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第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』
21.剥き出しの鈍光-1
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拠点まで『転移』で移動したロゼッタは、準備を進めるクロウに視線を向けている。
今回は状況が状況のため、“かくれんぼ”は一時休戦だ。そのため、堂々と姿を現せる。その点については助かった。
(んー……器用そうではあるんだけど、やっぱり片腕だとできないこともあるんだなぁ)
クロウも基本はラザラスやレヴィと同じ黒装束なのだが、ところどころ同性のヴェルシエラが手伝っている。
具体的に言うと、細かいベルトや靴紐の処理だ。恐らくそこ以外は『念動』か何かでどうにかしているのだろう。
普段着は片腕でも着られるものを選んでいるようだが、ドラグゼンの拠点に行く際はそうはいかないらしい。確かに、風に靡くようなデザインの服は潜入任務には邪魔だろう。
(ルーシオさんはレヴィさんと一緒に出たって聞いたし、クロウ側の指揮はヴェルさん……なのかな? エスラさんは医療器具の確認しに行ったしね)
色々考えているうちに、準備を終わったようだ。
クロウがヴェルシエラに対して「すみません」と呟く声が聞こえてきた。
「良いの良いの。今回はルーシオちゃんに変わって、アタシが司令塔やるからね。よろしく頼むわよ?」
「はい。任せてください」
(あ、やっぱりヴェルさんが指揮取るのか……って、あれで準備終わりなの? 大丈夫?)
動きやすさを追求しているのか、クロウはラザラスやレヴィの服と比べると腕の露出部分が多い。具体的に言うと、防具の類が一切ないし、武器の類を持っていない——ロゼッタは、心配になってしまった。
「ね、ねぇ、クロウ……武器は?」
この軽装と細身でラザラスと同じ“武器は己の肉体”スタイルだったらどうしよう。
どこか不安げなロゼッタの質問に答えるために、クロウは『空間収納』を使用し、中から片刃剣を取り出した。
「わっ! 刃物!」
ギラリ、と鈍く光るそれを見て、ロゼッタは声を上げる。説明を終え、クロウはそれを空間収納の中に戻す。
「レヴィが銃火器系なら何でもいけるように、オレも刃物系なら大体いける。だから、空間収納の中に相当数の刃物放り込んでるよ。
まあ、刃物以外に使ってるモンもあるし、空間収納封じられた時対策で腰に投げナイフも仕込んでるがな」
「そっか……で、防具の類は?」
「むしろ邪魔だ。背後を取られない限り、ナイフか何かで受け流すんで十分だ」
(どう考えてもラズさんと同じ、前に出ていくスタイルなのに!?)
……と思いはしたが、彼が良いならそれで大丈夫なのだろう。
(クロウは闇属性が得意らしいし、奇襲型なのかも。うーん、攻撃が最大の防御って感じかな……。
それなら確かに、ゴテゴテしたものは邪魔になる、か……)
そもそもクロウはラザラスとは異なり、使える魔術の幅が多い。それで補える部分も多いのだろう。
とはいえ本格的に動きやすさ以外は一切追求していないようで、顔すら隠していないし、何なら欠落した左腕は断面に包帯を巻いているだけでほぼ剥き出しだ。
もはや目立つことこの上ない。本当に大丈夫なのだろうか?
