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カイト少年いわく、オルト侯爵領土内にはトマス図書館というものがあったとか。
それはトマスさんという、300年前の英雄さんが建てた図書館。トマスさんとは有能な〈挑戦者ディファイアンス〉であり、【覇王魔窟】656階まで攻略したパーティの一員だった。
ほう。656階とは、これまでの人類の最高到達点だ(私のいまの最高は500階、995階の住人になったのは攻略記録ではないよね)。
そんなトマスさんが世界各地から集めた蔵書を保管していたのが、トマス図書館。ところが残念なことに、魔物連合軍(先ほど私が壊滅した)によって、数日前に焼かれてしまったらしい。
だが、それでも、図書館のもっとも貴重な書物は運んで守り、いまはこのオルト城砦の書庫にあるという。その中に、『絶滅言語』について書かれた古文書もあったとか。
「通常ならば外部の者は閲覧できませんが、アリアさんはいまや、オルト侯爵卿の騎士ですので」
「騎士の特権ですねー」
カイト少年に案内されて、オルト城砦の地下へ。ふむ。騙し討ちされるならば、ちょうどよい場所に連れ込まれた。しかし、その手の騙し討ちなどはなく、ある意味では拍子抜けする形で、即席の読書スペースで古文書を閲覧させてもらう。なんとコーヒーまで出してもらった。
手袋をつけて、さっそく古文書を開く。ところで本の題名は〈神禄4巻〉。
カイト少年が心配そうに言う。
「あ、そうでした。あの申し忘れていましたが、〈神禄4巻〉も古い言語で書かれていまして。こっちに翻訳版が」
「いえ、読めます」
いつから私は多言語マスターになったのだろうか。その手の言語系スキルパネルを解放したわけでもないのに。〈攻略不可能体〉になったことによる、基本特典なのかもしれない。
ふむふむ。とにかく古文書〈神禄4巻〉によると、『絶滅言語』とはようは神の言葉だと。もちろん、もっと深く掘り下げて書かれているが、『絶滅言語』を創造したのが女神アリエルということさえ分かれば充分だ。
そういえば、【覇王魔窟】の方針が転換したころ、もうひとつ大きく変わったことがあった。サポート担当が変わったことだ。アリエルさんからジョンさんに。ここに一つ仮説が生まれるが、それをどうしたものだろうか。
「ふむ。ところで『絶滅言語』を用いた効力とは、スキルではなく、魔法の領域なのですね。魔法──まったく魔法使いと遭遇しないので、存在すら忘れていましたが」
そういえば昔、ジェシカさんが『魔法使いは魔法詠唱の時間がかかりすぎるのでクソ』(要約しましたよ)と言っていたものだが。
古文書〈神禄4巻〉を閉じて、カイト少年に返却する。カイト少年が運ぼうとすると、彼の影から人間が這い出してきて、〈神禄4巻〉を奪う。
そのまま、〈神禄4巻〉泥棒さんは影を飛んで逃げようとしたので、私は《怠惰心地》を発動。
周囲の時の流れを緩慢にしたので、影へ逃げ込もうとする泥棒さんの動きも、ゆったりだ。
私は影の泥棒さんに歩み寄り、近くで魔改造鍬〈スーパーコンボ〉の素振りをする。
「さて、顔面に一撃がいいですか? 鼻は潰れ、すべての歯が砕け散り、眼球が飛び出るでしょう。しかし、それでもあなたは生きているでしょう。またはお腹に一撃がいいですか? 内臓は破裂し、場合によってはお尻から出るでしょう。これは本当ですよ。お腹に凄まじい衝撃があると、お尻からハラワタが出るそうです。それでも、あなたは生きているでしょう。または胸部に一撃がいいですか? 心臓が破裂するので、あなたは死ねるでしょう。どこがいいのか、選ばせてあげますよ?」
影の泥棒さんは、震えながら土下座した。
「も、申し訳ございません! あの、お返しするので、見逃してください!」
と言って、〈神禄4巻〉を差し出す。カイト少年が慌てて受け取る。溜息をついて、
「危うく盗まれるところでした。ありがとうございます、アリアさん」
私は〈スーパーコンボ〉を振り下ろして、影の泥棒さんの右手を潰した。影の泥棒さん、一瞬だけきょとんとした顔で、粉みじんになった右手を見る。それから、ちょっと大げさなくらい叫んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁあ右手右手右右みぎみぎみぎ俺の右手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「こら、こら。ダメですよ泥棒さん。偽物を返却するなんて。昔、私が台所からクッキーを盗んだとき、パパは私の右手をぺしりと叩いたものです。では、次は左手を」
私がゆっくりと〈スーパーコンボ〉を振り上げると、影の泥棒さんはさらに絶叫した。
「いぎゃぁぁぁぁやめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇ本物を返す返すがら゛ぁぁぁぁあああああ!!!」
カイト少年が受け取った偽〈神禄4巻〉が、黒い霧となって消失。それから影の泥棒さんが、本物の〈神禄4巻〉を差し出してくる。あっけにとられていたカイト少年が、ハッとして本物を受け取る。
「ゆ、油断も隙もありませんね。アリアさん、感謝します!」
「カイト少年は、もう少し油断しないように頑張ってください」
「は、はい、精進します」
私は、影の泥棒さんに問いかけた。〈スーパーコンボ〉で、影の泥棒さんの左手をちょんちょんしながら、
「どこから、来ましたか?」
影の泥棒さんは、いまにも吐きそうな顔で、〈スーパーコンボ〉を凝視している。
「ラザ帝国の…………聖都から、です」
「誰の指示ですか?」
