ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 ―今、あなたの後ろにいるの―

逢月 悠希

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第1章『名もなき奇跡の始まり』

6.独唱の歌姫-1

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(寝過ごしてしまった……)

 朝。ラザラスが掛けていたアラームで目覚めたロゼッタはひとり反省会を行っていた。
 数時間待機して、ラザラスが熟睡してから家を物色するつもりだったのに——家主の身支度を見守りつつ、ロゼッタは影に隠れて溜め息を吐く。

「アンジェ? 起きてるか? え、俺? 俺は大丈夫だよ、心配すんな」

 ラザラスは誰かと電話しているらしい。“アンジェ”という名前からして、どう考えても女性である。
 まだ存在を把握している“ジュリー”なら良かった……女性の周辺人物が増えた。困る。

「……」

 電話の内容が気になりすぎてしまったロゼッタは、魔力のゴリ押しで自身の聴覚を高めた。

『軽々しく大丈夫って言うけど、あなた、最近顔色悪いのよ。今日は収録後、直帰できるの?』

「あー……いや、ちょっと色々と、な……」

『またなの……お願いだから、無茶なことはしないで欲しい。お願い、だから……』

 電話ごしに聴こえたのは、やはり女性の声だった。どうやらラザラスのことを心配しているらしい。
 彼女を安心させるために、ラザラスは器用にも声音だけ笑ってみせる……本当に声音だけで、顔は全く笑っていないを通り越して、見事なまでの無表情だ。ちょっと怖い。

「魔術の練習してるだけだって。それに、俺は格闘技使えるって知ってるだろ? その……平気、だから」

『体格に恵まれてたって、珍しい容姿してるのは、あなただって一緒。
 あなたはヒト族だし、私と違って空に逃げられるわけじゃない……追及はしないけど、その代わり、本当に無茶だけはしないで』

 ロゼッタは、落ち着かなくなった。

(なにこれなにこれ~!!! ただ事じゃない会話してる~ッ!!)

 ふたりだけの秘密の会話っぽい内容を一方的に聞かされる現状で、落ち着けるはずがなかった。
……というより、謎の信頼感があるらしい様子が何故だか、ものすごく嫌だった。
 だからこそロゼッタは容赦のない盗聴を続けてしまう。

「ありがとな。君を悲しませるような結果にだけはしないよ、絶対に」

『約束よ? じゃあ、また後でね。ちゃんと元気な顔、見せなさいよ』

 しかし、盗聴を決意するのとほぼ同時に電話はあっさりと切れてしまった。
 ラザラスの最初の発言からして、アンジェが起きているかどうかを確認する電話だったのだろう。俗に言うである——ロゼッタは、大変むしゃくしゃした。

(うぅ……絶対に関係深いやつじゃん……)

 ロゼッタのあまりにも偏りすぎた知識が、アンジェのことを「魔王討伐に行く勇者の帰りを村で待つ、健気すぎる幼馴染みたいだ」と言っている。
 そして、そういう女性は大抵、討伐から帰った勇者とちゃっかり結婚するものらしいから、なおさら気になるのだ。

 何故か荒れ気味になってしまった気持ちを抑えつつ、ロゼッタはラザラスの着替えシーンを眺める。
 だんだん、ストーカー行為に対する遠慮が無くなっていた。

(あー、身体も傷だらけだ。刺し傷と切り傷が多いなぁ。痛そう……肌が白いせいで目立つんだよね)

 それはさておき、ラザラスの身支度は微妙に時間が掛かるようだ。
 彼自身は基本的にそこまで見た目にこだわる方では無いようなのだが、肌に日焼け止めを塗りたくったり、顔の傷を隠す化粧を施したりと結構大変そうである。

 彼の場合は『他の人が気にしなくて良いことを気にしなければならない』のだろう。それは、強いストレスになるような気がする。

(外なんてろくに出たことないから、知らなかったけど……たぶんこの国、紫外線ってやつが強めなんだろうね。本来は褐色肌の人が多い国なんだろうし)

 その過程を遠慮なくしっかりと見届け、ロゼッタは彼が家を出る瞬間を狙ってラザラスの影に飛び込んだ。


 〇


 ラザラスをストーキングした結果、ロゼッタは巨大な灰色の建物を目にすることとなった。てっきり喫茶店という名の拠点に行くのかと思っていたのだが、違うらしい。

 建物に着いた後、ラザラスは何か身分証のようなものを提示し、中に入る。
 入ってすぐの場所に不審者の侵入を妨げるための大きな機械が置いてあったが、残念ながら影の中に入っているロゼッタにそれは一切効かなかった——またしても科学技術は、ロゼッタの膨大な魔力に大敗した。

「アンジェ、おはよう」

 ラザラスはきょろきょろと辺りを見回した後、椅子に座っていた人物に声を掛ける。その人物の姿に、ロゼッタは見覚えがあった。

「……おはよ」

(あ! この人、写真に写ってた有翼人さん!!)

