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101,〈四ツ魔〉。
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オルト侯爵の正体が、可愛い幼女さんだった。
なんという不意打ち。私の百合心を抉られる一撃。
「ぐぁっ! ここで美幼女がきましたか!」
私がその場に倒れてもだえていると、近くにいた守備隊の隊長さんが武器を抜き放った
「なんなのだ、この女は? カイト、この女は危険なのではないか? わたしには危険な『生き物』にしか見えぬぞ」
カイトとは、先ほど私が壁に投げつけてしまった少年だ。少年ではあるが〈開華のタネ〉によるスキルツリー覚醒が行われたようで、守備隊の中でも一目置かれているようだ。
結局のところ、魔物連合軍に攻城戦を仕掛けられているとき、重要なのは個体戦闘力となる。
カイト少年が、当人も迷いを残した様子で言った。
「で、ですが隊長。彼女は〈大醜魔トロール〉を一撃で殺し、おれの《炎熱剣》を片手で受け止めたのです。ただ者ではありません。おれたちの救世主となるかもしれない」
私は立ち上がり、もだえたときの汚れを両手で払った。オルト侯爵に謁見するさい、魔改造鍬〈スーパーコンボ〉は守備隊に預けてある。
もちろん《操縦》ですぐに手元に呼べるし──正直なところ、〈スーパーコンボ〉がなくとも、(防御Lv.55)による『打撃力』だけで、守備隊をまとめてどうにでもできそうだが。
あらためて目の前の幼女を見る。気品のある顔立ち、良い香り、高級な生地の服。貴族の娘さんであることは間違いない。しかし幼すぎるでしょう。オルト侯爵卿と紹介されたが、さすがにこれは出来の悪い冗談。
「しかし真面目な話、オルト侯爵はどこにいらっしゃるのですか? 『可愛い娘』を自慢している場合ではありませんよ」
守備隊長が不愉快そうに顔をしかめる。カイト少年が、慌てた様子で説明してきた。
「あの、大魔女さん?」
「誰が大魔女ですか。私は──アリアです」
偽名を考えるのが面倒でした。しかし『英雄アリア』の名は、この地までは届いていないようで、誰もこれという反応は示さない。匿名性に万歳。
「すいませんアリアさん。あんまりに強いので、伝承で語られる大魔女なのかと。あの、ところでオルト侯爵なのですが──先代オルト侯爵卿は、昨夜、魔物との勇敢なる戦いのすえ討ち死にされました。そしてこちらの、ユリ様が爵位を継がれたのです」
私は、できたてホヤホヤのオルト侯爵を眺めた。
「ユリ様、元気ですか?」
オルト侯ユリさまは、元気よく右手を挙げた。
「はい、元気ですっっ!!」
うん、可愛い。そして、頭はあんまり良さそうではないぞ。
私は守備隊長さんと、カイト少年を見やった。カイト少年のほうが、話を進めやすい。そこでカイト少年に尋ねる。
「現状は?」
「魔物の軍勢から逃げてきた領民が、この城砦内に避難しています。彼らを無事に脱出させたいのですが」
それを聞いた守備隊長さんが、熱血な感じで言ってきた。
「バカ者が、それよりもユリ様を脱出させるのが先だろうが。オルト侯爵の血筋をここで途絶えさせるわけにはいかぬ!」
しかしカイト少年は、納得いかぬ様子。
「領民があってこその、領主ではございませんか!」
と、これまた熱く反論する。
そのなかユリ様は、『デザート食べたい』という真面目な顔をしていた。私は、そんなユリ様を抱きしめ、幼女の匂いをいっぱいにかいでおく。
それから、勝手に激怒している守備隊の面々に言った。
「私が、魔物連合軍を壊滅させてきますから、あなたたちはここで待機していてください。ああ、それとカイト少年。あなたは、私の助手です。一緒にどうぞ」
カイト少年を連れて、中庭に出る。
「助手といっても戦ってほしいわけではないんです。これから定期的に、魔物の死体をこの中庭に投げ込みます。魔物は少し経つと魔素に還りますが、そのまえに魔物の死体に記された『絶滅言語』を、メモってほしいのです。絶滅言語は種類がたくさんあるので、どれが捺されているのか確認したいのですよ。えーと、書くものは?」