(あ、そっか)
そういえば、クロウは光属性だけは使えないと言っていた。諸々を隠さないのはそのせいなのかもしれない。そう思ったロゼッタは、準備を終えたばかりの彼に話し掛ける。
「ねぇ、クロウ。わたし、光属性行けるよ? 『幻貌』かけようか?」
「いらねぇ。色々剥き出しにしてんのはわざとだ、気にすんな」
レヴィが「隠す気がない」と言っていた意味を理解した。どうやら、彼女を気遣って断っているわけではないらしい。あえて目立つことで、敵を引きつける意図があるのかもしれない。
『おーい』
それはそれで心配だと考えていると、急に“思念”が送られてきた。頭の中に、クロウの声が響く。
『お前は風属性も行けるんだろ? 『精神感応』は行けんのか?』
行けんのか? と聞かれたが、それはこちらの台詞だ。初めて、誰かから思念が飛んできた。
少し嬉しくなったロゼッタは、すぐに反応を返してみせる。
『うん、行けるよ』
『よし、問題ねぇな。オレの言葉もきっちり聞こえてるみたいだしな』
『そうだね。その、とにかく一方的に送るのには、慣れてるんだけどね』
『あー、そうか、そうだよな。ラザラスは風属性の素質があるだけだもんな……』
『うん……』
……油断するとラザラスの死体蹴りが発生する状況、本当に良くないと思う。
クロウはロゼッタが術を使えるかどうかのテストがしたかっただけのようで、その後は精神感応を使わずに話し始めた。
「普通に使えるなら話は早ぇな。お前は基本的にコレで話し掛けてこい。オレは状況によって使い分ける。面倒になったら普通に話し掛けっから」
「……とかなんとか言いつつ、魔力の節約したいだけなんじゃないの?」
精神感応は中級魔術だ。アンジェリアは当たり前のように連発していたが、実はそれなりに魔力を消費する術である。相手が離れれば離れるほど消費量が多くなるようだが、だからと言って「至近距離なら大丈夫」という問題ではないだろう。
そこを指摘すると、クロウはバツが悪そうに目を逸らしてしまった。
「まー、否定はできねぇな」
「やっぱり」
クロウは常に何かしらの魔術を発動しているようなのだが、その痕跡を綺麗に隠してしまう。そのため相手に「魔力量が少ない」と誤解させてくる変な存在なのだが——今日は前に会った時以上に“総魔力量詐欺”が発生しており、あまり魔力を持っていない一般的な人間のように見える。
具体的に言えば、適当に『転移』を使えば1発でひっくり返ってしまいそうな状態だ。
(良くないと思うんだよね……)
そもそもロゼッタは、クロウの総魔力量を知らない。レヴィより上、という話ではあったが、どう足掻いてもそうだとは思えない状況なのだ。
(眼鏡してない時は『視力強化』は強めに掛けてるって言ってたし、状況的に『筋力強化』と『耐久強化』、術の痕跡を隠す『黙影』は使ってそうだけど……やっぱり、間違いなくそれ以外も掛けてるんだよね)
これでは、転移に限らず他の魔術もろくに使えないだろう。本当に総魔力量が多いのであれば、それは勿体ない。
(……たぶん、まともな返事はもらえないけど)
クロウの目を覗き込み、ロゼッタは口を開く。
「相変わらず隠してるみたいだけど……使ってる魔術、全部教えてよ。そしたらわたし、代わりに掛けるから」
そう言えば、クロウは少し心が揺れ動いたかのような表情を見せた。
だが、彼はすぐに目線を逸らして自分自身に言い聞かせるように吐き捨てる。
「っ、だから、黙秘だって言ってんだろ。そもそも、オレはその場その場で術の強さを調整しまくりながら使ってんだ。他人任せじゃ戦えねぇよ」
(うわ……思ってたよりヤバい反応された……)
——本当に、一体“何”に魔力を使っているのだろう。
(やっぱり気にはなるし、本格的にサポートするなら正確な情報を知っといた方が良いとは思うんだけど……)
ロゼッタが魔力量で上を取れているのは確定なだけに、やろうと思えば『透識』を強めに使えば見抜けそうだとは思う……が、やめておく。
こういうことは不必要に踏み込むものではないという判断は変わらないが、今回ばかりは放置もできない。役割のこともあるし、今のあからさまな反応は深刻すぎる。
だからこそ、ロゼッタは代案と言う名の本命を出すことにした。
「ふーん? なら『魔力譲渡』を裏でバンバン飛ばすから。それなら良いでしょ?」
そもそも、エスメライからの依頼が入った最大の理由であり、むしろ唯一とも言える理由がこれだ。恐らく、彼女も最初から『クロウがロゼッタが最初に提示した案を受け入れる』とは思っていなかったことだろう。
「え……」
そしてどうやらエスメライはロゼッタを呼んだ意図をクロウに伝えていなかったようで、彼は少し驚いた様子を見せた。
「それは……普通に、助かる」
「むしろわたし、これくらいしかできないし」
「……、十分だよ」
(そういう反応するなら! もう少し! 素直に! 頼ってよ!!)
