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第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』
20.埃被ったもの-2
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電話の向こうで、カサカサと紙が動く音がした。エスメライが計画書か何かを開いたのだろう。
ロゼッタとラザラスは、彼女の言葉を待った。
『ロゼッタに潜入任務の補助を頼みたい。場所は“サイプレス”っていう飛行場がある街だ。
拠点からは割と近いんだが、場所が場所だからか、規模が大きいんだよね。
飛行場エリアからちょっと距離を取った場所に拠点があるみたいだ』
「サイプレス、か……」
話を聞きながら、ラザラスは机にから1枚の地図を取り出し、床に広げて見せてくれた。
「話を切ってすみません。ちょっと、ロゼッタに軽く補足を入れます」
『ああ、分かった。頼むよ』
ロゼッタは地図が見えるようにとこっそり影から上半身を出し、覗き込む。
広げてあったのは、グランディディエ連邦の地図だ。
「んー……流石に目が見えない状態だと細かいところまでは分からないんだよな。開いた地図、グランディディエの地図で合ってるか?」
『はい! 合ってますよ!』
「良かった。というわけで、ある程度は脳内補完して欲しいんだけど……
今、俺たちがいるのが“フェンネル州”。この場所は“セージ”って名前で、喫茶店があるのが州都で国の首都でもある“フェンネル”だ」
ロゼッタは文字や地図の中身までは見えてなさそうなラザラスを補佐する形で、『識読』を使用しつつ、彼の手を取る。
『えっと……とりあえず、首都のフェンネルに指、合わせますね』
「ああ、助かるよ。この後は勘にはなるけど、上手く指滑らせてみる」
フェンネル。名前だけは度々聞いていた場所だが、まさか首都だったとは。
街の発展状況を考えれば、州都と首都が兼ねているのも納得できる。やはりあの拠点、とんでもなく立地が良いらしい。
地図を見たところ、フェンネル州はグランディディエの中央付近に位置しており、かなり規模が大きい。首都フェンネルは州のちょうど真ん中で、多数の街に囲まれるような形で立地している。現在地であるセージは、そのうちのひとつだ。
「……で、サイプレスは大体この辺、だな」
ラザラスは指をスライドさせ、トントンと叩いて場所を示す。一応フェンネル州の中に含まれるようだが、かなり端の方だ。山が近い。
「この時点で確認。合ってる?」
『合ってます合ってます。すごいですね!』
「昔はよく見てたからな、役に立って良かったよ」
それは、かつてラザラスが高等研究院で行っていた研究に起因するものだろうか?
少し切なくなりつつも、ロゼッタはラザラスの言葉を待った。
「飛行場からは少し離れてるって話だから、この辺、山の中にあるんじゃないかなって思ってる。あそこなら倉庫も多いし、ガッツリ偽装できそうだ」
正解だ、と電話口からエスメライの声がした。
『そう、山ん中の倉庫群に紛れてんだ。ブライアの件を思い出してもらえれば、分かりやすいと思う』
(ああ……あれも倉庫のフリしてたもんね)
新しく作れば、怪しまれる。
恐らく前回も今回も元々ある倉庫設備を秘密裏に改造し、そこに亜人を隠しているのだろう。嫌な話だ、とロゼッタは影の中で目を細めた。
『貨物保管庫に偽装しているが、どうも、今は他国から連れてきた商品の一時保管庫になってるみたいでさ。
種族が入り乱れてることが想定されるから、ちょっとでも万全を期したいんだ。でもラズの回復待ちしてる余裕は無さそうな上に、また単独任務になりそうなんだ』
「すみません……」
『責めてるわけじゃないから、謝んないで。立て続けに動き回ってるあいつらが悪い』
どうやら相当に重要で危険度が高い案件だというのに、クロウかレヴィのどちらかしか現場に向かわせられないようだ。そのフォローをロゼッタにして欲しい、というのがエスメライの要望らしい。
事情を理解したロゼッタは、迷わずラザラスに思念を送る。
『構いませんよ。何ができるか分かりませんし、魔力送るくらいしかできないかもですが、それでも良ければ……そう、伝えて貰えますか?』
「分かった」
ロゼッタの意思を、ラザラスはそっくりそのままエスメライに伝えてくれた。
しかし、彼自身は少々不安そうだ。『感影』が切れることを気にしているのかもしれない。
『ラズさん、大丈夫です。魔術は掛けたまま行きますから!』
「そういう訳じゃないんだけど……まあ、止めても行くんだろ? 気をつけてくれよ」
『勿論です!』
とはいえ、ロゼッタの仕事は後方支援だ。
危険度はかなり低い。
(わたしはどっちに着いて行くんだろ?)
