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84,地獄のブートキャンプ。
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地下迷宮〈死の楽園〉の魔物は、おおむね5段階に分かれる。
それは強さの分類法。
私は勝手に『鬼強』『ヤバ強』『歯ごたえあり』『フツー』『雑魚さん』とした。
たとえば〈巨鋼兵ギガンテスト〉は『歯ごたえあり』であり、〈蠍群魔スコーピオン〉オリジナルは『フツー』、〈髑髏兵スケルトン〉オリジナルは『雑魚さん』となる。
私としても、『ヤバ強』はなんとかギリ倒せる。
ただ何度か遭遇した『鬼強』(たとえば山のような大きさのドラゴン型魔物)は、まったく歯がたつ気配なしだった。
一方、人の伸びしろというのも、かなり違ってくるようだ。個人差というか、才能の違いというか。
まず天才的だったのが、ベロニカさん。武装Lv.の上がりかたは半端なく、デスサイズ〈死神のそよ風〉で斬撃系スキルを開拓していく。
これで早い段階で、『フツー』ならば単身で撃破できるようになり、手のかからない子だ。ベロニカさん自身は、私が放置しだしたので不満そうだったが。
手がかかったのは、ロクウさんとライオネルさん。これ男衆、しっかりしろ。
ただ年齢的な要素もあるのかもしれない。とくにライオネルさんは、もうベテランもベテラン。ここからさらに進化成長しろというのが無理な話か。
だがライオネルさんは、大いに張り切っていた。アーテル国を救うために!というのは建前で、地下迷宮〈死の楽園〉に入る前に、私は耳打ちしておいたのだ。
「いま王に成りすましている魔物を撃破した暁には、うちのミリカさんが王位につくこと絶対です。分かりますか、ライオネルさん。私のお友達が、女王様です。私が頼めば、新たな爵位を作り、愛国心あふれる国民に与えることなど、容易いでしょう。ところでライオネルさん、そろそろ男爵あたりの爵位を得て、悠々自適な老後生活がしたくはありませんか」
これで大いに燃えている。
手間がかかるといえば、サンディさんもだ。聖杖〈愛と抱擁〉の伸びはいいのだが、当人が一向にやる気にならない。
仕方ないので、サンディさんにはその場で腕立てしてもらった。そして腕立て中のサンディさんに、私は怒鳴りかける。
「王を殺すのです、サンディさん! さぁ『王を殺す!』と復唱するのです!」
「お、王を、殺す?」
「声が小さい上に、なぜ『?』なのですか! 腕立て千回追加です!」
「そ、そんな」
「王を──?」
「こ、こ、こ殺す!」
「王を?」
「殺す! 王を殺す! 王を殺す! 王を殺す! 王を殺す!」
スパルタでサンディさんのメンタルを鍛えたところ、数日もやっていたら、完全に思考は戦闘形態へと至った。
聖杖〈愛と抱擁〉の《鋼鉄糸》で蜘蛛の巣をつくり、そこにかかった〈小鬼王ゴブリンキング〉を、連続《乱れ突き》で嬲り殺す。
それを眺めながら、ベロニカさんがうーんと唸った。
「……ねぇアリア。気の弱かった修道女を戦闘民族に変えてしまった罪悪感は?」
「罪悪感? それは美味しいのですか?」
一方、私は自分のレベル上げも怠らない。
武装Lv.も4桁を超えると、下位の魔物の強化素材では、いくら使っても武装Lv.は上がらなかった。というより、一度試しに〈髑髏兵スケルトン〉なんか試したものだから、武装Lv.が21も一気に下がって、ビックリした。
純度の高いものだけを、もう要求しているのだ。
だから狙いは『歯ごたえあり』または『ヤバ強』である。
『ヤバ強』といえば、〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉もその一体。地上階で遭遇したコピー品とは違って、オリジナルの〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉の強さは、これはヤバ強。
ちなみに〈悪鬼羅刹ザ・ボーイ〉が召喚し、私が中核都市ボーンで戦ったのは、コピー品のほうだった。
とくにオリジナル〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉は、表皮に〈蚤量魔フリーデッド〉がいない。表皮から毒液が滴っているので、〈蚤量魔フリーデッド〉のくっ付きようがないわけだ。つまり、こちらも直接攻撃は危険というわけ。
ただし、『耐毒体質Lv.1』解放済みの強みはあるが(とはいえ、Lv.1ではどこまで耐毒があることか)。
とにかく〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナルとの戦いは、長期戦となった。24時間は戦ったのに、まだ決着がつかない。いっときの集中力切れが命取りとなる、この熾烈な戦い。
途中ベロニカさんが、「アリア汁不足よっ!」とか訳のわからないことをほざいてくっ付いてきたときは、ちょっとだけ殺意が湧いたくらいで。
とにかく、最後には私が勝利した。断末魔の叫びをあげて死にいく〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナル。
「さらばです」
ところが、別の〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナル個体が現れて、私の達成感は台無し。というか、こっちはもうクタクタなのに、まさかの連戦?
