ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様 ―今、あなたの後ろにいるの―

逢月 悠希

文字の大きさ
83 / 83
第2章『黙した傷の在処、語らぬ想い』

45.春の波長-2

しおりを挟む
「はぁ……」

 扉の向こうに現れた人物。
 その顔を見て、クロウは盛大にため息を吐く。

「おい、ラザラス。人の部屋のドア壊す気か。下手すりゃロゼッタ挟んでたぞ。
 もっと丁寧に開けろ。そもそもノックくらいしろ」

「あ……すみません……」

 ラザラスが来たらしい。間一髪だった。

(危なかった……ラズさんがあと5分早くきてたら、術使っているとこ見られてた……)

 そんなことを思いながら、ロゼッタはラザラスに駆け寄る。

「大丈夫でしたか?」

「あ、ああ……問題無いってさ」

 ラザラスは逡巡しつつ、少し視線を逸らして口を開く。

「なあ、ロゼ。クロウさんと何の話してたんだ?」

(わっ、どうしよう……!)

 体魄強化オルガノスのことは言えない。ロゼッタが答えを探していると、クロウが助け舟を出した。

「魔力の波長ってあるだろ? アレはどんな形で決まるのかって話だよ。ほら、オレの魔力の波長とか意味わかんねーだろ? なんでそういうのが発生すんのかって話だ」

(嘘混じりではあるけど、完全な嘘じゃない……! ありがとう……!)

 経過時間を考えた上で、嘘を入れたのだろう。
 彼の発言に、違和感はない。

 ラザラスもどこか安堵した様子だった。

「あ、あぁ……なるほど……」

「で? ラザラス。ロゼッタが自分の波長はどんなんだろって気にしてたぞ。教えてやったらどうだ?」

「えっ!?」

 ラザラスは少し考え込み、口を開く。

「そうだな、満開の花畑って感じか? 季節で例えるなら、間違いなく春だと思う」

「なるほど……! 柔らかい感じだったら良いなーって実は思ってたんです。
 良かった……ありがとうございます!」

 ラザラスの言葉は、クロウの言葉と似ていた。
 どうやら『穏やかで柔らかい波長』というのは本当らしい。

 クロウやレヴィは被害者救助に念動テレキネシスを使っていたが、これなら同じことをしても大丈夫だろう。

(クロウは誰でも落ち着く感じとも言ってたしね。その手の配慮は必要無さそう)

 今後、彼らの仕事を手伝う機会があれば活かせそうだな、とロゼッタは考える。
 そうしていると、ラザラスは少し微笑みながら口を開いた。

「ちなみに魔力の波長は教えた人間とか、近くにいる人間の影響って話もよく聞くけど、俺は本質部分の影響も強いと思ってるよ。だから、ロゼの波長は君自身の本質なんじゃないかな」

「本質部分……」

 確かに、ロゼッタに魔力の使い方を教えた人間は固定されてはなかったし、彼らの魔力の波長については全くと言い切って良いほどに覚えていない。

 つまり、ロゼッタは誰の影響を受けていない可能性が高い。影響されようがないのだ。

「……えへへ、ちょっと嬉しいですね」

 少なくとも、波長が“虚無”でも“痛みを伴うもの”でもなかったことには安堵したところで、ロゼッタはクロウを見る。

「ほ、本質……」

「こっち見んな」

 目を逸らされてしまった。

(でも、クロウの場合は親の影響もありそうだけどね……ちょっと、羨ましいな)

 何しろ、彼は絶対に非魔術師に生まれてはいけない体質の人間だ。
 7歳で死に別れるまでの間に、彼の両親はこれでもかと息子に魔術を教え込んでいた可能性が高い。

 クロウの魔術能力は彼自身の血の滲むような努力の結果であり、彼の両親による愛情の現れだとも言えるだろう。

(だからこそ、クロウは実の両親の存在を忘れさせられてたこと知った時、事実を知った時……すごく苦しんだんだろうけど……)

