ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 ―今、あなたの後ろにいるの―

逢月 悠希

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第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』

16.司令官達の迷い-1

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「……そう、そんなことがあったのね」

 クロウに代わり、ティスルでの後処理を終えてきたヴェル——ヴェルシエラは、エスメライとルーシオからの報告を聞き、ため息を吐き出す。

 ラザラスとレヴィによる“ブライア拠点潜入作戦”。
 その計画は、完全に破綻していたわけではない。しかし、たったひとりの黄金眼によって全てがひっくり返されてしまった。

 たまたま現場にロゼッタが居なければ、彼女が危険を承知でラザラス達を助けるという選択を取ってくれなければ、ラザラスだけでなく、レヴィも一緒に大怪我を負っていた可能性が高い。

 さらにいえば、他の被害者達や、回収班レトリーバーに被害が出た可能性もある。“想定外”に全てを狂わされ、“想定外”に救われたという事実は——あまりにも、重い。

「しかし黄金眼おうごんがん、ねぇ……いるの分かってたのに言わなかった現場の判断ミスと、そもそもの情報収集ミスってところかしら? 
 まあ、ティスルの方はクロウちゃんじゃなきゃ処理しきれなかっただろうから、采配ミスではないだろうし……どうすることもできなかった部分は、あると思うわよ?」

 今回の件は、様々なミスが重なって発生したものだ。「ああしておけば」、「こうしていれば」と後悔しても、どうにもならない。

 特に強く責任を感じているルーシオに視線を向けつつ、ヴェルシエラはそれでも冷静に話し続ける。

「クロウちゃん任せにせず、アタシがさっさとティスルに行っておけば、増援が出せたから……ギリギリ、間に合ってたかしら?」

「そう、かもしれませんね……」

 ルーシオは俯いたまま、そう呟く。
 しかしヴェルシエラは、それでもラザラスの負傷は避けられなかったと判断していた。

「いえ……多分、それでも現場情報がない限りはクロウちゃんを追加で行かせる選択はしてなかったと思うわ。
 アタシたち全員、ブライアに関してはそこまで重い案件だと判断してなかったもの」

「……」

 エスメライ、ルーシオともに黙り込んでしまっている。
 このふたりは、司令塔としてはあまりにも甘すぎる——特にクロウに対する想いが強すぎるのだ……はっきり言ってしまえば、“致命的”なレベルで。
 噛みつかれるのは覚悟の上で、ヴェルシエラはそれを、その事実を2人に突きつける。

「仮に、クロウちゃんが居ても……アタシでも判断を間違えていた自信があるけれど、アナタたちは特にダメだったでしょうね。
 ラズちゃんの代わりに、クロウちゃんを犠牲にする選択。アナタたちには、できなかったはずよ」

 その発言に対し、反論の意思を見せたのはエスメライだ。

「そんな、言い方……! そもそも、ヴェルさんだって……!」

 そこまで言って、エスメライは黙り込む。
 しかし、彼女が何を言いたいのか、ヴェルシエラは分かっていた。

「そうね、否定はしないわ。アタシだって、ラズちゃんに対する想いが強いもの。情で行動していれば、アタシはクロウちゃんを切っていたはずよ」

 何かを言いたげではあったが、エスメライはその言葉を飲み込んだ。
 そして、改めて口を開く。

「……。そりゃ、ヴェルさんとラズは付き合いが長いんですから、当然ですよ。付き合い17年は長すぎますって……」

「ふふ、アタシの場合は、あの子の本当の両親……アークライト夫妻にラズちゃんを託されたってのも、大きいんだけどね」

 当時16歳だった自分に、この話が飛んできた時は本当に驚いた——ヴェルシエラは、当時のことを思いだす。

 当時のラザラスは、まだ残酷な世界を知らない6歳の少年だった。だからこそ本当は、こんな血生臭い世界のことなんて、知って欲しくなかった。

「……」

 どうしようもないことを考えてしまい、ヴェルシエラは静かに頭を振るう。

「だからこそ、今回ばかりはアナタ達の判断が正解だってことも分かってるわ。
 戦闘経験が2年程度しかない人間と、もうすぐ20年になろうかという人間。どちらかを潰さなければならないとすれば……切るなら、前者よ。それは間違いないわ」

「ヴェルさん……」

 申し訳なさそうに声を震わせるエスメライの頭に手を置きながら、ヴェルシエラは笑う。

「でも、アナタたちがクロウちゃんにやたらと甘いのは事実よ。そこだけは、旧ステフィリオンの元戦闘員としては、放っておけなかったの。だからちょっと、意地悪しちゃった。ごめんなさいね」

「……」

 とはいえ、この2人がやけにクロウに甘い理由はちゃんと分かっている。そうなってしまうのも「無理はない」と理解している。

(今のステフィリオンなら、クロウちゃんの件も、必然的にレヴィちゃんの件も。確実にどうにかできていたと思うのよね……それを含めて、でしょうからね)

 に起因する行動は、時として重くなりがちだ。ちゃんと、分かっている。

 だからこそ、“今の自分”の現状を、ヴェルシエラは誰よりも許せなかった。

「アタシが戦えるのが、一番なんだけどね。どれだけ鍛えてようが、魔術が使えないんじゃ、お話にならない……そういう意味でも、ごめんなさい」

 そういえば、エスメライはほんの少しだけ、声を震わせた。

「こちらこそ、すみません。あたしの技術じゃ……助けられなくて」

「あら? 相手がアナタじゃなくたって、現代の医療じゃどうにもならないし、
 そもそも、この国で再会した時点で手遅れよ。だから、一切恨んでいないわ」

 今まで黙って話を聞いていたルーシオが、静かに口を開く。

「ところで……ちょうど今、相談したいことができました」

 彼はたった今印刷したばかりの紙を机に並べ、ヴェルシエラとエスメライに語り掛けた。

「あなた方が旧ステフィリオンの構成員だからこそ、率直な意見を聞きたい……これ以上の、被害を出すわけにはいかないので」

 これでもかと落ち込んでいた先程までとは違い、ルーシオは強い意思のこもった銀の瞳を2人へと向けた。先に口を開いたのは、エスメライだ。

「そうは言われても、あたしは医療班所属だったし、しかも今となっちゃ、元一般人のあんたのが圧倒的に判断力あるんだけどねぇ……で? 話を聞こうか」

 茶化しつつも、エスメライは机の上の紙を一瞥する。
 それに続くような形で、ヴェルシエラも資料に目を落とした。
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