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第1章
Ⅰ―XXV
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『案内人』と書いてある木の札を首に下げたヒトが二人……僕の目の前にいる。
どちらも耳が生えているけど、男の子の方は犬っぽい耳で女の子の方は猫っぽい耳だ。
僕達が今いるこの家は、ずっと探していた『案内人の家』らしい。
先程、クラージュが気絶させた少年の案内で来れた。割とすぐに目を覚ましてくれて助かった。
「すみません突然、襲ってしまって…」
ペコペコ頭を下げながら、必死に謝る犬耳の少年。
あの時、実は死を覚悟したけど、それは言わない様にしよう。
「我もすまない」
何より、クラージュの攻撃(平手打ちだったらしい)の方が痛そうだ。
現に少年の頬にはギャグ漫画よろしくクラージュの手の跡がくっきり付いているし、少しだけだけど目に涙を浮かべている。
うん、めっちゃ痛そう。
「ところでこんな暗い時間に何故、この森へ?」
僕が平手打ちの痛みを想像していると、今までずっと黙り込んでいた猫耳の少女が問いかけて来た。
暗い時間に森に入ったんじゃなく、案内人を探しているうちに暗くなった。という事を説明する。
そしたら、凄い驚きの顔をされた。
「そんな筈ありませんわ!」
急に少女が声を張り上げ、顔をずずいっと近付けてきた。
僕は思わず座っていたソファに倒れ込む。
最近、よく女の子にビビらせられるけど思い返せば、誰にでもビビってるわ…。
それにしても、何がそんな筈無いんだろう。
「この家は、案内を必要とされている方の為にとても良い場所にあるのですわよ!?」
と、とても『良い場所』…?
ごめん、案内する気が無いとか思ってたんだけど。一体どこが良い場所なんだろう。
「どこが良い場所なのだ」
クラージュが顔をしかめて女の子を見る。
……僕がもしあの子の立場だったら泣いていただろう。
「よく聞いて下さいましたわ!」
でも、彼女は泣く気配など無い様で待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。
「この家は丁度、巨大樹の森の中心にありますの!!」
……………………
…………へ?
……森の…中心?
場の静まり返った雰囲気を、僕達が聞こえてないと勘違いしたのか少女は繰り返す。
「中心にありますの!!」
いやいや、聞こえてる聞こえてる。聞こえてるからこそ静まり返ったんだよ。
「…それのどこが良い場所なんですか?」
流石の僕でも口を開かずにはいられなかった。
「森のどこから入っても均等に案内出来る様、計算していますの!」
とても自信満々で答える少女。
どうしよう、どこからツッコめば良いのか。とりあえず…ずっと思ってた疑問を。
「でも…それじゃあ来る途中に迷う人がいるんじゃ?」
まさに僕達の様に。
「…………あ」
何かを察した様だ。
「だから、誰も家を訪れないのね!納得いたしましたわ!!」
うつ向いていた顔をバッと上げ、歓喜の表情を浮かべる少女。彼女の猫耳がそれに合わせるようにピクピクと動いている。
なんか予想外の反応だけど、分かってくれたみたい。
「あの、すみません」
一段落ついたところで、機を見計らってか犬耳の少年が口を開いた。
「もうそろそろ寝る時間なので…」
窓の外はもう黒くなっている。
そして、少年はウトウトといかにも眠たそうにしていた。
あ。
今日、泊まる所………探して無かった。
どうしよう?という表情で隣に座るクラージュを見る。
彼は目を閉じていた。
「…クラージュ?」
まさかとは思うが、名前を呼んでみる。
返事は無い。
「あらあら、寝てますわね」
それを見た少女は困った様な顔をした。
僕も困っている。
だってクラージュは一度寝たら朝が来るまで絶対に起きない。
てか、話の途中で寝ないでよ!?
