上 下
4 / 26
第1章

Ⅰ―Ⅳ

しおりを挟む
 「言わないといけないこと…?」
 
 
 魔王は僕に言わないといけないことがあるらしい。やけに改まって僕の方を向いている。その瞳にはただならぬ意志が宿っている様に見えた…気がする。
 
 
 「……この冒険の意味を教えていなかったであろう?」
 
 
 コクリと頷く。
 言われてみれば確かにそうだ。僕はまだ何の情報も得ていないまま話に流されてここまで来ている。 
 
 
 「この冒険の旅の目的は……ある人間を見つけるためなのだ」
 
 
 「ある……人間?」
 
 
 魔王が直々に会いに行くような人間って一体どんな人なんだ。
 
 
 「その者は勇者と呼ばれている」
 
 
 勇者?勇者ってあの…よくゲームの主人公だったりする…?
 
 でも、なんで魔王が直々に見つけに行くんだ?普通、勇者が魔王の城に向かうはずなのに…。
 
 
 「何故、我がその人間を探しているのかという理由はな…」
 
 
 何か訳があるんですね?
 
 
 「勇者が全く来ないからなのだ」
 
 
 ……………え?
 
 つまり魔王は勇者が全然、来ないから自ら出向いたと?
 
 それに僕が付き合わされてると!?
 
 
 「何で僕を連れて行こうと…?」

 「一人では面白くないだろ?」
 
 
 「…………………」
 
 
 「…………………」
 
 
 「さぁーて!そろそろ出発するか!!!」
 
 
 いやいや!?ちょっと待ってぇ!?何その理由?もっと、ちゃんとした理由があると思ってたよ?
 実質、僕いらないじゃん?いらないよね?
 
 
 
 僕の必死な心の叫び虚しく、魔王はさっさと先に進んでしまっている。
 
 
 「相棒よ!先に進むぞ!」
 
 
 僕はもう引き返せないこの状況を恨むと同時に、流されやすい自分を恨んだ。
 
 
 *****
 
 
 さっきから、ずっと変わらない景色を見ている気がする。
 鳥のさえずりは止むことを知らないらしいし、辺一面木々が生い茂っている。
 
 
 「そういえば相棒よ」
 
 
 また魔王が唐突に話しかけてきた。後ろを歩いている僕に振り向いたりはしないけど。
 突然、話しかけられると毎度ビクる。
 
 
 「我が何もしなかった訳では無いぞ」
 
 
 ん…?何のこと言ってるか分からない。とりあえず適当に相槌をうっとく。
 
 
 「は、はぁ……」
 
 
 駄目だ適当過ぎた。これじゃあ、ため息と同じだ。
 
 
 「ちゃんと勇者が我が城に来るように色々していたのだ」
 
 
 あ、そういう話だったの?相槌はうったけど、全くこれっぽっちも分からなかった。
 
 
 「姫をさらったりとかな」
 
 
 それ勇者をおびき出すためだったの!?やる事が某ゲームの炎を吐く亀だけど?
 
 
 「勇者はそれでも来なかった」
 
 
 勇者何してんだ。お陰でお姫様が魔王の城で居心地の良い生活を送る羽目に…。あれ…?それって、ひょっとして良いこと?
 
 
 「だから我から出向いてやっているのだ」
 
 
 勇者が遅すぎるのか、単に魔王が待つのが嫌なのか…。

 どちらにしろ僕は巻き込まれてしまったわけで……。
 
 何か結構、とんでもない事になってる気がしないか。大丈夫なのか…。
 
 でも不安に思う時、希望を見つけたがるのが人間の性というもので。
 
 
 (もし、この世界の事をよく知って元の世界に帰れる方法を見つけられたら…いいなぁ…)
 
 そんな呑気な事を考えながら、僕達はまだ変わろうとしない景色の中を歩いた。
 
 
 
 鳥は今もなお、さえずっていた。
しおりを挟む

処理中です...