用してもいいよね。
 まずは近くの乗合馬車の停留所へ、けんけんで向かう。

 停留所では、ちょうど乗合馬車が来たところだ。ラッキー。けんけんのジャンプで、馬車内に乗り込む。先に座っていた乗客たちが、あんぐりと口を開けた。

「なんでしょうか。いまどき、右足を切断された旅人が珍しいのでしょうか?」

 隣の席の人がなぜか逃げたので、私はそこに切断された右足を置いた。ちゃんと持っていけば、再接合手術してくれる可能性があるからね。
 疲れたので転寝していたところ、しばらく進んでから乗合馬車が急停止した。けんけんで表に出て、御者さんに尋ねる。

「何事ですか?」

 御者さんは怯えた様子。乗合馬車の会社が雇ったとみられる用心棒の人が、ブロードソードを右手に持つ。
 一方、乗合馬車の進行方向では、ひとめで盗賊さんたちと分かる方々が、ニヤニヤ笑いながら立っていた。あれ。もしかして、あの盗賊さんたちは──おお、これも運命。

 用心棒さんたちに止められたが、私はけんけんで盗賊さんたちのもとへ。〈スーパーコンボ〉片手に、道具袋からとあるものを取り出した。ハンカチで包んである。

「あなたたち、バルク盗賊団の残党さんですね? どうか、これをお納めください」

 私が差し出したものを見ながら、残党さんたちが笑い出す。

「おいおい、俺たちは有り金ぜんぶいただくんだぜ。こんな汚い代物──なんだか知らんがいるかよバーカ」

「まぁ、お待ちください。実は、ずっと冒険者ギルドに届けるのを忘れていまして。ただギルドに渡すより、あなた達に納めたほうがいいのかなと。ですから、こちらをどうか受け取ってください」

 私はハンカチを開いて、とっくに腐っている切断した右耳をぐっと差し出す。

「あなたがたの首領だった、バルクさんの右耳です」

 残党の方々が、なぜか固まっている。まぁ確かに、かつては自分たちを率いていた首領さんの右耳と出会ったら、感動のあまり固まることも分からなくなはない。

「早く受け取ってください。蛆がわいているのは、申し訳なく思いますが。バルクさんの死体の残骸から持ち出して、かれこそ日付も経っていますからねぇ。しかし、愛は残っているはずです」

「てめぇ、ふざげんじゃねぇぞ! そんな気持ちのわりぃものを見せんじゃねぇぇ!!」

 と、残党さんの一人が怒鳴るので、私は〈スーパーコンボ〉を反対にもち、柄頭でその方の右膝を粉砕した。

「ぎゃぁぁぁぁあああああぁぁぁぁなんでぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「こら、なんてことを言うんですか? あなた達の首領さんの右耳に対して、『気持ち悪い』とは。謝りなさい」

 別の残党さんが「ふざけやがってぇぇぇ!!」と長剣で斬りかかってきたので、私は左腕を振るって、その刃を破壊した。(防御Lv.5)パネルを解放してある身としては、いまさら盗賊さんの通常攻撃ではかすり傷ひとつ負わないので。

〈スーパーコンボ〉を振るって、残党さんたちの足を払い、地面に倒した。そのうち一人の頭に、〈スーパーコンボ〉の柄頭を振り落とし、ぐっと力をこめる。

「ああぁぁぁ頭がぁぁぁぁ潰れるぅぅぅぅう!!!」

 大袈裟な。

「謝りなさい。バルクさんの右耳に謝りなさい」

「ぎゃぁぁぁあごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁいい!!」

 それから、ほかの残党さんも土下座して、右耳に謝罪。それから私は、右耳を差し出す。分かってくれたようで、残党さんたちは恭しく右耳を受け取った。で、慌てふためきながら逃げていく(右膝を粉砕した方は、仲間たちに引きずられるようにして)。

「良かったですね、バルクさん」

 涙ぐんでしまいました。
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