農家の娘さん、〖百合結婚できないバグ〗解消のためコツコツ努力していたら、人類最強になっていた。

狭間こやた

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100,恋心だもの。

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 キャラバンに対して偽名を考えていたら、〈蝙蝠魔牙バットウォー〉の死体が消えてしまった。今となっては微々たる量だが、魔素を魔改造鍬〈スーパーコンボ〉が吸収。



 とにかく、あの焼き鏝による『絶滅言語の印』は、〈攻略不可能体〉によるスキルの痕だろう。

 思うに、あの印が付けられた低級魔物は、【覇王魔窟】から出ることができるのでは? なかには擬似的な自我を得るに至る者もいるのかも。



 ところで現在、『魔物領土』なるものが、アーテル国内で生まれているらしい。つまり魔物勢力によって制圧され、そこに住んでいた人たちは逃げ出したか、最悪は皆殺しにあった場所だとか。

 ライオネルさんが言うには、【覇王魔窟】周辺もいまや『魔物領土』らしい。



「そういえば嬢ちゃんの家とカボチャ畑は、あのあたりだったな。何か問題はなかったのか?」



「カボチャ畑ではなくて、カブ畑ですよ」



 実は、カブ畑の上に〈子鬼ゴブリン〉民家が建てられた(ついでに自宅が更地にもなっていた)件は、サンディさんにも話していない。

 秘密にしておくことでもないのだけど──

 いや、だがこれは秘めておくべきことなのだ。私のカブ畑を破壊したのは、〈攻略不可能体〉の一体からの宣戦布告に相違ない。

 そして私も、その〈攻略不可能体〉に対しては、たっぷりの地獄的な私怨を抱いている。それは恋心に似ているので、秘めてるほうがいい。

 復讐は恋心だもの。



 さて。

 ライオネルさんの馬車で先へ進むと、ようやくオルト侯爵の邸宅が見えてきた。サンディさんが話していた〈蝙蝠魔牙バットウォー〉が、先ほど撃退した数だけなのか。オルト侯爵に確認を取るため、ここまで来たのだが。

 どうやら、『まだおたくの領土内に魔物はいますか?』と問う必要はなさそうだ。というのも、オルト侯爵の邸宅は、現在進行形で魔物軍勢の襲撃を受けていたので。



 ライオネルさんが手綱を引っ張り、私たちを乗せた馬車は、丘の上でとまった。オルト侯爵邸は丘をくだった先にあるので、ここからだと襲撃の様相がよく分かる。

 珍しくライオネルさんが驚いている。



「ほう。こんなのは、初めて見たな」



「領主が襲撃をうけることをですか? ライオネルさんも、善政を敷かないと領民から叛乱されますよ。たいていそういうときは、お隣の領主がバックについて、武器とか支援しているんですよ」



「まったく冗談を言っている場合じゃないぞ。あと嬢ちゃん。俺は領地持ち貴族じゃないぜ。領地なんかあっても邪魔なだけだ。この国は、貴族の爵位を持っているだけで、いろいろと稼げる手段が増えるからな。そっちで儲けさせてもらっているんだ」



「それだと商人なのでは」



「商人の心をもった貴族、と呼んでくれ。いや、そんなことよりもだ。俺が驚いたのは、あれだ。魔物どもだ。いまさら【覇王魔窟】の外にいる魔物の大群、軍勢といえるほどの数がいるのを見ても驚きはしないが。さすがにこのパターンは初めて見るぜ」



「混合軍──または連合軍とでもいうのですかね」



 オルト侯爵邸を襲撃している魔物たちは、一種類ではなかった。複数の魔物たちが、ちゃんとした軍隊を構成して、戦略的に襲っているのだ。

 逆にいうと、これほどの魔物連合軍から包囲攻撃を受けても、オルト邸はよく持ちこたえている。

 理由は二つあるようで。ひとつはオルト邸が城砦仕様(周囲には濠もある)のため。

 もう一つは、このオルト城砦内にはスキルを有した者が複数いるようで、いまも応戦している。



 それにしても、魔物連合軍の動きにはちゃんとした戦術が見られる。【覇王魔窟】内の魔物も、独自の攻撃や固有スキルなどを効果的に使っていたが、それは定められたパターンでもあった。

 だから、このように臨機応変に戦術を変える、などという脳力はないはずだが。



「ふーむ。指揮官がいるようですね。その指揮官が、的確に魔物連合軍を操っている。ふうむ。〈攻略不可能体〉でしょうかね」



 ライオネルさんが煙草をふかしながら、



「〈攻略不可能体〉なら、魔物連合軍なんぞ使わずとも、自分の力でオルト侯爵邸を壊滅できるだろ?」



「可能だからといって、自分でやるとは限りませんよ。〈攻略不可能体〉にはそれぞれ、自分で作ったゲームのルールがあるようですからね。まぁとにかく、まずはオルト侯爵邸に入りますか」



「おっと、俺の仕事はここまでだ。サンディを介してカブ冒険者ギルドから依頼されたのは、嬢ちゃんをオルト侯爵邸へ案内することだからな。あとは嬢ちゃんが単独でやってくれ」



「分かりました。道案内、ありがとうです」



「じゃ、また会おうぜ嬢ちゃん。次に会うときは、人類と魔物による終末戦争のときかもしれんがな」



 などと悲観的なことを陽気に言って、ライオネルさんは馬車の向きを変えて、のんびりと立ち去った。



 一方、私は〈スーパーコンボ〉にまたがり、《操縦》で飛行。

 ちょうどオルト城砦の城壁を越えようとしている大型の魔物(〈大醜魔トロール〉さんだね)がいたので、《電光石火》で胴体を貫いた。

 そのまま中庭に着地。

 すると、まだ少年ともいえる子が、スキルによる燃え盛る剣で斬りかかってくる。



「魔物め、退治してくれる!」



 私は、燃え盛る剣を右手で受け止めてから握りしめて、刃をへし折った。



「私は魔物ではありませんよ。ちゃんと相手を見てください」



 少年はハッとして、私を見た。そして何やら感動した様子で、



「お姉さん、綺麗だね」



「……ふむ」



 私は、少年の襟首をつかんで、壁に向かって思い切りぶん投げた。



「うわあぁぁぁぁ!!」



 オスに言われても、嬉しくないのです。あと〈悪鬼羅刹ザ・ボーイ〉と遭遇して以来、ちょっとした少年アレルギーもある。



「オルト侯爵のところまて案内してください。あれ? まさか、いまので気絶したのですか?」

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