農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

文字の大きさ
49 / 119

49,新婚さん。

しおりを挟む
  平和的解決を見たので、私は自宅に帰ろうとした。

 しかし、ミリカさんに全力で止められる。

「まってくれ、アリアさん。このまま帰られると、その、あのう…………今回、われわれハーバン伯爵が所有する主力軍は、この場に来て、エルベン侯爵軍に睨みをきかせていたのだが、それが、そのう、えーと」

 私は、周囲を見回した。あいにく《破嵐打》に指向性はないので、被害は両軍に至っていた。死者は出していないつもりだが、とりあえず軍の機能としてはダウンもいいところ。
 その上で、ミリカさんが言いにくそうにしていることは、分からなくもない。

 だが、それを受け入れるというのは、当分のあいだ【覇王魔窟】攻略に行けないことを意味する。入院やリハビリ期間でもないのに、私に我慢しろと? なんという暴虐的なる発想。
 しかし、そんなことを考えている時点で、少しばかり中毒的なのかもしれない。私は【覇王魔窟】中毒なのでしょうか? 
 違うといいたいし、違うというためには、自主的に我慢してみせるしかないのかもしれない。

「ミリカさんの言いたいことは分かりますよ。ハーバン伯爵の所有軍が大ダメージを受けた今、エルベン侯爵以外の脅威が侵攻してくる可能性があると」

 通常ならば、そういった内戦が行われないように取り締まるのが王政府のはずだけど。最近、すっかり弱体化しているという話だし。私たちの国家の未来が暗たんでは? いっそ帝国に組み込まれてしまえばいいのに。どうでもいいけど。

「こうしましょう。これも私の責任なので、しばらくハーバン伯爵邸でお世話になります。つまり、私の魔改造くわ〈スーパーコンボ〉が抑止力となるように。ですから、私は──」

 住み込みの用心棒、的なことを言おうと思ったのだが、なぜかミリカさんが言うには、

「わたしと同棲を始めてくれるというのだね、アリアさんっ!」

 同棲というのは同性婚ではないので、アーテル国でも違法ではないのかぁ。いや、そういう問題かな。

「あのですねミリカさん。私にはセシリアさんという心に決めた人がいるので」

「構わない。わたしは古い考えに囚われていないので、アリアさんが3股くらいかけていても、心から気にならないといえる。しかしながら、ベロニカだけはやめてくれるかな?」

「はぁ」

 翌日。くだんのベロニカさんが、遊びにきた。というか、勝手に伯爵邸に乗り込んできた。

「アリア! ミリカと同棲を始めたって本当なの! このあたしがいるというのに!」

「住み込みの用心棒ですよ」

「な~んだ。ん、まって。それってアリアちゃんがそう思い込まされているだけで、ミリカは初夜の準備とかしているかもよ。油断も隙もないわぁ、あの女剣士」

 ベロニカさんが来たとき、私は〈攻略不可能体〉について思いをはせていた。なんの因果か、まだ中層階にも至っていないのに、6体いるとされる〈攻略不可能体〉のうち、半分と遭遇している。
 まずミリカさんの右眼を奪った〈寄生操魔(パペットマスター)〉。
 現在進行形で、私の体内で眠っている〈倦怠艶女(ミスティナ)〉。
 そしてベロニカさんの仲間を皆殺しにし、〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を解き放った〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉。

「そういえばベロニカさん。バルク盗賊団を討伐した日から、いまどれくらい日数が経過しましたっけ?」

「アリアとあたしが、運命的な出会いをした日ね。ちゃんと記録をとっているから、明確に今日が198日目と言い切れるわよぉ~」

 するとベロニカさんに残されたのは468日か。
 あのとき〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉はベロニカさんの体内に魔素の塊を仕込んで、爆発するまで666日とほざいたのだった。
 それまでに、私が〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉を殺さねば。
 このことは、ベロニカさんには黙っていたが。もしかすると、ちゃんと教えるべきなのかもしれない。いや、やはり黙っておくのが親切かも? 
 ひとつ確かなのは、このままのペースでは、間に合わないということ。私には、超絶的進化の時が必要だ。

「ところで、あのとき遭遇した少年型の魔物、つまり〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉ですが。ずっと疑問には思っていたんですけど、とくに興味もなかったので聞かなかったんですよ。ただせっかくなので尋ねますけど──事前に知っていましたよね? バルク盗賊団のアジトに、アレがいるということを。というか、真の目的は、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉の討伐だったのでは?」

「さっすがアリアね! 鋭いわぁ」

 と言って、私に抱きついて、すりすりしてくるベロニカさん。
 うーむ。この直接攻撃は、さすがに卑怯だよね。女の子好きの私としては、理性でぐっと耐えるのだ。

「それでベロニカさん?」

「うん。あたしも詳細までは知らないのだけどもね。なんでも、うちののほう。つまり冒険者ギルドの上層部の誰かが、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉と取引したそうなのよねぇ。その取引内容は不明なのだけど、ほら、魔物と取引なんて冒険者ギルドの信用にかかわる事態じゃない? だから内々でケリをつけるためにも、その取引した魔物を討伐するため、あたしたちは派遣されたわけ」

「【覇王魔窟】999階の魔物ですよ。勝てるわけがないでしょう」

「え? 999階? またまたぁ~。アリアちゃん、こんな話を知っている? 【覇王魔窟】の950階層以上にいる魔物は、規格外すぎて、一体ごとに国家を滅ぼせる力があるそうだよ。999階ときたら、もうこの惑星自体がピンチという感じ。そんな化け物が、外の世界を出回っているはずがないって」

 惑星規模でピンチとは、それまたスケールが大きい話。
 とはいえ──アーテル王国を蹂躙した〈橙鎧龍(オレンジドラゴン)〉を、〈悪鬼羅刹(ザ・ボーイ)〉は花束を出す手品みたいに気軽に召喚してきたわけだし。
 やろうと思えば、もしかして? 
 そんな化け物を倒す力を、あと468日のうちに身につけないと。この痴女なベロニカさんが、醜い魔物と化してしまう。そんなことはさせませんよっ!

 ところでベロニカさんが密着していたとき、ミリカさんがやって来た。

「貴様、ベロニカ! どこから沸いて出たっ! 私のアリアさんから離れろ!」

 こういう修羅場は武器強化につながる経験値にはならないので、大いに無意味である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...