「今日はここでお休みになられて下さい」
犬耳の少年が毛布を僕に差し出しながらそう言った。
何て、優しい子なんだ…。
感動してお礼を言うと、少年は穏やかに微笑んだ。
そこには今でもくっきりとクラージュの手の跡が残っていた…。
どちらも耳が生えているけど、男の子の方は犬っぽい耳で女の子の方は猫っぽい耳だ。
僕達が今いるこの家は、ずっと探していた『案内人の家』らしい。
先程、クラージュが気絶させた少年の案内で来れた。割とすぐに目を覚ましてくれて助かった。
「すみません突然、襲ってしまって…」
ペコペコ頭を下げながら、必死に謝る犬耳の少年。
あの時、実は死を覚悟したけど、それは言わない様にしよう。
「我もすまない」
何より、クラージュの攻撃(平手打ちだったらしい)の方が痛そうだ。
現に少年の頬にはギャグ漫画よろしくクラージュの手の跡がくっきり付いているし、少しだけだけど目に涙を浮かべている。
うん、めっちゃ痛そう。
「ところでこんな暗い時間に何故、この森へ?」
僕が平手打ちの痛みを想像していると、今までずっと黙り込んでいた猫耳の少女が問いかけて来た。
暗い時間に森に入ったんじゃなく、案内人を探しているうちに暗くなった。という事を説明する。
そしたら、凄い驚きの顔をされた。
「そんな筈ありませんわ!」
急に少女が声を張り上げ、顔をずずいっと近付けてきた。
僕は思わず座っていたソファに倒れ込む。
最近、よく女の子にビビらせられるけど思い返せば、誰にでもビビってるわ…。
それにしても、何がそんな筈無いんだろう。
「この家は、案内を必要とされている方の為にとても良い場所にあるのですわよ!?」
と、とても『良い場所』…?
ごめん、案内する気が無いとか思ってたんだけど。一体どこが良い場所なんだろう。
「どこが良い場所なのだ」
クラージュが顔をしかめて女の子を見る。
……僕がもしあの子の立場だったら泣いていただろう。
「よく聞いて下さいましたわ!」
でも、彼女は泣く気配など無い様で待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。
「この家は丁度、巨大樹の森の中心にありますの!!」
……………………
…………へ?
……森の…中心?
場の静まり返った雰囲気を、僕達が聞こえてないと勘違いしたのか少女は繰り返す。
「中心にありますの!!」
いやいや、聞こえてる聞こえてる。聞こえてるからこそ静まり返ったんだよ。
「…それのどこが良い場所なんですか?」
流石の僕でも口を開かずにはいられなかった。
「森のどこから入っても均等に案内出来る様、計算していますの!」
とても自信満々で答える少女。
どうしよう、どこからツッコめば良いのか。とりあえず…ずっと思ってた疑問を。
「でも…それじゃあ来る途中に迷う人がいるんじゃ?」
まさに僕達の様に。
「…………あ」
何かを察した様だ。
「だから、誰も家を訪れないのね!納得いたしましたわ!!」
うつ向いていた顔をバッと上げ、歓喜の表情を浮かべる少女。彼女の猫耳がそれに合わせるようにピクピクと動いている。
なんか予想外の反応だけど、分かってくれたみたい。
「あの、すみません」
一段落ついたところで、機を見計らってか犬耳の少年が口を開いた。
「もうそろそろ寝る時間なので…」
窓の外はもう黒くなっている。
そして、少年はウトウトといかにも眠たそうにしていた。
あ。
今日、泊まる所………探して無かった。
どうしよう?という表情で隣に座るクラージュを見る。
彼は目を閉じていた。
「…クラージュ?」
まさかとは思うが、名前を呼んでみる。
返事は無い。
「あらあら、寝てますわね」
それを見た少女は困った様な顔をした。
僕も困っている。
だってクラージュは一度寝たら朝が来るまで絶対に起きない。
てか、話の途中で寝ないでよ!?
「今日はここでお休みになられて下さい」
犬耳の少年が毛布を僕に差し出しながらそう言った。
何て、優しい子なんだ…。
感動してお礼を言うと、少年は穏やかに微笑んだ。
そこには今でもくっきりとクラージュの手の跡が残っていた…。
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