ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 ―今、あなたの後ろにいるの―

逢月 悠希

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第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』

21.剥き出しの鈍光-2

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(イラっとしちゃったけど……それを表に出したら、素直に受けてくれないかもだから……)

 この程度でそうなるとは思えないが、万が一にもクロウの機嫌を損ねるような真似をしてはいけない。この作戦を使うなら、事前に聞くべきことがあるからだ。
 内心では相当にモヤモヤしながらも、ロゼッタはクロウに言葉を投げかけた。

「それなら質問。黄金眼おうごんがんのギルバートさんって知ってる? あの人の総魔力量くらいは、一気に送っちゃっても大丈夫?」

 これはラザラスの家にあった本で学んだのだが、魔力を渡す際、受け手の本来の魔力量を超えてしまっても問題はないらしい。そのため、やろうと思えば送り手の魔力が尽きるまで、魔力譲渡を行うことができるそうだ。
 とはいえそれは“一時的”なもので、許容量を大きく上回る魔力をすぐに放出せず、身体にとどめておく行為は危険なのだという。

 つまり、譲渡された魔力を使ってすぐに術を発動させるならともかく、貯金のようにとどめておくことはできない——だからこそ、ロゼッタは初手で本命ではなく、魔術の代理発動案を提示したわけだが。拒まれてしまったため、もうこれに関しては諦める。

「ギルバートは話でしか聞いてないが、その解釈で問題ねぇな」
「りょうかーい」
「……お前に借りを作りっぱなしなのもどうかと思うし、オレも何かはするか」
(なんでそういう発想になるかな!?)

 ロゼッタが「何もいらない」と言うよりも先に、クロウが結論を出した。

「そうだな……甘える代わりにオレはアホほど使う『空間収納アーカイブ』以外は片っ端から詠唱するようにするかね。
 無詠唱でも不発させねぇ自信はあるが、詠唱した方が負担は減るし、見てるのがお前なら、それが何かの参考になるかもしれねぇし」
「え、良いの? ありがとう!」

……普通に魅力的な対価が提示されてしまった。いらないだなんて、言えなかった。

 クロウは闇属性の使い手だ。『感影センス』の時のように、便利な魔術が出てくるかもしれない。少し楽しみだ。
 しかし、ここまで話が進んでもまだ彼の表情は良くはない。晴れない、という表現が正しいかもしれない。

「……でもなぁ」

 じっと、クロウはロゼッタの顔を見つめている。

「エスメライさんから指示があって、ここに来てんのは分かってんだが。
 オレの戦い方はかなりグロく感じると思うぞ。間違いなくエグいぞ。大丈夫か?」

 クロウの得物は刃物だ。切断された肉があちらこちらに転がるだろうし、必然的に血飛沫も多くあがるだろう。
 確かに、体術を得意とするラザラスや頭を一発で撃ち抜いて対象を葬るレヴィと比べるとかなりグロテスクな現場になりそうだ。

「大丈夫。目、つぶってても良いとは言われたけど……そういうのも慣れときたいし」
「なら止めねぇぞ。酷いモン見て尻尾巻いて逃げてくれりゃ、オレとしては、それはそれでアリだからな」
「むぅ……魔力渡すって言ってんじゃん」
「魔力貰えんのはありがてぇが、現場で錯乱されても困るんでな。そういう現場になるのは確定してんだよ、逃げるなら早い段階で逃げとけ」

 相変わらず自分達からロゼッタを遠ざけたいのか、クロウが軽く煽ってくる。
 だが、直前で「大丈夫か?」と聞いてきている時点で、心配の意図が強いのは理解できる。

「……逃げないもん」
「はっ、そうかよ」

 反論はしても、嚙みつくことはしなかった——相変わらず、何故か妙に腹立たしく感じてしまうのだが。

(クロウに対してだけ、時々感じる苛立ち……コレ、一体何なんだろう? 
 意味分かんないし、早めに気づいておきたいんだけどな……今はほっとくけど)

 ロゼッタは首を横に振るい、クロウを見上げた。

「とりあえず、ね。“ルール”だから。隠れるから、後ろ向いといて? あ、ヴェルさんもお願いします」
「……」

 一時休戦とはいえ、かくれんぼ自体は続いている。
 何故か、続いてしまっている。

 ステフィリオンの人間に隠れ場所を見られると意味がなくなってしまうため、ロゼッタはクロウとヴェルシエラの身体を反対向きに回した。クロウが、困惑の感情を滲ませながら口を開く。

「なぁ……コレ、やる意味ホントにあんのか?」
「わたしも、正直思ってはいるけど……ルールだから……」

 かなりゆるゆるになっているし、今後もゆるゆるしそうだが——一応、ルールはルールだ。
 実際問題、年齢のせいなのかロゼッタは回収班レトリーバーにも追跡班ハウンズにも入れてもらえなさそうなので、見つかるわけにはいかない。スピネル王国行きは嫌だ。

 クロウの影に飛び込み、気配を完全に絶つ。
 出会うまでは懸念していたが、魔力量の差があるためだろうか。彼が居場所に気づいている気配はない。

(強いて言えば……不意打ちで変なのがきたら怪しい気がするけどね。場数じゃどう頑張っても勝てないし)

 そんなことを思いながら、ロゼッタは影の中からクロウに思念を飛ばす。

『近い場所まで『転移テレポート』で連れて行こうか?』

 その問いに対し、クロウは何とも言えない表情を浮かべた。

「助かるが……一旦、出てこい。至近距離で転移なんてもん使われたら、流石に魔力の動きで居場所が分かる。
 とにかく癖が強い魔術だからな。『黙影サイレンス』じゃどうにもなんねぇぞ」
『あっ、えっ……そうなの?』
「だから敵陣のど真ん中には飛ばねぇんだよ。着いた瞬間に探知されて、秒で殺されるからな」

 危ないところだった。クロウが正直に言ってくれなければ、色んな意味でいきなりゲームオーバーになるところだった。クロウとヴェルシエラの死角を選び、ロゼッタは姿を現す。

「つーわけで、少し離れた場所狙ってくれると助かる。レヴィとラザラスの任務に着いてってたんなら、イメージはできるか?」
「うん。大体この辺かなーっていうのはあるから……大丈夫」
「了解。んで、着いたら改めて隠れてくれ……ルール、だからな……」
「うん……」

……本当にゆるゆるだが、大丈夫だろうか?

 頭の片隅を占拠している余計な考えを拭い去り、ロゼッタは意識を高める。クロウの右手を掴み、術の名を呟いた。

「【転移】」

 この浮遊感にも、慣れてしまった。
 視界が白くなっていくのを感じながら、内心自分が緊張しているのを感じながら、ロゼッタはクロウと共に目的地へと飛んだ。
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