「リスポーン地点は魔王の城でした。」

師芭

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第1章

Ⅰ―Ⅴ

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 ようやく森を抜けた。辺りは少しだけだが茜がかっている。結構、長く歩いていたんだ。
 
 
 「まずは近くの村へ行くとするか」
 
 
 何か村へ行くそうです。どんな感じなのだろうか。魔王の城の近くって廃村しかない様なイメージがあるけど…。
 
 
 「ここが村だ」

森を抜けたらすぐ村がありました。

 ちゃんと生きている人間がいるし結構、活気がある。返事をしてくれない屍とかも見当たらない。
 
 
 「まずは情報収集だな」
 
 
 割と近場から情報収集するんだ。
 
 
 魔王はスタスタと歩いていく……けども…………その姿で大丈夫なの?確かに魔王の城の近くの村だけど、思いっきり角生えたワカメ頭のヒトが平然と入ってって……良いのか?
 
 
 「おぉ!魔王様だ!!」
 
 
 近くで声が上がった。それを口切りに歓声が上がっていく。
 

 歓迎されとる。魔王、人間に歓迎されとる。
 
 
 「ここの人間達とは皆、顔なじみでな、よく城を抜け出して遊びに来ていた」
 
 
 何その親密な感じ。僕なんか友達もいなっ…別に羨ましくなんてないよ。うん。
 
 
 「さて情報収集といこうか」
 
 
 情報収集といっても魔王の周りに村人が群がっているんですが、まさかそのまま聞くんですか?いらなくない?僕。
 
 
 
 それにしても村の人は随分、魔王と親しいみたいだ。普通なら恐れたりするものなのにな…。それって、やっぱり魔王の性格の良さにあるのかもな。
 

 ふと、そんな事を思ったりする自分に何故か恥ずかしさを覚えた。
 
 魔王との冒険ってどんなんだろうと思ってたけど、思いの外僕は楽しんでる。
 
 その原因は彼なんだと思う。人間さえも親しみやすくしてしまう彼は魔王という名が良い意味でふさわしくない。
 
 
 「あれ……?」
 
 
 途端に感じた違和感。
 
 
 それじゃあ勇者は必要ないのではないのだろうか?

 世間一般的に勇者は悪しき魔王を倒す為に存在する。
 
 でも、僕から見たら魔王は悪い人には見えない。お姫様をさらったりもしたけど結局は喜んでいるらしいし、村の人だって笑いながら魔王に話しかけている。
 

 もしかしたら、この世界にとって害悪な第三者がいて魔王は勇者と協力して倒そうとしているの…かも?
 
 
 「相棒よ」
 
 
 魔王に呼びかけられたら考えていた事が何処かへ消えてしまった。
 
 
 「情報収集は終わった。今日はここの宿に泊まろう」
 
 
 僕は魔王の言葉に頷くしか無かった。
 
 
 *****
 
 
 「情報収集の成果だが、全くもってかんばしくないな」
 
 やはり近場は勇者の情報は少ないかとぼやく魔王。
 

 僕は、さっきからずっと部屋の中心にあるイロリを見ている。歴史博物館くらいでしか見れない珍しいものだ。この世界ではこれが普通なのかな?
 

 ここは村の宿。木造建築でとても落ち着く雰囲気だ。僕達の部屋は結構広く、中心に光源となるイロリがあって部屋の隅にワラの…あれは寝床なのか?
 

 日本人の僕でも流石にワラの布団に寝たことは無いな。
 
 
 「相棒、大丈夫か?」
 
 
 ずっとイロリばかり見てたから心配されてしまった。大丈夫だという意味で頷く。
 
 
 「慣れない場所を歩いて疲れたのであろう、今日はゆっくり休むと良い」
 
 
 優しく笑う魔王。そういえば、僕はまだ彼に聞きたいことがあった。
 
 
 「……何で魔王は勇者を探しているの?」
 
 
 冒険の意味は分かったけど、理由までは聞かされてない。
 
 
 「……………」
 
 
 魔王は難しい顔をしている。あれ?思ったより深刻なことなのか。
 
 
 「…倒す…為だ」
 
 
 倒す為?魔王が何故、進んで勇者を倒すのだろう。魔王自身、何の問題もないのに。
 
 
 「何で倒すの…?勇者って良い人でしょ?」
 
 
 疲れが回ってきたのか頭がボーッとする。そのお陰で今日はよく喋れていた。
 
 
 「良い人?何故、そんな事を言うのだ?」
 
 
 え…?勇者ってあの勇者だよね?世界中の人々の為ならば自分の命もかえりみず敵と奮闘する…。
 

 それが…
 
 
 「勇者だからじゃ?」
 
 
 「相棒の知っている勇者がどんな勇者か知らないが、我の知っている勇者は決して良い奴などではない」
 
 
 かなり衝撃的だった。勇者が良い奴じゃない?まさか、この世界では勇者は悪者なのか…?そんな事ってあるの?
 
 
 「勇者とは勇ましい者と書くが、勇ましい者が善であるという証明にはならないのだ」
 
 
 言われてみればそうかもしれない。勇者という単語だけで、その人の性格を格付けるのは違う。
 
 
 「じゃあ…勇者は悪い奴なんだ?」
 
 
 「我の知っている限りはな。相棒もこれから色々な人を目にすると思うが、どれも勇者を恨んでいる者ばかりだ」
 
 勇者を恨んでいる…。じゃあ人々が希望を抱いているのは魔王の方なのか。
 
 
 「一体、勇者は何をしたの?」
 
 
 色々な人々に恨まれるくらいの悪事とはどの様なことなのだろう。
 
 
 「不法侵入、窃盗、器物損壊などだな」
 
 
 …………………。
 
 え?そんな現実的な問題だとは。
 
 
 「実際、勝手に家に入り、タンスをあさり衣服を盗んで、置いてあるツボなどを壊したりといった事があったらしい。酷いものだろう?」
 
 
 それは…第三者の目からしたら確かに酷い。ゲームだったら許されてたと思うことも、この世界では犯罪に繋がるのか。うぅむ、妙に現実的だ。
 
 
 「では、次は我から相棒に質問する」
 
 
 「え………」
 
 
 魔王からの質問なんて初めてだ。どうしよう、僕、全然この世界の事について知らないんだけど答えられるかな。
 
 
 「お前はどこから来たのだ?」
 
 
 今更かと思う質問。でも僕にとっては答え方次第で、命に関わる…かもしれない。
 
 

 どうしよう…なんて答えれば……。
 
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