と覚悟したとき、上空から塔のような腕が降りてきて、〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナルを鷲掴み、口まで持っていって、パクリと食べてしまった。
この『大きすぎて全容が分からない魔物』は、『鬼強』で間違いなし。とにかく、急いで〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉の強化素材を採取。
一部始終を目撃していたライオネルさんが、カトラス〈略奪者〉片手に溜息をついた。
「やれやれ。どこまでも上限のない世界だな」
「いえいえ上限はありますよ。【覇王魔窟】1001階です。そこで私を待っている魔物さんが、最も強い生命体です」
「それを倒そうというのか?」
「すべては『結婚できないバグ』を直すためですよ」
それは強さの分類法。
私は勝手に『鬼強』『ヤバ強』『歯ごたえあり』『フツー』『雑魚さん』とした。
たとえば〈巨鋼兵ギガンテスト〉は『歯ごたえあり』であり、〈蠍群魔スコーピオン〉オリジナルは『フツー』、〈髑髏兵スケルトン〉オリジナルは『雑魚さん』となる。
私としても、『ヤバ強』はなんとかギリ倒せる。
ただ何度か遭遇した『鬼強』(たとえば山のような大きさのドラゴン型魔物)は、まったく歯がたつ気配なしだった。
一方、人の伸びしろというのも、かなり違ってくるようだ。個人差というか、才能の違いというか。
まず天才的だったのが、ベロニカさん。武装Lv.の上がりかたは半端なく、デスサイズ〈死神のそよ風〉で斬撃系スキルを開拓していく。
これで早い段階で、『フツー』ならば単身で撃破できるようになり、手のかからない子だ。ベロニカさん自身は、私が放置しだしたので不満そうだったが。
手がかかったのは、ロクウさんとライオネルさん。これ男衆、しっかりしろ。
ただ年齢的な要素もあるのかもしれない。とくにライオネルさんは、もうベテランもベテラン。ここからさらに進化成長しろというのが無理な話か。
だがライオネルさんは、大いに張り切っていた。アーテル国を救うために!というのは建前で、地下迷宮〈死の楽園〉に入る前に、私は耳打ちしておいたのだ。
「いま王に成りすましている魔物を撃破した暁には、うちのミリカさんが王位につくこと絶対です。分かりますか、ライオネルさん。私のお友達が、女王様です。私が頼めば、新たな爵位を作り、愛国心あふれる国民に与えることなど、容易いでしょう。ところでライオネルさん、そろそろ男爵あたりの爵位を得て、悠々自適な老後生活がしたくはありませんか」
これで大いに燃えている。
手間がかかるといえば、サンディさんもだ。聖杖〈愛と抱擁〉の伸びはいいのだが、当人が一向にやる気にならない。
仕方ないので、サンディさんにはその場で腕立てしてもらった。そして腕立て中のサンディさんに、私は怒鳴りかける。
「王を殺すのです、サンディさん! さぁ『王を殺す!』と復唱するのです!」
「お、王を、殺す?」
「声が小さい上に、なぜ『?』なのですか! 腕立て千回追加です!」
「そ、そんな」
「王を──?」
「こ、こ、こ殺す!」
「王を?」
「殺す! 王を殺す! 王を殺す! 王を殺す! 王を殺す!」
スパルタでサンディさんのメンタルを鍛えたところ、数日もやっていたら、完全に思考は戦闘形態へと至った。
聖杖〈愛と抱擁〉の《鋼鉄糸》で蜘蛛の巣をつくり、そこにかかった〈小鬼王ゴブリンキング〉を、連続《乱れ突き》で嬲り殺す。
それを眺めながら、ベロニカさんがうーんと唸った。
「……ねぇアリア。気の弱かった修道女を戦闘民族に変えてしまった罪悪感は?」
「罪悪感? それは美味しいのですか?」
一方、私は自分のレベル上げも怠らない。
武装Lv.も4桁を超えると、下位の魔物の強化素材では、いくら使っても武装Lv.は上がらなかった。というより、一度試しに〈髑髏兵スケルトン〉なんか試したものだから、武装Lv.が21も一気に下がって、ビックリした。
純度の高いものだけを、もう要求しているのだ。
だから狙いは『歯ごたえあり』または『ヤバ強』である。
『ヤバ強』といえば、〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉もその一体。地上階で遭遇したコピー品とは違って、オリジナルの〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉の強さは、これはヤバ強。
ちなみに〈悪鬼羅刹ザ・ボーイ〉が召喚し、私が中核都市ボーンで戦ったのは、コピー品のほうだった。
とくにオリジナル〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉は、表皮に〈蚤量魔フリーデッド〉がいない。表皮から毒液が滴っているので、〈蚤量魔フリーデッド〉のくっ付きようがないわけだ。つまり、こちらも直接攻撃は危険というわけ。
ただし、『耐毒体質Lv.1』解放済みの強みはあるが(とはいえ、Lv.1ではどこまで耐毒があることか)。
とにかく〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナルとの戦いは、長期戦となった。24時間は戦ったのに、まだ決着がつかない。いっときの集中力切れが命取りとなる、この熾烈な戦い。
途中ベロニカさんが、「アリア汁不足よっ!」とか訳のわからないことをほざいてくっ付いてきたときは、ちょっとだけ殺意が湧いたくらいで。
とにかく、最後には私が勝利した。断末魔の叫びをあげて死にいく〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナル。
「さらばです」
ところが、別の〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナル個体が現れて、私の達成感は台無し。というか、こっちはもうクタクタなのに、まさかの連戦?
と覚悟したとき、上空から塔のような腕が降りてきて、〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉オリジナルを鷲掴み、口まで持っていって、パクリと食べてしまった。
この『大きすぎて全容が分からない魔物』は、『鬼強』で間違いなし。とにかく、急いで〈橙鎧龍オレンジドラゴン〉の強化素材を採取。
一部始終を目撃していたライオネルさんが、カトラス〈略奪者〉片手に溜息をついた。
「やれやれ。どこまでも上限のない世界だな」
「いえいえ上限はありますよ。【覇王魔窟】1001階です。そこで私を待っている魔物さんが、最も強い生命体です」
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