別に相方がどちらでもやるべきことをやるだけなのだが、少し気になる。
同じように、ロゼッタの相方が気になったのだろう。ラザラスは電話口の向こうにいるエスメライに問いかけた。
「サイプレス行きって、どっちですか? ロゼッタのフォローが必要なら、レヴィでしょうか? クロウさんは単独任務慣れしてますし……」
(いや、たぶんクロウの方だと思うんだけど。あの人、重要案件ばっか任されまくってる感じだし……)
ラザラスとロゼッタの見解が分かれた。どちらが答えだろう。
2人は揃ってエスメライの反応を待つ。
『ん? レヴィはクロウが暴れてる間に別のとこでルーシオと一緒に情報抜きまくる役割があるから、ロゼッタつけるのはクロウの方だね』
その言葉を聞いて、ラザラスはほんの少し苛立った様子で口を開いた。
「……嫌なんですけど」
『嫌なんですけど!?!?』
(嫌なんですけど!?!?)
エスメライが叫ぶと同時、ロゼッタも全く同じことを考えた。
ロゼッタの予想は当たったが、ラザラスの反応が完全に予想外だった。
『……? んえぇ……?』
電話の向こうでエスメライが盛大に困惑している。言葉にならない声が漏れている。
まさかラザラスに拒否されるとは思わなかったのかもしれない。
エスメライもだが、ロゼッタも困惑していた。一体どうしたのだろう——固まっていると、ふいにラザラスが慌てて話し出した。
「っ!? す、すみません! なんでもないです!」
『お、おー……? なら、良いんだけどさ……あんた、意味の分からない反論はして来ないから、流石に驚いたよ』
ラザラスの声を聞き、エスメライも落ち着いたらしい。
『というわけで、ロゼッタ。クロウなら基本的に戦闘面ではしくじらないとは思うんだけどさ、また暴れる黄金眼とか出てきたら、まあまあやばいんだ。だから、助けて欲しい』
(分かりました!)
頭で考えるだけではエスメライには聞こえないのだが、ラザラスの突然の反抗期が気になりすぎて彼を経由する気になれなかった。
エスメライは時間を伝えた後、「よろしく頼むよ」と口にして電話を切った。
『ら、ラズさん……?』
「何も聞かないでくれ、俺自身もなんであんなこと言ったのか、分かってない……」
どうやら反射的に口に出してしまったようで、ラザラス本人すら困惑している。彼はベッドに腰掛け、右手でこめかみを押さえて口を閉ざしてしまった。
(まあ、うっかり本音が出ちゃうことってあるよね。やっぱり、不安なのかなぁ)
任務中は拠点に居てもらうべきだろうか?