 アンジェは髪の長い、有翼人種の少女だった。ロゼッタが見た写真に写っていた人物のひとりだ。
 謎の美女が追加されなくて良かったと胸を撫で下ろすが、実際の彼女は写真よりもさらに美しかったのでロゼッタは困惑した。

「……」

「ん? スケジュール変わったのか? あー、なるほど。直前の収録が長引いてんのか」

「……」

「私が歌う流れは変わってないって、そりゃそうだろ。歌の収録がメインなんだからさ」

……このふたり、何故、会話ができているのだろう?

 アンジェの唇はほとんど、いや全く動いていない。つまり彼女が周囲のざわめきで掻き消されてしまうレベルの、異様に小さな声で喋っている可能性も無い。

(あ、もしかして)

 ロゼッタは魔力の波長を探る——かなり強い、風属性の魔力を感じた。
 それを感知すると同時、アンジェの声が、ロゼッタの頭にも入ってくる。

『相変わらずスタッフとの意思疎通が無理すぎて、自力で調整できなかった……その、時間的に大丈夫?』

「大丈夫。今日はある程度余裕ある。収録が終わってすぐに出れば、充分間に合うはずだから」

『……。ありがとう、ラズも忙しいのに……ごめんなさい』

 ロゼッタは、ただただ、困惑した。

(魔力の無駄遣いだ!! なんで喋らないの!?!?)

 彼らの会話が成立している理由は、アンジェ側だけ思念を飛ばしているからだった。そして残念すぎることにラザラスは恐らく、思念の受信はできても送信はできないらしい。
 その結果、『片方は黙って片方は喋る』という、客観的に見ると異常でしかない光景と化してしまっているのだ。

(何なの? この状きょ……ッ!?)

 ロゼッタは「意味が分からない」と困惑する。
 そんな時、ふと、ロゼッタはアンジェの”視線”に気づいた。

(えっ!?)

 波長を探ったことが、バレてしまったのだろうか。
 アンジェは、ロゼッタが隠れているラザラスの影をじっと見つめている。

「アンジェ? どうした?」

『その……なんか、“いた”気がして……』

(!?)

 この人、魔力量かなり多い人だ!
 手抜きしたらバレる!

 アンジェの能力に気づいたロゼッタは魔力の出力を上げ、自分の存在を強く隠蔽しにかかった。
 ここまでやれば、完全に気配を断つことができたらしい。アンジェは首を傾げている。

「え? どうした? 何かいるって?」

『ごめんなさい、気のせいかも。今日は人が多いから、意識が引っ張られてる気がする……』

「いやいや。だったら一応、周囲の警戒はしておこうかな」

 ロゼッタは、結論を出した。

(とりあえず、この人は喋らないのが基本なんだね)

 ラザラスとアンジェの姿しか見ていなかったロゼッタだが、とりあえず分かる範囲で周囲を見回した。確かに、人は多い。

 まさかとは思うが、アンジェは人混みにいると口で喋れなくなってしまう困った子なのだろうか……?

(え、でも何か、収録とか歌うとか言ってなかった?
 この子大丈夫? 死なない!?)

 恐らく、現在地は放送局だだってそしてアンジェは、高確率で歌手である。
 のど自慢大会か何かの出場者という可能性もあるが、どちらにせよ彼女、人前で歌うこととなる。

(そもそもラズさんは何しにきたの!?
 アンジェさんのマネージャーなの!?)

 ラザラスに関する謎もまた増えてしまった。
 部屋にあったものから音楽好きなのは分かっていたのだが、まさか音楽関係者だとは思わなかった。

 そもそも、これはつまりラザラスが奴隷解放運動と同時進行でマネージャー業(?)を回していることになる。ロゼッタでも『ありえない』と判断できる類の兼業が発生していた。

(そういえばラズさん、名前つけて貰う直前にどっか行ってたっけ……そっか、これやってたんだ……)

 ロゼッタがラザラスの過労死を全力で心配していると、彼はスマートフォンで時間を確認し、口を開く。

「そろそろ時間だな。行くか」

『ええ、そうね』

(いやいやいやいや、待って! これ大丈夫!? 
 ねえ、アンジェさん大丈夫!? 軽率に心臓発作とか起こさない!?!?)

 ラザラスの健康も心配だが、それ以上にロゼッタはアンジェの安否が気になって仕方がなかった。
 アンジェには存在を薄々認識されているようだが、確信されていないのならば大丈夫だろう。

 ラザラスがこのあと何をするのか、そしてアンジェが死なないかが気になって気になって仕方がないロゼッタは、当たり前のようにどこかへ向かうふたりに着いて行くのであった。
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