カイト少年が急いで、羽ペンとインク瓶、それから羊皮紙を持ってきた。
「アリアさん。絶滅言語とは、なんですか?」
「私もよくは分かりません。実は、つい先日まで、そんな言語があることさえ知らなかったんです」
だが〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の死体に捺された絶滅言語を見て、これが『絶滅言語』と分かったのだ。〈攻略不可能体〉として再創造されたとき、魔物知識というものを得たのだろうか。だがそれは不完全のようだ。『絶滅言語』というものの存在を知りつつも、実際のところそれが何かまでは分かっていないのだから。
「頼みましたよ、カイト少年」
「りょ、了解しました!」
私は右手を差し出し、《操縦》で〈スーパーコンボ〉を手元に呼んだ。それからまたがり、飛翔。城壁の外に出て、魔物連合軍を手当たり次第に、通常攻撃で破壊させていただく。
そして定期的に死体数体をつかみあげて、中庭内まで運ぶ。
はじめはそうして運んでいたが、実に億劫な手順だ。そこで途中からは、死体を〈スーパーコンボ〉で打って、中庭まで飛ばすことにした。
そうして魔物死体フライを中庭へ打ち込みつつ、撃破、撃破。だが魔物の数が多すぎて、ダレてきた。
そこで《大地愛暴》を発動することにした。これは『攻撃範囲を定めた領域への、土石系攻撃を行う』もの。
オルト城壁の周囲を『攻撃範囲』として定めていると──眼前に、黒い膜球が落ちてきた。その膜球から、ヒト型の魔物が現れる。
「お前か、我が軍を痛めつけている人間というのは?」
と、話しかけてきた。
意思疎通が可能な魔物? すると、この魔物が〈攻略不可能体〉だろうか。
だが私が、そう問いかける前に、その魔物が名乗るのである。
「我は、【覇王魔窟】997階の番人〈魔創造人イマジネ〉様に仕える、〈四ツ魔〉が一体、〈黒膜幽魔フィルムゴースト〉だ」
必要な説明をしてくれて、グッジョブです。
なんという不意打ち。私の百合心を抉られる一撃。
「ぐぁっ! ここで美幼女がきましたか!」
私がその場に倒れてもだえていると、近くにいた守備隊の隊長さんが武器を抜き放った
「なんなのだ、この女は? カイト、この女は危険なのではないか? わたしには危険な『生き物』にしか見えぬぞ」
カイトとは、先ほど私が壁に投げつけてしまった少年だ。少年ではあるが〈開華のタネ〉によるスキルツリー覚醒が行われたようで、守備隊の中でも一目置かれているようだ。
結局のところ、魔物連合軍に攻城戦を仕掛けられているとき、重要なのは個体戦闘力となる。
カイト少年が、当人も迷いを残した様子で言った。
「で、ですが隊長。彼女は〈大醜魔トロール〉を一撃で殺し、おれの《炎熱剣》を片手で受け止めたのです。ただ者ではありません。おれたちの救世主となるかもしれない」
私は立ち上がり、もだえたときの汚れを両手で払った。オルト侯爵に謁見するさい、魔改造鍬〈スーパーコンボ〉は守備隊に預けてある。
もちろん《操縦》ですぐに手元に呼べるし──正直なところ、〈スーパーコンボ〉がなくとも、(防御Lv.55)による『打撃力』だけで、守備隊をまとめてどうにでもできそうだが。
あらためて目の前の幼女を見る。気品のある顔立ち、良い香り、高級な生地の服。貴族の娘さんであることは間違いない。しかし幼すぎるでしょう。オルト侯爵卿と紹介されたが、さすがにこれは出来の悪い冗談。
「しかし真面目な話、オルト侯爵はどこにいらっしゃるのですか? 『可愛い娘』を自慢している場合ではありませんよ」
守備隊長が不愉快そうに顔をしかめる。カイト少年が、慌てた様子で説明してきた。
「あの、大魔女さん?」
「誰が大魔女ですか。私は──アリアです」
偽名を考えるのが面倒でした。しかし『英雄アリア』の名は、この地までは届いていないようで、誰もこれという反応は示さない。匿名性に万歳。