……そんなことを考えていると、少しだけ時間が流れていた。
時計をチラリと一瞥し、ラザラスは口を開く。
「クロウさん案件なら、返り血で服が派手に汚れちゃうかもしれないからな……アンジェに頼んで、なんか買ってきてもらうか」
『えっ、いきなりそれは不審がられませんかね!?』
「まー、大丈夫だろ。たぶん」
そう言ってラザラスはアンジェリアに電話をする——この考え無しの電話のせいで、絶賛ネット掲示板で助けを求めていた彼女はネット民ごと大混乱に陥ることとなった。
その後、ネット民に背を押され、勇気を出した彼女が再びラザラスとロゼッタの前に現れるのは、数十分後の話である。
ロゼッタとラザラスは、彼女の言葉を待った。
『ロゼッタに潜入任務の補助を頼みたい。場所は“サイプレス”っていう飛行場がある街だ。
拠点からは割と近いんだが、場所が場所だからか、規模が大きいんだよね。
飛行場エリアからちょっと距離を取った場所に拠点があるみたいだ』
「サイプレス、か……」
話を聞きながら、ラザラスは机にから1枚の地図を取り出し、床に広げて見せてくれた。
「話を切ってすみません。ちょっと、ロゼッタに軽く補足を入れます」
『ああ、分かった。頼むよ』
ロゼッタは地図が見えるようにとこっそり影から上半身を出し、覗き込む。
広げてあったのは、グランディディエ連邦の地図だ。
「んー……流石に目が見えない状態だと細かいところまでは分からないんだよな。開いた地図、グランディディエの地図で合ってるか?」
『はい! 合ってますよ!』
「良かった。というわけで、ある程度は脳内補完して欲しいんだけど……
今、俺たちがいるのが“フェンネル州”。この場所は“セージ”って名前で、喫茶店があるのが州都で国の首都でもある“フェンネル”だ」
ロゼッタは文字や地図の中身までは見えてなさそうなラザラスを補佐する形で、『識読』を使用しつつ、彼の手を取る。
『えっと……とりあえず、首都のフェンネルに指、合わせますね』
「ああ、助かるよ。この後は勘にはなるけど、上手く指滑らせてみる」
フェンネル。名前だけは度々聞いていた場所だが、まさか首都だったとは。
街の発展状況を考えれば、州都と首都が兼ねているのも納得できる。やはりあの拠点、とんでもなく立地が良いらしい。
地図を見たところ、フェンネル州はグランディディエの中央付近に位置しており、かなり規模が大きい。首都フェンネルは州のちょうど真ん中で、多数の街に囲まれるような形で立地している。現在地であるセージは、そのうちのひとつだ。
「……で、サイプレスは大体この辺、だな」
ラザラスは指をスライドさせ、トントンと叩いて場所を示す。一応フェンネル州の中に含まれるようだが、かなり端の方だ。山が近い。
「この時点で確認。合ってる?」
『合ってます合ってます。すごいですね!』
「昔はよく見てたからな、役に立って良かったよ」
それは、かつてラザラスが高等研究院で行っていた研究に起因するものだろうか?
少し切なくなりつつも、ロゼッタはラザラスの言葉を待った。
「飛行場からは少し離れてるって話だから、この辺、山の中にあるんじゃないかなって思ってる。あそこなら倉庫も多いし、ガッツリ偽装できそうだ」
正解だ、と電話口からエスメライの声がした。
『そう、山ん中の倉庫群に紛れてんだ。ブライアの件を思い出してもらえれば、分かりやすいと思う』
(ああ……あれも倉庫のフリしてたもんね)
新しく作れば、怪しまれる。
恐らく前回も今回も元々ある倉庫設備を秘密裏に改造し、そこに亜人を隠しているのだろう。嫌な話だ、とロゼッタは影の中で目を細めた。
『貨物保管庫に偽装しているが、どうも、今は他国から連れてきた商品の一時保管庫になってるみたいでさ。
種族が入り乱れてることが想定されるから、ちょっとでも万全を期したいんだ。でもラズの回復待ちしてる余裕は無さそうな上に、また単独任務になりそうなんだ』
「すみません……」
『責めてるわけじゃないから、謝んないで。立て続けに動き回ってるあいつらが悪い』
どうやら相当に重要で危険度が高い案件だというのに、クロウかレヴィのどちらかしか現場に向かわせられないようだ。そのフォローをロゼッタにして欲しい、というのがエスメライの要望らしい。
事情を理解したロゼッタは、迷わずラザラスに思念を送る。
『構いませんよ。何ができるか分かりませんし、魔力送るくらいしかできないかもですが、それでも良ければ……そう、伝えて貰えますか?』
「分かった」
ロゼッタの意思を、ラザラスはそっくりそのままエスメライに伝えてくれた。
しかし、彼自身は少々不安そうだ。『感影』が切れることを気にしているのかもしれない。
『ラズさん、大丈夫です。魔術は掛けたまま行きますから!』
「そういう訳じゃないんだけど……まあ、止めても行くんだろ? 気をつけてくれよ」
『勿論です!』
とはいえ、ロゼッタの仕事は後方支援だ。
危険度はかなり低い。
(わたしはどっちに着いて行くんだろ?)
