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48,すでに人外。
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ロクウさん、生きているといいのだけど。
私が心配していたら、いきなりエルベン侯爵がうわずった声で叫び出した。
「み、認めんぞ! こんな茶番は無効だぁぁ!!」
ミリカさんがハッとして、エルベン侯爵に詰め寄る。
「ふざけるなっ! 決闘の勝敗で決めると約束しただろ!」
「そんな化け物じみた女を連れてくるなど、卑怯だろうがぁぁぁぁ!!」
「化け物だと! わたしの未来の伴侶になんという暴言を!」
いやいや、ミリカさん、いやいや、ミリカさん、何を言っているのだミリカさん。同性婚は違法ということを思い出して。私がなんのために【覇王魔窟】にのぼっているのか、その原点をですね。
ここで私は、地味に衝撃を受けた。エルベン侯爵は肥えた見た目に反した身軽さで、馬に飛び乗ったのだ。それから自軍へと馬を駆けさせながらも、両手を振り回して合図を出す。用意を整えていたエルベン侯爵軍が鬨の声を上げて、進軍を開始した。
ミリカさんが「くっ」と言った。実際に「くっ」という人を始めてみたなぁ。
「くっ。裏切ったか、エルベン侯爵。こうなったら、われわれの領地を守るためにも、戦うしかない。合戦だ!」
それは人が死にすぎるなぁ。
「ミリカさん、私につかまっていてください」
「え?」
「あの、ですから、しがみ付いてくださいと──はい、それでOKです」
ここぞとばかりにグッとしがみ付いてきたミリカさん。
私は《破嵐打》を発動。
『破壊力重視の一撃。ただしチャージに5秒かかる』。1、2、3、4、5──
そして足元の大地に、叩き込んだ。《破嵐打》の破壊のエネルギーは、軽めの隕石が落ちたがごとく。
私が打ち込んだ地点を中心として、半径500メートル弱の大地が大爆発し、ぐしゃっーーと抉り取られ、大量の土砂と瓦礫が舞い上がる。
ふぅ、と溜息をついたとき。私は《破嵐打》が作った巨大クレーターの底にいた。厳密には、少し浮いている。
《破嵐打》を大地にぶち当てた直後、《操縦》で〈スーパーコンボ〉を浮かせ、私もそれにつかまって浮遊したことによって、《破嵐打》による破壊エネルギーの嵐の直撃を避けたわけだ。それは、私にしがみ付いていたミリカさんも同じこと。
ふわふわと漂って、クレーターの縁まで移動する。
ふむ。《破嵐打》は、思っていたより威力があった。これならば、当分は必殺の一撃として機能しそう。それこそ【覇王魔窟】の中間層くらいまでいけるかな?
ひとつの目安としては、やはりあの〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉だろうか。《耕作:一人前》のスキル実にも頼らずとも、打撃スキルだけで〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉クラスを撃破できるようにならないと。中間層より上は、厳しいわけだよね。
などと、つい油断すると、【覇王魔窟】攻略のことを考えてしまう。
いけませんね。ちゃんと日常生活は真面目に送らないと。【覇王魔窟】攻略が人生の全てではない、というスタンス大事。
呆然として、周囲を見回すミリカさん。土煙がなくなっていくと、よくよく見えるようになってきた。
両軍とも《破嵐打》による大爆発の影響で壊滅状態。
ただし致命傷となるほどの被害は受けていないはずだ。直に《破嵐打》を当てたのではなく、大地を経由したので、よい感じの手加減となったはず。
「凄まじい威力だ……だがアリアさん…………われわれの軍も被害を受けたのだが……」
「しかし、死にはしていないでしょう。大地内で爆発したので、皆さんせいぜいひっくり返って、身体中を骨折した程度で」
私はエルベン侯爵軍のほうに歩いていき、負傷してうめいている兵士たちをまたぎこえて行く。ようやく見つけたエルベン侯爵は、ひっくり返った馬の下敷きになっていた。
「あ、エルベン侯爵。いましたね」
「た、頼む、助けて、くれ」
現在のところ、私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉のスキルツリーによる防御領域『使用者の防御力をUPする(防御Lv.6)』によって、生身も防御力だけは上がっている。
