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47,決闘。
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気乗りしないが、これもミリカさんのためだ。行くぞい。
ハーバン伯爵の私設騎士団の案内で、決闘とやらが行われる草原へと案内してもらう。攻略要素もないのに、『決闘』と称して殺し合うとは、物好きな人たちもいるものだ。
くだんの草原では、これまた面倒そうな様相を成していた。
ハーバン伯爵の所有する軍と、エルベン侯爵の所有軍が向かい合っていた。双方の軍の距離の開きは100メートルくらいか。
一触即発。
宰相さんがいなくなったのに、結局、この二つの勢力は争うことになるのか。宰相さんもつまらない小細工をする必要もなかったのにね。しかし、あとからどうこう言うことは簡単なのだ。
「明るい日差しのもとで、何をしているんですか。これが暗雲たれこめる世界というのならば、仕方ないかもしれません。憂鬱になって、ちょっと暴力的になることもあるでしょう。しかし、いまは晴天。晴れ渡った空があるのに、一体、なにが嬉しくて小競り合いしているんですか」
知り合いの騎士さんが、エルベン侯爵への怒りを滲ませながら言った。
「勘違いしないでいただきたい、アリア殿。すべてはエルベン侯爵側による領地侵犯が原因だ。全面戦争になるところを、ミリカ様のご提案により、互いの陣営から代表者を出し、決闘で全体の勝敗を決めることとなった」
「しかし、それで決闘に伯爵令嬢を投入ですか? 伯爵さまは、当然ながら気乗りしない度高しだったようですが──」
すると騎士さんが、なんだか恥辱に堪えぬという顔をした。これは守るべきミリカさんに決闘を託さざるをえない己への恥ずかしさか。簡単にいってしまえば、ハーバン伯爵陣営で最も強いのは、いまやミリカさんということなのだろう。そういえばミリカさんと一緒に【覇王魔窟】へ乗り込んだ腕利きたちは、全滅しちゃったしね。案外、そのことがエルベン侯爵の領地侵犯やったろのキッカケとなったのかも。
「ミリカさんはどこですか?」
すでに軽装鎧を装着し、いざ出陣の構えのミリカさんを発見。
「ミリカさーん、ミリカさーん」
ミリカさんが私を見るなり、顔を輝かせた。
「アリアさん! あなたに応援していただけるのなら、百人力だ」
「違います違います。応援しちゃうのは、ミリカさんですよ。伯爵さまのご依頼で、私が代理で決闘することになりました」
というか、娘を守るためとはいえ、ハーバン伯爵は己の貴族家としての未来を、一介のカブ畑の娘に託したのか。なんというか、大丈夫かな、あの人は。
「いや、アリアさん。これは、われわれの問題、われわれの戦いだ。あなたを巻き込むわけにはいかない」
『あなたを巻き込むわけにはいかない』というセリフは、たいがいもう巻き込んでから言ってくるものである。
「ミリカさん。正直に言うと、私はハーバン伯爵家の未来とか、あんまり興味がないんですよ。領民でもないですしね。
だけどミリカさんのことは好きなので、放っておけないのです。だから、ここは私に任せてください。
それにミリカさんには、領民への責任というものがあるでしょ? これが領主同士の決闘とかなら口出ししませんが、エルベン侯爵側は腕利きの〈挑戦者(ディファイアンス)〉を送り出してくるというじゃないですか。それなら、ミリカさんもミリカさんの腕利きを送り出せばいいんです。あ、私のことですよ、念のため」
さて、私の思いは伝わっただろうか。
ミリカさん、なぜか顔を真っ赤にして、もじもじしだす。
「アリアさん…………わたしのことを愛しているのだなっ! 実は、わたしもアリアさんのことを意識していて──」
ダメだ、こりゃ。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉片手に決闘の場となる中央へと進む。慌ててミリカさんが追いかけてきた。
「アリアさん。ここは、あなたに託そう。感謝する。だが気をつけてくれ。東洋の国から来たという決闘相手のロクウだが、奴の抜刀術とやらは、光の速度ともいわれるほどだ」
「はい」
私は自分の胸部を、さすった。決闘について、とくに心配することはない。敵を舐めているわけではないが、だからといって恐れる相手とも思えない。