……ちょっと、イラっとしてしまった。
今回は状況が状況のため、“かくれんぼ”は一時休戦だ。そのため、堂々と姿を現せる。その点については助かった。
(んー……器用そうではあるんだけど、やっぱり片腕だとできないこともあるんだなぁ)
クロウも基本はラザラスやレヴィと同じ黒装束なのだが、ところどころ同性のヴェルシエラが手伝っている。
具体的に言うと、細かいベルトや靴紐の処理だ。恐らくそこ以外は『念動』か何かでどうにかしているのだろう。
普段着は片腕でも着られるものを選んでいるようだが、ドラグゼンの拠点に行く際はそうはいかないらしい。確かに、風に靡くようなデザインの服は潜入任務には邪魔だろう。
(ルーシオさんはレヴィさんと一緒に出たって聞いたし、クロウ側の指揮はヴェルさん……なのかな? エスラさんは医療器具の確認しに行ったしね)
色々考えているうちに、準備を終わったようだ。
クロウがヴェルシエラに対して「すみません」と呟く声が聞こえてきた。
「良いの良いの。今回はルーシオちゃんに変わって、アタシが司令塔やるからね。よろしく頼むわよ?」
「はい。任せてください」
(あ、やっぱりヴェルさんが指揮取るのか……って、あれで準備終わりなの? 大丈夫?)
動きやすさを追求しているのか、クロウはラザラスやレヴィの服と比べると腕の露出部分が多い。具体的に言うと、防具の類が一切ないし、武器の類を持っていない——ロゼッタは、心配になってしまった。
「ね、ねぇ、クロウ……武器は?」
この軽装と細身でラザラスと同じ“武器は己の肉体”スタイルだったらどうしよう。
どこか不安げなロゼッタの質問に答えるために、クロウは『空間収納』を使用し、中から片刃剣を取り出した。
「わっ! 刃物!」
ギラリ、と鈍く光るそれを見て、ロゼッタは声を上げる。説明を終え、クロウはそれを空間収納の中に戻す。
「レヴィが銃火器系なら何でもいけるように、オレも刃物系なら大体いける。だから、空間収納の中に相当数の刃物放り込んでるよ。
まあ、刃物以外に使ってるモンもあるし、空間収納封じられた時対策で腰に投げナイフも仕込んでるがな」
「そっか……で、防具の類は?」
「むしろ邪魔だ。背後を取られない限り、ナイフか何かで受け流すんで十分だ」
(どう考えてもラズさんと同じ、前に出ていくスタイルなのに!?)
……と思いはしたが、彼が良いならそれで大丈夫なのだろう。
(クロウは闇属性が得意らしいし、奇襲型なのかも。うーん、攻撃が最大の防御って感じかな……。
それなら確かに、ゴテゴテしたものは邪魔になる、か……)
そもそもクロウはラザラスとは異なり、使える魔術の幅が多い。それで補える部分も多いのだろう。
とはいえ本格的に動きやすさ以外は一切追求していないようで、顔すら隠していないし、何なら欠落した左腕は断面に包帯を巻いているだけでほぼ剥き出しだ。
もはや目立つことこの上ない。本当に大丈夫なのだろうか?