ただしスキルツリーによる『肉体改造』はその程度なので、筋力とかは上がっていない(打撃領域の『武器の打撃力をUPする(打撃Lv.6)』は、私にではなく〈スーパーコンボ〉に付与されているアビリティなので)。
つまり、ここで馬を持ち上げて、エルベン侯爵を助け出すことはできないわけだ。もちろん馬さんを粉みじんに吹き飛ばすことはできるけど、そんな動物虐待はしません。
私はエルベン侯爵のそばに屈みこんで、〈スーパーコンボ〉を地べたに置いた。何かが動いたので手を伸ばすと、ただの蠍(さそり)だ。
【覇王魔窟】1階で〈蠍群魔(スコーピオン)〉と何度も戦ったので、蠍には妙に親近感がわく。そんな小さな蠍(さそり)を、私はエルベン侯爵の鼻の右穴に押し込んだ。
「あぁぁ??アアアあああぎゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁああアアアアアぁぁぁぁぁ?!??!!!」
「嘘つきは、ダメですよエルベン侯爵」
蠍さんを鼻の穴から引きずり出す。それからまた、鼻の穴に押し込んだ。ついに押し込みすぎて、エルベン侯爵の口から出てきた。
「領地侵略なんて、もうしないでくださいね? もし、また悪いことをしたら。私は、遊びにいきますよ。あなたのご自宅に、あなたが家族さんと晩餐とか楽しんでいるときに、私は行きますよ。分かりましたか、エルベン侯爵? 私を、遊びに行かせないでくださいね?」
エルベン侯爵さんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、ひたすらうなずいて、
「わわわわわ゛わ゛、分がりまがだぁぁぁぁ、分がががりまじだがらぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!! だがらぁぁあもう許ででぇぇぇぇぇぇ!!!」
私は、にっこりです。
「話せば分かってくれると思いましたよっっっ!」
私が心配していたら、いきなりエルベン侯爵がうわずった声で叫び出した。
「み、認めんぞ! こんな茶番は無効だぁぁ!!」
ミリカさんがハッとして、エルベン侯爵に詰め寄る。
「ふざけるなっ! 決闘の勝敗で決めると約束しただろ!」
「そんな化け物じみた女を連れてくるなど、卑怯だろうがぁぁぁぁ!!」
「化け物だと! わたしの未来の伴侶になんという暴言を!」
いやいや、ミリカさん、いやいや、ミリカさん、何を言っているのだミリカさん。同性婚は違法ということを思い出して。私がなんのために【覇王魔窟】にのぼっているのか、その原点をですね。
ここで私は、地味に衝撃を受けた。エルベン侯爵は肥えた見た目に反した身軽さで、馬に飛び乗ったのだ。それから自軍へと馬を駆けさせながらも、両手を振り回して合図を出す。用意を整えていたエルベン侯爵軍が鬨の声を上げて、進軍を開始した。
ミリカさんが「くっ」と言った。実際に「くっ」という人を始めてみたなぁ。
「くっ。裏切ったか、エルベン侯爵。こうなったら、われわれの領地を守るためにも、戦うしかない。合戦だ!」
それは人が死にすぎるなぁ。
「ミリカさん、私につかまっていてください」
「え?」
「あの、ですから、しがみ付いてくださいと──はい、それでOKです」
ここぞとばかりにグッとしがみ付いてきたミリカさん。
私は《破嵐打》を発動。
『破壊力重視の一撃。ただしチャージに5秒かかる』。1、2、3、4、5──
そして足元の大地に、叩き込んだ。《破嵐打》の破壊のエネルギーは、軽めの隕石が落ちたがごとく。
私が打ち込んだ地点を中心として、半径500メートル弱の大地が大爆発し、ぐしゃっーーと抉り取られ、大量の土砂と瓦礫が舞い上がる。
ふぅ、と溜息をついたとき。私は《破嵐打》が作った巨大クレーターの底にいた。厳密には、少し浮いている。
《破嵐打》を大地にぶち当てた直後、《操縦》で〈スーパーコンボ〉を浮かせ、私もそれにつかまって浮遊したことによって、《破嵐打》による破壊エネルギーの嵐の直撃を避けたわけだ。それは、私にしがみ付いていたミリカさんも同じこと。
ふわふわと漂って、クレーターの縁まで移動する。
ふむ。《破嵐打》は、思っていたより威力があった。これならば、当分は必殺の一撃として機能しそう。それこそ【覇王魔窟】の中間層くらいまでいけるかな?
