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番外編

休日の行方

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 宿から出て、持っていた地図を広げる。
 
 
 「目印は高台…」
 
 
 高台を探す、ここからでも十分に見える所にあるはずなんだけど…。
 
 
 「あそこだな」
 
 
 クラージュの指差した方向を見る。
 あー、思ったよりも遠い。けど、日が暮れる前にはなんとか着けそうだ。
 
 僕達はこれから、この街を見渡せるらしい場所に向かう。
 
 僕が決めた行きたい場所はそこだ。
 せっかく来たんだから、せめてこの街を、この国を見たかった。
 
 っていうのは建前で単に行く場所が、決められなかっただけなんだけどね。
 何はともあれ早く行かないと、暗くなってしまって行き損になるので急がないといけない。
 
 地図を見て、高台への近道を行く。
 
 見慣れない物が多くある、この世界は僕の好奇心をかきたてるには十分なものだけど今は、いちいち見てる暇は無いのでとにかく歩く。早歩きで。
 
 クラージュはいつものと変わらない歩調で隣を歩いている。
 
 昼間よりは人通りが少なくなった街を行く、明るい活気はまだ失われていない。
 
 
 「おう、兄ちゃん」
 
 
 前方から誰かに話しかけられた。
 
 キョロキョロと周りを見ていた僕は、やけに太い声のする方を見る。
 
 話しかけて来たのは昨日酒場で会った、屈強な男の人その1だった。
 僕が呆然としていると、クラージュはその人に近付き話しかける。
 
 
 「おお!昨日の人間ではないか!」
 
 
 何か、とても嬉しそうだ。
 
 
 「へへっ!また会ったな!」
 
 
 人差し指で鼻の下をこすりながら笑う男の人。
 それから二人は昨日と同様、談笑を始めた。
 
 
 どうしよう…。
 日が暮れる前に行かないといけないのに……。
 
 でも、二人の邪魔をしてはいけないという考えが頭をよぎり、僕は何も言えなかった。
 
 
 *****
 
 
 辺りにいた人が極端に減り始めた。
 
 空の向こう側半分は既に藍色になって来ている。
 僕が半ば、諦めていると男の人の「じゃあな」という声が聞こえた。
 
 どうやら談笑が終わったようだ。
 
 クラージュは男の人の背中を見ている。まだ楽しい時間の余韻に浸っているみたいだ。
 
 
 「では、行くとするか!」
 
 
 そして僕に、振り向きそう言った。
 
 けど、僕は首を横に振る。
 だって
 
 
 「もう間に合わないよ」
 
 
 こうしている間も空はどんどん暗くなっていっているし。
 もう無理だ。
 
 
 「そうか」
 
 
 続けて
 
 
 「落ちるなよ」
 
 
 と頭上で声が聞こえた。
 
 ―その瞬間、急に体が浮き視界が高くなる。
 
 
 「え?え?」
 
 
 戸惑っていると、景色が切り替わり始めた。
 その数秒後にら僕はクラージュに担がれていると理解する。
 
 にしても、とても早い。風圧が凄いし、視界がぐわんぐわん揺らいで…吐き気が……。
 
 落ちない様、僕を抑えてくれる手はあるけど、それでもとても怖い。
 
 どうか落ちません様にと目をつむった。
 
 
 
 
 
 「着いたぞ」
 
 
 その声と同時に、僕の足は久しぶりに重量を感じる事が出来た。
 まだ頭がくらくらする中、僕はクラージュにお礼を言う。
 
 そして、まだ少し明るい空を見上げた。雲が日の光を受けて、朱くなっている。
 
 
 「ほう…確かにこれは良い眺めだな」
 
 
 クラージュが顎をさすりながら、目を輝かせた。
 
 僕は出来る限り、前へ踏み出す。
 
 突然、強い風が吹き僕の髪を乱した。その影響で目をつむってしまう。
 
 …数秒後
 
 目を開けて見えたのは夕日に照らされる街並み。そしてここからでも一際、大きく見える純白のお城。
 
 綺麗だ。
 
 思わず、ため息が出た。
 
 ここに決めた理由は何であれ、来て良かった。
 そして、間に合って良かった。
 
 クラージュはいつの間にか隣に立って、日が沈みゆく街並みをその綺麗な瞳に映していた。
 
 
 「ありがとう!」
 
 
 隣に立つ青年に向き直り、感謝の言葉を言う。
 彼は、僕の…いうならば初めて言った感謝の言葉に少し驚いていたけど、すぐいつも通りニッと笑った。
 
 その後に日は沈み、空の大半が星の輝く色に埋め尽くされたけど、まだ僕の胸は高鳴っていた。
 
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