(あ、そっか)
そういえば、クロウは光属性だけは使えないと言っていた。諸々を隠さないのはそのせいなのかもしれない。そう思ったロゼッタは、準備を終えたばかりの彼に話し掛ける。
「ねぇ、クロウ。わたし、光属性行けるよ? 『幻貌』かけようか?」
「いらねぇ。色々剥き出しにしてんのはわざとだ、気にすんな」
レヴィが「隠す気がない」と言っていた意味を理解した。どうやら、彼女を気遣って断っているわけではないらしい。あえて目立つことで、敵を引きつける意図があるのかもしれない。
『おーい』
それはそれで心配だと考えていると、急に“思念”が送られてきた。頭の中に、クロウの声が響く。
『お前は風属性も行けるんだろ? 『精神感応』は行けんのか?』
行けんのか? と聞かれたが、それはこちらの台詞だ。初めて、誰かから思念が飛んできた。
少し嬉しくなったロゼッタは、すぐに反応を返してみせる。
『うん、行けるよ』
『よし、問題ねぇな。オレの言葉もきっちり聞こえてるみたいだしな』
『そうだね。その、とにかく一方的に送るのには、慣れてるんだけどね』
『あー、そうか、そうだよな。ラザラスは風属性の素質があるだけだもんな……』
『うん……』
……油断するとラザラスの死体蹴りが発生する状況、本当に良くないと思う。
クロウはロゼッタが術を使えるかどうかのテストがしたかっただけのようで、その後は精神感応を使わずに話し始めた。
「普通に使えるなら話は早ぇな。お前は基本的にコレで話し掛けてこい。オレは状況によって使い分ける。面倒になったら普通に話し掛けっから」
「……とかなんとか言いつつ、魔力の節約したいだけなんじゃないの?」
精神感応は中級魔術だ。アンジェリアは当たり前のように連発していたが、実はそれなりに魔力を消費する術である。相手が離れれば離れるほど消費量が多くなるようだが、だからと言って「至近距離なら大丈夫」という問題ではないだろう。
そこを指摘すると、クロウはバツが悪そうに目を逸らしてしまった。
「まー、否定はできねぇな」
「やっぱり」
クロウは常に何かしらの魔術を発動しているようなのだが、その痕跡を綺麗に隠してしまう。そのため相手に「魔力量が少ない」と誤解させてくる変な存在なのだが——今日は前に会った時以上に“総魔力量詐欺”が発生しており、あまり魔力を持っていない一般的な人間のように見える。
具体的に言えば、適当に『転移』を使えば1発でひっくり返ってしまいそうな状態だ。
(良くないと思うんだよね……)
そもそもロゼッタは、クロウの総魔力量を知らない。レヴィより上、という話ではあったが、どう足掻いてもそうだとは思えない状況なのだ。
(眼鏡してない時は『視力強化』は強めに掛けてるって言ってたし、状況的に『筋力強化』と『耐久強化』、術の痕跡を隠す『黙影』は使ってそうだけど……やっぱり、間違いなくそれ以外も掛けてるんだよね)
これでは、転移に限らず他の魔術もろくに使えないだろう。本当に総魔力量が多いのであれば、それは勿体ない。
(……たぶん、まともな返事はもらえないけど)
クロウの目を覗き込み、ロゼッタは口を開く。
「相変わらず隠してるみたいだけど……使ってる魔術、全部教えてよ。そしたらわたし、代わりに掛けるから」
そう言えば、クロウは少し心が揺れ動いたかのような表情を見せた。
だが、彼はすぐに目線を逸らして自分自身に言い聞かせるように吐き捨てる。
「っ、だから、黙秘だって言ってんだろ。そもそも、オレはその場その場で術の強さを調整しまくりながら使ってんだ。他人任せじゃ戦えねぇよ」
(うわ……思ってたよりヤバい反応された……)
——本当に、一体“何”に魔力を使っているのだろう。
(やっぱり気にはなるし、本格的にサポートするなら正確な情報を知っといた方が良いとは思うんだけど……)
ロゼッタが魔力量で上を取れているのは確定なだけに、やろうと思えば『透識』を強めに使えば見抜けそうだとは思う……が、やめておく。
こういうことは不必要に踏み込むものではないという判断は変わらないが、今回ばかりは放置もできない。役割のこともあるし、今のあからさまな反応は深刻すぎる。
だからこそ、ロゼッタは代案と言う名の本命を出すことにした。
「ふーん? なら『魔力譲渡』を裏でバンバン飛ばすから。それなら良いでしょ?」
そもそも、エスメライからの依頼が入った最大の理由であり、むしろ唯一とも言える理由がこれだ。恐らく、彼女も最初から『クロウがロゼッタが最初に提示した案を受け入れる』とは思っていなかったことだろう。
「え……」
そしてどうやらエスメライはロゼッタを呼んだ意図をクロウに伝えていなかったようで、彼は少し驚いた様子を見せた。
「それは……普通に、助かる」
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