唯一の懸念は──この寝息を立てている『正真正銘の化け物』である〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さん。この魔物さんが目覚めないか、ということに尽きる。
決闘場には、エルベン侯爵とロクウさんが待っていた。エルベン侯爵という人は、でっぷり肥っていて、やたらと着飾り、どうにも傲慢そうな顔をしていた。これぞ貴族を体現している、ある意味では親切な人だった。
一方、ロクウさんはこれぞ戦士という風格。鎧などは身につけず、ただ粗末な鞘におさまった刀とやらを装備するのみ。直感的に気づいた。このロクウさんも、私と同じ武器強化タイプ。Lv.上限999の世界で生きる人。
エルベン侯爵がニヤニヤ笑う。
「おや、ミリカ嬢。まさか、君の代理として戦うのが、そんな貧相な小娘というわけではあるまいな? まぁ、わしとしては、簡単に決闘のケリがつくのは申し分ないが」
エルベン侯爵は、なんだか嬉しそうだ。そういえば好色な目でミリカさんを見ているような。なるほど。ミリカさんの身体を狙っているが、ここで決闘で出てこられると、ロクウさんが斬らざるをえない。それで惜しいと思っていたところ、貧相な小娘、つまり私が出てきたので、全てが思い通りに事が運んでいるぞと。まぁ、そんなところか。
ロクウさんが前に出る。空気が変わる。エルベン侯爵のニヤニヤ笑いも消える。
「旦那、とっとと始めよう」
その一言からして、ロクウさんとエルベン侯爵の実際の力関係が分かるというものだ。そしてロクウさんが私に言う。
「お主がタダ者ではないことは、拙者には分かっておる。真の猛者だけが、相手の力量を推し量れるものだ。だから分かるでござろう? 拙者は、強い。お主も、強い。これから始まる決闘は、歴史に名を残す一戦となるでござろう」
「あの、頑張りますっ!」
決闘開始。
私は、ロクウさんの期待に応えようと頑張った。本気ですっっっ!
ロクウさんが、光の速度といわれる抜刀術を披露。速──いかな、これ???
私は私で、思い切り〈スーパーコンボ〉を振るう。ロクウさんの刀を破壊し、ロクウさんの胴体にめり込ませ、ロクウさんを吹っ飛ばした。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫びながら、ロクウさんの身体が、どこまでも飛んでいって──エルベン侯爵の軍まで、突っ込んでいった。
私は〈スーパーコンボ〉を、そっとおろした。
「……………なんか、ごめんなさい」
ハーバン伯爵の私設騎士団の案内で、決闘とやらが行われる草原へと案内してもらう。攻略要素もないのに、『決闘』と称して殺し合うとは、物好きな人たちもいるものだ。
くだんの草原では、これまた面倒そうな様相を成していた。
ハーバン伯爵の所有する軍と、エルベン侯爵の所有軍が向かい合っていた。双方の軍の距離の開きは100メートルくらいか。
一触即発。
宰相さんがいなくなったのに、結局、この二つの勢力は争うことになるのか。宰相さんもつまらない小細工をする必要もなかったのにね。しかし、あとからどうこう言うことは簡単なのだ。
「明るい日差しのもとで、何をしているんですか。これが暗雲たれこめる世界というのならば、仕方ないかもしれません。憂鬱になって、ちょっと暴力的になることもあるでしょう。しかし、いまは晴天。晴れ渡った空があるのに、一体、なにが嬉しくて小競り合いしているんですか」
知り合いの騎士さんが、エルベン侯爵への怒りを滲ませながら言った。
「勘違いしないでいただきたい、アリア殿。すべてはエルベン侯爵側による領地侵犯が原因だ。全面戦争になるところを、ミリカ様のご提案により、互いの陣営から代表者を出し、決闘で全体の勝敗を決めることとなった」
「しかし、それで決闘に伯爵令嬢を投入ですか? 伯爵さまは、当然ながら気乗りしない度高しだったようですが──」
すると騎士さんが、なんだか恥辱に堪えぬという顔をした。これは守るべきミリカさんに決闘を託さざるをえない己への恥ずかしさか。簡単にいってしまえば、ハーバン伯爵陣営で最も強いのは、いまやミリカさんということなのだろう。そういえばミリカさんと一緒に【覇王魔窟】へ乗り込んだ腕利きたちは、全滅しちゃったしね。案外、そのことがエルベン侯爵の領地侵犯やったろのキッカケとなったのかも。
「ミリカさんはどこですか?」
すでに軽装鎧を装着し、いざ出陣の構えのミリカさんを発見。
「ミリカさーん、ミリカさーん」
ミリカさんが私を見るなり、顔を輝かせた。
「アリアさん! あなたに応援していただけるのなら、百人力だ」
