「リスポーン地点は魔王の城でした。」

師芭

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第1章

Ⅰ―XXIV

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 少女の女王様が統治していた国の門が見える。
 これ程大きい国からして、門も相当の大きさなのだろうと思っていた予想は見事に的中した。
 
 この国に来てから色々スケールが、でかい建物を見ている気がする。
 それに対し、いちいち見上げている僕の首も悲鳴をあげ始めていた。
 
 いたわる様に左右に首を曲げる。小さいけどコキッという音が聞こえた。
 
 
 「この先は『巨大樹の森』です。お気を付けて」
 
 
 門の前に立っている兵士がそう言うと、閉じていた門を開けてくれた。
 
 へぇ、巨大樹の森…。
 もしかしてそこも通っていくのかな?
 
 凄まじい音をたてて開く門。その奥に見える緑豊かな自然、そこからさわさわと僕の頭を撫でる様な風が吹いた。
 
 これは幸先、良さそうだと思い。僕は開ききった門を隣にいる青年と一緒にくぐった。
 
 
 *****
 
 
 何が『幸先、良さそうだ』よ。
 
 見渡す限り、自分よりも遥かに高い木、木、木。
 
 
 「これは…マズイな」
 
 
 クラージュは珍しく頭を抱えている。
 
 この森に入る前に彼から聞いたんだけど、ここは別名『迷いの森』と呼ばれているらしい。
 そう、RPGでよく出て来る非常に面倒くさい場所。
 

 確かに見渡す限り、均一に並んだ巨木で迷いやすいのは分かる。まだ霧とかが出ていないだけマシだ。
 
 
 でも、この森には来る人が迷ってしまわない様に案内人がいるらしい。
 
 いるらしい…けど。
 
 
 僕はこの魔の森とも言っていい場所に、足を踏み入れる前の事を思い出す。
 この森の入り口には一つの立て札があった。
 
 そこに書いてあったのは…
 
 『巨大樹の森に入る際は案内人の家までお訪ね下さい』
 
      と
 
 『案内人の家は巨大樹の森のどこかにあります』
 
 だった。
 
 
 案内する人の家が迷いの森にあっちゃ駄目じゃない!?
 

 たどり着く前に迷うの確定じゃん!
 案内する気、無いじゃん!
 

 もう死ねと言っている様なものだよ!!
 
 
 まぁ、その立て札を見て通るのをやめる事も出来たよ。
 
 でも。
 

 「きっと入れば、すぐ分かる所にあるんだろう」とか何とか言ってクラージュが、ずんずんと森の中へ入って行ったから見事にフラグを回収する事になったんだ。
 
 
 もうこれ、フラグ回収乙とか呑気に言ってる場合じゃ無いよ。
 

 死亡だよ。
 

 死亡フラグ、建ち始めてるよ。
 
 
 そう思いながら森の中へ向かっているけど、周りの景色は木、木、木のまま。
 

 クラージュはずんずんと森を進んで行くけど、僕としては少し止まった方が良いと思う。
 

 そして気付いてほしい、
 
 
 すでにもう、日が暮れている事に!
 
 
 クラージュは案内人の家を見つける事に夢中で、空の明るさどころか僕の声にも気付かない。
 

 さっきボヤいてた『これは…マズイな』っていうのは、まさに今の彼にとってブーメラン以外の何ものでも無いという事だ。
 

 相変わらず、周りには巨木しかなく空は刻々と暗くなっていく。
 
 
 ウゥゥゥゥゥ…
 
 
 不安が募っているせいか唸り声が聞こえてくる気がする。
 
 
 グルルルルル…
 
 
 ……声が近くなった。
 
 
 …ガウッガウッ!!
 

 獰猛な声が聞こえると同時に、すぐそばの木から黒い物体がこちらに突っ込んできた。
 
 
 「うわああああぁぁぁ!!?」
 
 
 僕は黒い物体に押され、その場に倒れ込んだ。
 

 重い…し、とても臭い…!
 
 必死に引き剥がそうと黒い物体を掴む。
 

 毛だ……毛がある。
 
 そしてとても…モフモフしている。
 
 
 「リヒト!!大丈夫か!?」
 
 
 クラージュがやっと気付いてくれた。
 

 出来れば、もっと早くに気付いて欲しかったけど…!!
 
 
 黒い物体は僕の上から離れ、クラージュの方に向かっていく。
 

 そしてまだ身構えてもいない彼に、大きく飛びかかった。
 
 
 バチンッ
 
 
 と鋭い音が響く。
 

 その次に、ドサッという音をたてて黒い物体が倒れ込んだ。
 

 クラージュは、いつの間にか伸ばしていた手を下ろした。どうやら、未知の生物相手に攻撃したらしい。
 

 黒い物体の正体を確かめるべく、彼の元へ向かう。
 
 
 「え」
 
 
 「コイツが案内人か」
 
 
 黒い物体の正体は『案内人』という木の札を首にぶら下げた…
 
 
 
 犬の様な耳の生えた少年だった。

 
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