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第1章

Ⅰ―XXIII

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 「有難う御座いました」
 
 
 とカウンターに立っている女性が言った。
 
 僕はそれに対し2日間、お世話になったお礼として頭を下げる。
 
 今日から、また旅が始まる。
 
 
 「リヒト、日が傾く頃には泊まる所を見つけたい」
 
 
 早く行く様にと急かすクラージュ。
 
 次はどこに行くんだろうか。そんな早くに着く所なのかな?
 街は早朝だというのに多くの人で賑わっている。もう少しだけ、この国に居たかった。
 
 
 「次はどこに行くの?」
 
 
 「海都だ。クレアに頼まれた物も買わないといけないから、少し遠回りになるがな」
 
 
 海都……海かぁ。
 そういえば暫く、海なんか行ってないや。
 
 まかせいひんがある場所、分かってたんだ。
 それなら結構、早くにお使いは終わるんだね。
 
 
 「そういえば今日、泊まれる所は行く先の近くにあるの?」
 
 
 日が傾く頃には見つけたいと言っていたから、どこに泊まるかまでは考えていないらしいし。
 
 
 「我の知っている限りだと無い」
 
 
 「え」
  
  え。
 
 ぼそっと「野宿の可能性もある」とか言ってる。もしかして、もしかして僕、人生初の野宿を経験する羽目に…?
 こういう時って、ダンボールとか用意しなくて良いのか?凍え死なないよね?大丈夫だよね?
 
 
 「む?何だあの人だかりは」
 
 
 クラージュが突然、止まった。目線を追ってみるとそこには確かに人だかりが出来ている。
 
 僕達は顔を見合わせて、その人だかりへと突っ込んで行った。
 
 どうやら、人々は一枚の張り紙を見ているようだ。
 
 
 「WANTED?」
 
 
 張り紙にはそう書いてある。
 文字の下には、仏頂面で髪型がとても個性的な男の子の絵が描かれていた。
 
 絵の下にはやたらとゼロが多い数字が書かれている。
 つまり、この子は賞金をかけられているのか。
 僕と同い年ぐらいなのに、大変だな。
 
 
 「コイツが勇者だ」
 
 
 「え!?」
 
 
 この子が今、僕達が探している勇者?あの、不法侵入とかモロモロをやらかした勇者?
 
 にわかに信じ難い。
 特にこのよく分からないヘアスタイルのやつが勇者なんて信じたくない。
 
 
 「この国にまで張り出される様になるとは…。早く倒さねばならないな」
 
 
 そう言って踵を帰すクラージュ。
 僕も慌ててそれについて行く。
 
 勇者の外見は覚えたけど、本当に倒さなきゃいけないのか…。
 
 和解…とかは出来ないのかな。
 
 聞いてみようとクラージュの方を見るけど、僕の視線に気付かない様だ。
 
 彼はただ前を見て、進んでいる。
 
 目的の為だけに動くその様は、今までに無い魔王らしさが見えた気がした。
 
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