別に相方がどちらでもやるべきことをやるだけなのだが、少し気になる。
同じように、ロゼッタの相方が気になったのだろう。ラザラスは電話口の向こうにいるエスメライに問いかけた。
「サイプレス行きって、どっちですか? ロゼッタのフォローが必要なら、レヴィでしょうか? クロウさんは単独任務慣れしてますし……」
(いや、たぶんクロウの方だと思うんだけど。あの人、重要案件ばっか任されまくってる感じだし……)
ラザラスとロゼッタの見解が分かれた。どちらが答えだろう。
2人は揃ってエスメライの反応を待つ。
『ん? レヴィはクロウが暴れてる間に別のとこでルーシオと一緒に情報抜きまくる役割があるから、ロゼッタつけるのはクロウの方だね』
その言葉を聞いて、ラザラスはほんの少し苛立った様子で口を開いた。
「……嫌なんですけど」
『嫌なんですけど!?!?』
(嫌なんですけど!?!?)
エスメライが叫ぶと同時、ロゼッタも全く同じことを考えた。
ロゼッタの予想は当たったが、ラザラスの反応が完全に予想外だった。
『……? んえぇ……?』
電話の向こうでエスメライが盛大に困惑している。言葉にならない声が漏れている。
まさかラザラスに拒否されるとは思わなかったのかもしれない。
エスメライもだが、ロゼッタも困惑していた。一体どうしたのだろう——固まっていると、ふいにラザラスが慌てて話し出した。
「っ!? す、すみません! なんでもないです!」
『お、おー……? なら、良いんだけどさ……あんた、意味の分からない反論はして来ないから、流石に驚いたよ』
ラザラスの声を聞き、エスメライも落ち着いたらしい。
『というわけで、ロゼッタ。クロウなら基本的に戦闘面ではしくじらないとは思うんだけどさ、また暴れる黄金眼とか出てきたら、まあまあやばいんだ。だから、助けて欲しい』
(分かりました!)
頭で考えるだけではエスメライには聞こえないのだが、ラザラスの突然の反抗期が気になりすぎて彼を経由する気になれなかった。
エスメライは時間を伝えた後、「よろしく頼むよ」と口にして電話を切った。
『ら、ラズさん……?』
「何も聞かないでくれ、俺自身もなんであんなこと言ったのか、分かってない……」
どうやら反射的に口に出してしまったようで、ラザラス本人すら困惑している。彼はベッドに腰掛け、右手でこめかみを押さえて口を閉ざしてしまった。
(まあ、うっかり本音が出ちゃうことってあるよね。やっぱり、不安なのかなぁ)
任務中は拠点に居てもらうべきだろうか?
……そんなことを考えていると、少しだけ時間が流れていた。
時計をチラリと一瞥し、ラザラスは口を開く。
「クロウさん案件なら、返り血で服が派手に汚れちゃうかもしれないからな……アンジェに頼んで、なんか買ってきてもらうか」
『えっ、いきなりそれは不審がられませんかね!?』
「まー、大丈夫だろ。たぶん」
そう言ってラザラスはアンジェリアに電話をする——この考え無しの電話のせいで、絶賛ネット掲示板で助けを求めていた彼女はネット民ごと大混乱に陥ることとなった。
その後、ネット民に背を押され、勇気を出した彼女が再びラザラスとロゼッタの前に現れるのは、数十分後の話である。
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