ひとつの目安としては、やはりあの〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉だろうか。《耕作:一人前》のスキル実にも頼らずとも、打撃スキルだけで〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉クラスを撃破できるようにならないと。中間層より上は、厳しいわけだよね。
などと、つい油断すると、【覇王魔窟】攻略のことを考えてしまう。
いけませんね。ちゃんと日常生活は真面目に送らないと。【覇王魔窟】攻略が人生の全てではない、というスタンス大事。
呆然として、周囲を見回すミリカさん。土煙がなくなっていくと、よくよく見えるようになってきた。
両軍とも《破嵐打》による大爆発の影響で壊滅状態。
ただし致命傷となるほどの被害は受けていないはずだ。直に《破嵐打》を当てたのではなく、大地を経由したので、よい感じの手加減となったはず。
「凄まじい威力だ……だがアリアさん…………われわれの軍も被害を受けたのだが……」
「しかし、死にはしていないでしょう。大地内で爆発したので、皆さんせいぜいひっくり返って、身体中を骨折した程度で」
私はエルベン侯爵軍のほうに歩いていき、負傷してうめいている兵士たちをまたぎこえて行く。ようやく見つけたエルベン侯爵は、ひっくり返った馬の下敷きになっていた。
「あ、エルベン侯爵。いましたね」
「た、頼む、助けて、くれ」
現在のところ、私は魔改造鍬〈スーパーコンボ〉のスキルツリーによる防御領域『使用者の防御力をUPする(防御Lv.6)』によって、生身も防御力だけは上がっている。
ただしスキルツリーによる『肉体改造』はその程度なので、筋力とかは上がっていない(打撃領域の『武器の打撃力をUPする(打撃Lv.6)』は、私にではなく〈スーパーコンボ〉に付与されているアビリティなので)。
つまり、ここで馬を持ち上げて、エルベン侯爵を助け出すことはできないわけだ。もちろん馬さんを粉みじんに吹き飛ばすことはできるけど、そんな動物虐待はしません。
私はエルベン侯爵のそばに屈みこんで、〈スーパーコンボ〉を地べたに置いた。何かが動いたので手を伸ばすと、ただの蠍(さそり)だ。
【覇王魔窟】1階で〈蠍群魔(スコーピオン)〉と何度も戦ったので、蠍には妙に親近感がわく。そんな小さな蠍(さそり)を、私はエルベン侯爵の鼻の右穴に押し込んだ。
「あぁぁ??アアアあああぎゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁああアアアアアぁぁぁぁぁ?!??!!!」
「嘘つきは、ダメですよエルベン侯爵」
蠍さんを鼻の穴から引きずり出す。それからまた、鼻の穴に押し込んだ。ついに押し込みすぎて、エルベン侯爵の口から出てきた。
「領地侵略なんて、もうしないでくださいね? もし、また悪いことをしたら。私は、遊びにいきますよ。あなたのご自宅に、あなたが家族さんと晩餐とか楽しんでいるときに、私は行きますよ。分かりましたか、エルベン侯爵? 私を、遊びに行かせないでくださいね?」
エルベン侯爵さんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、ひたすらうなずいて、
「わわわわわ゛わ゛、分がりまがだぁぁぁぁ、分がががりまじだがらぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!! だがらぁぁあもう許ででぇぇぇぇぇぇ!!!」
私は、にっこりです。
「話せば分かってくれると思いましたよっっっ!」
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