「巫女さま…………です」
ふむ。クラウディアさんと再会するときが来ましたか。
それはトマスさんという、300年前の英雄さんが建てた図書館。トマスさんとは有能な〈挑戦者ディファイアンス〉であり、【覇王魔窟】656階まで攻略したパーティの一員だった。
ほう。656階とは、これまでの人類の最高到達点だ(私のいまの最高は500階、995階の住人になったのは攻略記録ではないよね)。
そんなトマスさんが世界各地から集めた蔵書を保管していたのが、トマス図書館。ところが残念なことに、魔物連合軍(先ほど私が壊滅した)によって、数日前に焼かれてしまったらしい。
だが、それでも、図書館のもっとも貴重な書物は運んで守り、いまはこのオルト城砦の書庫にあるという。その中に、『絶滅言語』について書かれた古文書もあったとか。
「通常ならば外部の者は閲覧できませんが、アリアさんはいまや、オルト侯爵卿の騎士ですので」
「騎士の特権ですねー」
カイト少年に案内されて、オルト城砦の地下へ。ふむ。騙し討ちされるならば、ちょうどよい場所に連れ込まれた。しかし、その手の騙し討ちなどはなく、ある意味では拍子抜けする形で、即席の読書スペースで古文書を閲覧させてもらう。なんとコーヒーまで出してもらった。
手袋をつけて、さっそく古文書を開く。ところで本の題名は〈神禄4巻〉。
カイト少年が心配そうに言う。
「あ、そうでした。あの申し忘れていましたが、〈神禄4巻〉も古い言語で書かれていまして。こっちに翻訳版が」
「いえ、読めます」
いつから私は多言語マスターになったのだろうか。その手の言語系スキルパネルを解放したわけでもないのに。〈攻略不可能体〉になったことによる、基本特典なのかもしれない。
ふむふむ。とにかく古文書〈神禄4巻〉によると、『絶滅言語』とはようは神の言葉だと。もちろん、もっと深く掘り下げて書かれているが、『絶滅言語』を創造したのが女神アリエルということさえ分かれば充分だ。
そういえば、【覇王魔窟】の方針が転換したころ、もうひとつ大きく変わったことがあった。サポート担当が変わったことだ。アリエルさんからジョンさんに。ここに一つ仮説が生まれるが、それをどうしたものだろうか。
「ふむ。ところで『絶滅言語』を用いた効力とは、スキルではなく、魔法の領域なのですね。魔法──まったく魔法使いと遭遇しないので、存在すら忘れていましたが」
そういえば昔、ジェシカさんが『魔法使いは魔法詠唱の時間がかかりすぎるのでクソ』(要約しましたよ)と言っていたものだが。
古文書〈神禄4巻〉を閉じて、カイト少年に返却する。カイト少年が運ぼうとすると、彼の影から人間が這い出してきて、〈神禄4巻〉を奪う。
そのまま、〈神禄4巻〉泥棒さんは影を飛んで逃げようとしたので、私は《怠惰心地》を発動。
周囲の時の流れを緩慢にしたので、影へ逃げ込もうとする泥棒さんの動きも、ゆったりだ。
私は影の泥棒さんに歩み寄り、近くで魔改造鍬〈スーパーコンボ〉の素振りをする。
「さて、顔面に一撃がいいですか? 鼻は潰れ、すべての歯が砕け散り、眼球が飛び出るでしょう。しかし、それでもあなたは生きているでしょう。またはお腹に一撃がいいですか? 内臓は破裂し、場合によってはお尻から出るでしょう。これは本当ですよ。お腹に凄まじい衝撃があると、お尻からハラワタが出るそうです。それでも、あなたは生きているでしょう。または胸部に一撃がいいですか? 心臓が破裂するので、あなたは死ねるでしょう。どこがいいのか、選ばせてあげますよ?」
影の泥棒さんは、震えながら土下座した。
「も、申し訳ございません! あの、お返しするので、見逃してください!」
と言って、〈神禄4巻〉を差し出す。カイト少年が慌てて受け取る。溜息をついて、
「危うく盗まれるところでした。ありがとうございます、アリアさん」
私は〈スーパーコンボ〉を振り下ろして、影の泥棒さんの右手を潰した。影の泥棒さん、一瞬だけきょとんとした顔で、粉みじんになった右手を見る。それから、ちょっと大げさなくらい叫んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁあ右手右手右右みぎみぎみぎ俺の右手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「こら、こら。ダメですよ泥棒さん。偽物を返却するなんて。昔、私が台所からクッキーを盗んだとき、パパは私の右手をぺしりと叩いたものです。では、次は左手を」
私がゆっくりと〈スーパーコンボ〉を振り上げると、影の泥棒さんはさらに絶叫した。
「いぎゃぁぁぁぁやめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇ本物を返す返すがら゛ぁぁぁぁあああああ!!!」
カイト少年が受け取った偽〈神禄4巻〉が、黒い霧となって消失。それから影の泥棒さんが、本物の〈神禄4巻〉を差し出してくる。あっけにとられていたカイト少年が、ハッとして本物を受け取る。
「ゆ、油断も隙もありませんね。アリアさん、感謝します!」
「カイト少年は、もう少し油断しないように頑張ってください」
「は、はい、精進します」
私は、影の泥棒さんに問いかけた。〈スーパーコンボ〉で、影の泥棒さんの左手をちょんちょんしながら、
「どこから、来ましたか?」
影の泥棒さんは、いまにも吐きそうな顔で、〈スーパーコンボ〉を凝視している。
「ラザ帝国の…………聖都から、です」
「誰の指示ですか?」
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