「リスポーン地点は魔王の城でした。」

師芭

文字の大きさ
2 / 26
第1章

Ⅰ―Ⅱ

しおりを挟む
 何か魔王と一緒に冒険する事になりました。
 

 
  いやいや何故、僕がこんな目に?そして僕を選ぶ魔王も魔王だよ。ただの人間でしかも武器一つ持ってない奴をどうして冒険のお供に連れてくのさ!
 
 そんな事を心の中で叫びながら僕は魔王の城の廊下を歩いている。僕の前には、あの一つ目のモンスターがペタペタと歩いていた。愛らしく見えてくる。
 
 僕は寝室に案内されている途中だ。魔王の意向で自由に使っていいらしいけど、明日から冒険の旅が始まるからあんまり意味ないよね。
 
 
 「こちらでございます」
 
 
 一つ目のモンスターは急に立ち止まり自分達から一番近い扉を開けると、ペタペタと来た道を戻ってしまった。
 いや可愛い。
 
 さて、ここが僕の寝室らしいけど…
 
 
 廊下を見回して何故か誰もいないか確認して入る。
 
 中は思ったより綺麗だ。魔王の城内にいるとは感じさせない様な照明の明るさで、家具は豪華で繊細な装飾が施されているものばかり。
 
 自分の身長の倍はあるカーテンを開けてみる。外は真っ暗で何も見えない。少し残念だ。
 

 後ろを振り返ると豪華で大きいダブルサイズのベッドが見えた。ベッドは見るからに柔らかそうで今すぐ飛び込みたくなる。
 
 てか、思った時には勢いよく飛び込んでた。
 
 
 「…………めっちゃふわふわぁ…」
 
 
 このまま、脳みそもふわふわぁになってしまいそうな勢いだ。やばい幸せ。超幸せ。
 
 そういやこの世界に来たときから、一回も寝るという行為をして無かったなぁ……。などと思いながら僕の意識は薄れていった。
 
 
 
 

 
  目を覚ますと、そこにはワカメみたいなウェーブがかかった長髪に角が生えている青年…。
 
 ……あれ?これって魔王じゃね……?駄目だ、寝起きで頭がボーッとする…。
 
 
 「おはよう!!相棒よ!!!」
 
 
 魔王はバッと手を広げ、声高々に朝の挨拶を僕に言ってくる。正直うるさい。でも、お陰で少しは目が冴えた。
 
 
 「……おはよう御座います…」
 
 
 実はまともに会話するのがこれが初めて。昨日はビビって会話どころじゃありませんでした。
 
 
 「我が相棒よ!ゆっくり眠れなかったのか?元気がないぞ!!」
 
 
 いや、まぁ凄いぐっすり眠れましたけど。寝起きの奴に元気を求めるのは無理ゲーですって。
 
 
 「まぁ、よい。我は先に外に出ているから、すぐ出てくるんだぞ」
 
 
 そう言い終えるが早いか部屋から出る魔王。え?もう行くの?え?ご飯とか食べないの?そして外に出る方法知らないんですけど!?
 
 色々、聞きたかったが時すでに遅し…。
 僕はとりあえず寝室から出る事にした。
 
 道が分からないのでうろうろしてると一つ目のモンスターが通りがかった。
 第一モンスター発見!と言わんばかりに話しかける。
 
 
 「あ…あの!すみません!外に出るにはどうしたら良いでしょうか!?」
 
 
 急に話しかけたものだから、モンスターも驚いたのか一つしかない目を大きく見開いた。もうどの所作も可愛く見えてくる。これが恋ってやつなのか、いや多分違う。むしろ違ってくれ頼む。
 
 
 「え…、あ、この先を真っ直ぐ行って右に曲がって、また真っ直ぐ行って左に曲がってそれから…それから…」
 
 
 ごめん。分かりにくいや。むしろ案内して欲しいです切実に。
 
 
 「………案内しますね」
 
 
 どうやら説明するのを諦めてくれたようだ。うん良かった。
 
 ノコノコとついていくとモンスターはある場所で止まった。そして両開きの豪勢な扉に手をかける。
 
 これが出口なのかと思ったが、どうやら違うらしい。だって何か多種多様な服がズラーッと並んでるんだもん。これ出口って言われたら流石に突飛すぎておののく。
 
 
 「勝手で申し訳ございませんが冒険に行く準備を整えさせて頂きます。」
 
 
 そう言うとモンスターは服の森へと消えて行った。
 え?勝手でってことは、まさか魔王の意向じゃなくてあの子の好意でってこと?何それ優しすぎるよ。
 
 一人でときめいてると早速、モンスターは服の山を持ってきた。言われるがまま、着てみる。
 
 
 「大変よくお似合いですよ」
 
 
 自分の着ている服を改めて見てみる。胴体と下半身には綺麗で細かい装飾が施された銀色に輝く鎧。腕や脚という箇所にもその模様の鎧は取り付けられているが、さほど重くは無い。上半身の鎧の上には短めのローブを羽織っている。


 最後にこれをと言われ渡されたのは青色のオーラ的なのを纏った剣。すげぇ、綺麗だ本物だ。
 
 改めて日常ではない世界に来たと感じさせる実感に浸ってると、モンスターは先に行ってしまっている。僕は慌てて部屋をあとにした。
 
 暫くついていくと、明らかに今までで一度も見たことが無い様な大きさの両開きの扉が見えた。出口っぽい。
 
 
 「魔王様がお待ちです。どうぞ行ってらっしゃいませ」
 
 
 手厚く送り出してくれるモンスターにお礼を言い。扉を開け足を踏み出そうとする。しかし扉は割と重くて僕の非力な力では到底開かない。どうしよ。
 
 一つ目のモンスターに助けを求めようとしたが、もう居なくなってた。いや帰るの早すぎだろ。絶対、僕が必死に開けようとしてたの見えてただろ。
 
 感謝していた思いが危うく憎しみに変わりそうなとき、重く鈍い音をたてて扉が開いた。
 
 突然光が差し込んでくる、余りにも眩しすぎて思わず目をつむった。
 
 
 「遅いと思って戻ろうとしたら、何だそんな所にいたのか!我が相棒よ!」
 
 
 聞き覚えのある元気な声が鼓膜に響く。
 目がようやく慣れてきて僕は目の前の青年を見た。
 
 
 「すみません遅れました!」
 
 
 もう完全に目が冴えたらしく精一杯、大きな声で応える。
 
 
 魔王はニッと口の端をあげると羽織っているマントをひるがえし、ついてこいと言った。
 
 
 僕はようやく外に足を踏み出す事が出来た。
 
 
 最初に目に映ったのは美しく明るい多くの緑。そして、すぐそばに魔王の城があるとは全く感じさせない、辺り一面見渡す限りの大草原。
 
 草原には心地良い風が吹き、僕の髪を少しだけ撫でた。早朝の朝らしく、空気がとても澄んでいる。
 
 
 「相棒よ」
 
 
 壮大な自然に感嘆していると魔王が話しかけてきた。
 
 
 「はい、何でしょうか?」
 
 
 向き直り、割と顔は美形の青年を見る。
 
 
 「これから、宜しく頼むぞ」
 
 
 魔王はウェーブがかかった長髪をなびかせながら、にこやかに芯のある声で僕にそう言った。
 
 
 「……はい!!」
 
 
 僕だけにあてられた言葉に応えるべく、声を張り上げた。
 
 
 ウハハと高々に笑いながらバッと手を広げる魔王。
 
 
 

 
  その時、確かに僕は冒険の旅に心を踊らせていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一抹の不安すらも抱えず。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...