「違います違います。応援しちゃうのは、ミリカさんですよ。伯爵さまのご依頼で、私が代理で決闘することになりました」
というか、娘を守るためとはいえ、ハーバン伯爵は己の貴族家としての未来を、一介のカブ畑の娘に託したのか。なんというか、大丈夫かな、あの人は。
「いや、アリアさん。これは、われわれの問題、われわれの戦いだ。あなたを巻き込むわけにはいかない」
『あなたを巻き込むわけにはいかない』というセリフは、たいがいもう巻き込んでから言ってくるものである。
「ミリカさん。正直に言うと、私はハーバン伯爵家の未来とか、あんまり興味がないんですよ。領民でもないですしね。
だけどミリカさんのことは好きなので、放っておけないのです。だから、ここは私に任せてください。
それにミリカさんには、領民への責任というものがあるでしょ? これが領主同士の決闘とかなら口出ししませんが、エルベン侯爵側は腕利きの〈挑戦者(ディファイアンス)〉を送り出してくるというじゃないですか。それなら、ミリカさんもミリカさんの腕利きを送り出せばいいんです。あ、私のことですよ、念のため」
さて、私の思いは伝わっただろうか。
ミリカさん、なぜか顔を真っ赤にして、もじもじしだす。
「アリアさん…………わたしのことを愛しているのだなっ! 実は、わたしもアリアさんのことを意識していて──」
ダメだ、こりゃ。
私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉片手に決闘の場となる中央へと進む。慌ててミリカさんが追いかけてきた。
「アリアさん。ここは、あなたに託そう。感謝する。だが気をつけてくれ。東洋の国から来たという決闘相手のロクウだが、奴の抜刀術とやらは、光の速度ともいわれるほどだ」
「はい」
私は自分の胸部を、さすった。決闘について、とくに心配することはない。敵を舐めているわけではないが、だからといって恐れる相手とも思えない。
唯一の懸念は──この寝息を立てている『正真正銘の化け物』である〈倦怠艶女(ミスティナ)〉さん。この魔物さんが目覚めないか、ということに尽きる。
決闘場には、エルベン侯爵とロクウさんが待っていた。エルベン侯爵という人は、でっぷり肥っていて、やたらと着飾り、どうにも傲慢そうな顔をしていた。これぞ貴族を体現している、ある意味では親切な人だった。
一方、ロクウさんはこれぞ戦士という風格。鎧などは身につけず、ただ粗末な鞘におさまった刀とやらを装備するのみ。直感的に気づいた。このロクウさんも、私と同じ武器強化タイプ。Lv.上限999の世界で生きる人。
エルベン侯爵がニヤニヤ笑う。
「おや、ミリカ嬢。まさか、君の代理として戦うのが、そんな貧相な小娘というわけではあるまいな? まぁ、わしとしては、簡単に決闘のケリがつくのは申し分ないが」
エルベン侯爵は、なんだか嬉しそうだ。そういえば好色な目でミリカさんを見ているような。なるほど。ミリカさんの身体を狙っているが、ここで決闘で出てこられると、ロクウさんが斬らざるをえない。それで惜しいと思っていたところ、貧相な小娘、つまり私が出てきたので、全てが思い通りに事が運んでいるぞと。まぁ、そんなところか。
ロクウさんが前に出る。空気が変わる。エルベン侯爵のニヤニヤ笑いも消える。
「旦那、とっとと始めよう」
その一言からして、ロクウさんとエルベン侯爵の実際の力関係が分かるというものだ。そしてロクウさんが私に言う。
「お主がタダ者ではないことは、拙者には分かっておる。真の猛者だけが、相手の力量を推し量れるものだ。だから分かるでござろう? 拙者は、強い。お主も、強い。これから始まる決闘は、歴史に名を残す一戦となるでござろう」
「あの、頑張りますっ!」
決闘開始。
私は、ロクウさんの期待に応えようと頑張った。本気ですっっっ!
ロクウさんが、光の速度といわれる抜刀術を披露。速──いかな、これ???
私は私で、思い切り〈スーパーコンボ〉を振るう。ロクウさんの刀を破壊し、ロクウさんの胴体にめり込ませ、ロクウさんを吹っ飛ばした。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫びながら、ロクウさんの身体が、どこまでも飛んでいって──エルベン侯爵の軍まで、突っ込んでいった。
私は〈スーパーコンボ〉を、そっとおろした。
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