農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

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77,証拠は隠滅済み。

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「《小鬼ゴブリン》の大軍勢というと、5万体くらいの規模だったりしますか?」



「え? 報告では、そのくらいの規模らしいが。アリアさんも、もしや見ているとか?」



「えーと。見たことは見たんですがね」



 私の反応から何かを感じ取ったらしく、ミリカさんが恐るおそるといった様子で聞いてくる。



「ま、まさかアリアさん、その《小鬼ゴブリン》の大軍勢を撃破されてしまったのか?」



「そうです」



 ミリカさん、顔を輝かせる。



「さすがアリアさんだ! さっそく陛下にお伝えしよう!」



「まってください。物事は、そうすんなりはいきませんよ」



 私が幼かったころ、こんなことがあった。

 お隣のボックさんは変わり者で、ポチという名の子熊を飼っていた。人に懐いているからと、周囲の住民も受け入れていた。あるときは野犬を狩ったりして、みんなに愛された子熊のポチだった。

 ところがあるとき──近くの町から脱走した囚人が、このあたりに潜んでいるという情報が入った。そして、ある空き家に潜んでいたところ、偶然にも朝散歩中に発見したボックさん。なにを思ったか、ポチを放った。

 ポチは働いた。というより働きすぎた。

 4人いた囚人を皆殺しにしたので。

 ボックさんはポチを誇らしく思ったが、周囲の住人は、うちのいまは亡き両親も含めて、違った。

 そのとき初めて、ポチはもう子熊という大きさではないと、改めて意識されたのだ。そして、そのポチという熊は大人を4人も殺せるのだと。そんな熊が暴走したら、どうなるのかと。

 結局、反対するボックさんを説得し、ポチには眠り薬を与えてから、駆除した。



 さて、この思い出が、いまの私に伝えているものはなにか。

 王政府の立場から考えてみよう。《小鬼ゴブリン》の大軍勢を、単身で、しかもものの数分で全滅できる国民がいるとする。

 どう思うか? 

 私だったら、それは大いに脅威だ。もしもその者が国を転覆させようとしたら、それを防ぐ手がないことを意味しているのだから。



 私の、ひっそり生きたい、という願望が消滅しちゃうっっっ!



 という私の懸念を話す。

 ミリカさんは納得がいかぬ様子。



「だが、アリアさんは王都を救った。実際ならば、王都総出で戦勝パレードでも催すべきだ。あなたを全ての王都民が称えるだろう」



「王より人気者になることほど、面倒なことはありませんよ。ただでさえ、いまの国王は不人気さんですからね」



「だが──実際、《小鬼ゴブリン》の大軍勢は全滅している。もう王政府にも知らせが届いているのではないか? あれほどの規模の軍勢が滅ぼされたのだから」



「いえ、そこは問題なしです。証拠は隠滅済みですからね」



「つまり?」



「すべての《小鬼ゴブリン》は壊滅させましたからね。生き残りさんは、0です。また【覇王魔窟】内の魔物は、実は装備する武器さえも、撃破されると魔素に還ります。つまり『《小鬼ゴブリン》の大軍勢』が存在していた証拠はなくなりました。そもそも【覇王魔窟】内の魔物が外にいること自体、あり得ないことですからね。ただの幻覚だった、とかで片付けられるでしょう」



 ミリカさんは不満そうだったが、受け入れてくれた。



「アリアさんが、それを望むならば」



「信じてくださいミリカさん。必要以上に力があるのは、煙たがられるだけですよ。もちろん、この王国を乗っ取ろうというのならば、話は別ですが」



 私は冗談でそう言ったわけだ。

 しかし、ミリカさんの瞳が謎の輝きを発した。こら、そんな妖しい輝きは、やめなさい。伯爵令嬢がやると、シャレにならない瞳ですよ。

 さらに私の発言タイミングで、入室してきたロクウさんとサラさん。



 まずロクウさんが、



「国を取る! やはり先生は、そのような大いなる野望をお持ちだったのですね! 拙者、この命が尽きるまで、どこまでも付いていきますぞっ!」



「はい?」



 サラさん、持っていた書類を落として、なぜか涙ぐむ。



「ギルドマスター! あなたのビジョンは、そこまで遠くを見据えていたのですね! うう、わたしはサブマスターとして、すべてを捧げます。是非やりとげましょう、国取りを!」



「……」



 まぁ、変なテンションの人たちは忘れよう。

 確かに今となっては、『伝説のカブ』を収穫するほうが、この平凡な国を奪い取るよりも、数倍は難しいだろうけど。国というのは取るのは容易くても、維持するのが面倒なのだから。まあ、取らないけども。



「あ、それはそうと先生。《小鬼ゴブリン》大軍勢が謎の消滅を──」



「それは、私が壊滅させました。ここだけの話ですよ。内密にお願いします」



「おおっ! さすが先生です! ただ先生、実は一体だけ《小鬼ゴブリン》軍の生き残りがいたようで、王国軍が捕虜として取ったようです。一体、《小鬼ゴブリン》大軍勢に何が起き、どこから来たのか、それを問いただすために」



 王国軍からの極秘っぽい情報が、どうしてそう迅速に入ってきたのだろう。もしかしてカブギルドは、いまや王宮内に情報網を築いている? どうして、そんなに力をつけちゃっているのだろう。



「ふむ。《小鬼ゴブリン》は下層階の魔物ですからね。自我を持たないし、人間と意思疎通はできるはずもありません」



「ですが先生。どうやらその《小鬼ゴブリン》は、話せるらしいのです」



「話せる? 待ってください。人の言葉を話すのですか? その個体、いまはどこに?」



「なにぶん、事が事ですからね。王宮内にある非公開の拷問機関に送られたようですが。先生、どうされましたか?」



「まずい。それは《小鬼ゴブリン》ではないです」



 最悪のところ、その《小鬼ゴブリン》に擬態した者の正体は──



〈攻略不可能体〉の一体。
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