「すいませんアリアさん。あんまりに強いので、伝承で語られる大魔女なのかと。あの、ところでオルト侯爵なのですが──先代オルト侯爵卿は、昨夜、魔物との勇敢なる戦いのすえ討ち死にされました。そしてこちらの、ユリ様が爵位を継がれたのです」
私は、できたてホヤホヤのオルト侯爵を眺めた。
「ユリ様、元気ですか?」
オルト侯ユリさまは、元気よく右手を挙げた。
「はい、元気ですっっ!!」
うん、可愛い。そして、頭はあんまり良さそうではないぞ。
私は守備隊長さんと、カイト少年を見やった。カイト少年のほうが、話を進めやすい。そこでカイト少年に尋ねる。
「現状は?」
「魔物の軍勢から逃げてきた領民が、この城砦内に避難しています。彼らを無事に脱出させたいのですが」
それを聞いた守備隊長さんが、熱血な感じで言ってきた。
「バカ者が、それよりもユリ様を脱出させるのが先だろうが。オルト侯爵の血筋をここで途絶えさせるわけにはいかぬ!」
しかしカイト少年は、納得いかぬ様子。
「領民があってこその、領主ではございませんか!」
と、これまた熱く反論する。
そのなかユリ様は、『デザート食べたい』という真面目な顔をしていた。私は、そんなユリ様を抱きしめ、幼女の匂いをいっぱいにかいでおく。
それから、勝手に激怒している守備隊の面々に言った。
「私が、魔物連合軍を壊滅させてきますから、あなたたちはここで待機していてください。ああ、それとカイト少年。あなたは、私の助手です。一緒にどうぞ」
カイト少年を連れて、中庭に出る。
「助手といっても戦ってほしいわけではないんです。これから定期的に、魔物の死体をこの中庭に投げ込みます。魔物は少し経つと魔素に還りますが、そのまえに魔物の死体に記された『絶滅言語』を、メモってほしいのです。絶滅言語は種類がたくさんあるので、どれが捺されているのか確認したいのですよ。えーと、書くものは?」
カイト少年が急いで、羽ペンとインク瓶、それから羊皮紙を持ってきた。
「アリアさん。絶滅言語とは、なんですか?」
「私もよくは分かりません。実は、つい先日まで、そんな言語があることさえ知らなかったんです」
だが〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の死体に捺された絶滅言語を見て、これが『絶滅言語』と分かったのだ。〈攻略不可能体〉として再創造されたとき、魔物知識というものを得たのだろうか。だがそれは不完全のようだ。『絶滅言語』というものの存在を知りつつも、実際のところそれが何かまでは分かっていないのだから。
「頼みましたよ、カイト少年」
「りょ、了解しました!」
私は右手を差し出し、《操縦》で〈スーパーコンボ〉を手元に呼んだ。それからまたがり、飛翔。城壁の外に出て、魔物連合軍を手当たり次第に、通常攻撃で破壊させていただく。
そして定期的に死体数体をつかみあげて、中庭内まで運ぶ。
はじめはそうして運んでいたが、実に億劫な手順だ。そこで途中からは、死体を〈スーパーコンボ〉で打って、中庭まで飛ばすことにした。
そうして魔物死体フライを中庭へ打ち込みつつ、撃破、撃破。だが魔物の数が多すぎて、ダレてきた。
そこで《大地愛暴》を発動することにした。これは『攻撃範囲を定めた領域への、土石系攻撃を行う』もの。
オルト城壁の周囲を『攻撃範囲』として定めていると──眼前に、黒い膜球が落ちてきた。その膜球から、ヒト型の魔物が現れる。
「お前か、我が軍を痛めつけている人間というのは?」
と、話しかけてきた。
意思疎通が可能な魔物? すると、この魔物が〈攻略不可能体〉だろうか。
だが私が、そう問いかける前に、その魔物が名乗るのである。
「我は、【覇王魔窟】997階の番人〈魔創造人イマジネ〉様に仕える、〈四ツ魔〉が一体、〈黒膜幽魔フィルムゴースト〉だ」
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