 そんなことを考えていると、クロウは心底呆れ返った様子でラザラスに向き直っていた。

「あんな、ラザラス。別にロゼッタ取らねぇよ。いつの間にやら“ロゼ”って呼び始めてっけど、そんな牽制しなくとも別に取らねぇから」

 言われて、気づく。
 そういえば、悪夢事件の辺りからロゼッタではなくロゼと呼ばれている気がする。

 内心ちょっと嬉しくなり、ラザラスの顔を見上げたが、彼はクロウの指摘を受けて、明らかに動揺している。
 あまり見てはいけない気がして、ロゼッタは視線を逸らした。

(まあ、確かにクロウからしてみれば、わたしって便利だもんね。ラズさんからしてみたら、取られるって思うのも当然かも。
……別に離れてても、魔術掛けっぱなしにできるんだけどなぁ)

 何ならラザラスの視野狭窄と相性が良かった感影センスは彼自身が使えないこともあり、いまだに使い続けている。
 とはいえ、何かしら指示されない限りは物理的にラザラスから離れる気はない。離れる気は、ないのに。

 そんなロゼッタの思いを察したのか、クロウは苛立った様子で口を開く。

「はぁ……テメェはオレの事情、ある程度は知ってんだろうが」

「あ、あの……すみません……」

「オレはもう、誰かしらを選ぶ気自体が全くねぇよ。それが大前提だが……相手を選ぶ権利は、オレにだってある。テメェの思い込みで、勝手にオレの権利を奪うな」

「う……っ」

「ついでに言わせてもらえば、その権利はロゼッタにもあるからな。ロゼッタの権利も取んじゃねぇよ。勝手にオレと組み合わせんな」

 クロウが何を言っているのかはよく分からないが、とりあえずラザラスが彼の意見でしばかれているらしいことだけは分かった。

 クロウは“ロゼッタの権利”と言っている辺り、一応はロゼッタのことを気遣っているのだろう……多分。

 とはいえ、ラザラスがとんでもなく劣勢なことは分かった。
 ここは彼を強制的にでも引かせるべきだろう。

「わ、わたし! 別に取られる予定とか無いです! 帰りましょ? あっ、クロウも頑張ってねー! じゃあねー!」

 とりあえずラザラスの身体を押し、クロウの部屋を出る。
 不貞腐れるように壁を見つめていた部屋の主が、ポツリと呟いた。

「……。オレの考え過ぎか、一時の気の迷いなら、それはそれで良い。
 だが、本気になるなら。マジでそいつの権利は尊重してやれよ……頼むから」

 ラザラスがそれに対して何かを返す前に、扉が閉まる。
 一体クロウが何を言いたかったのかはよく分からなかったが、とりあえずあまり良い気分では無さそうだ。

「帰りましょっか? この後、出かけるって言ってましたもんね?」

 ロゼッタは有無を言わせず、ラザラスの手を取る。
 次の瞬間、2人の姿は光とともに拠点から消えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

恋愛
「神に祈るだけで曖昧にしか治らない。そんなものは治療とは言わない」  男尊女卑が強い国で、女であることを隠し、独自の魔法を使いトップクラスの治療師となり治療をしていたクリス。  ある日、新人のルドがやってきて教育係を押し付けられる。ルドは魔法騎士団のエースだが治療魔法が一切使えない。しかも、女性恐怖症。  それでも治療魔法が使えるようになりたいと懇願するルドに根負けしたクリスは特別な治療魔法を教える。  クリスを男だと思い込み、純粋に師匠として慕ってくるルド。  そんなルドに振り回されるクリス。  こんな二人が無自覚両片思いになり、両思いになるまでの話。 ※最初の頃はガチ医療系、徐々に恋愛成分多めになっていきます ※主人公は現代に近い医学知識を使いますが、転生者ではありません ※一部変更&数話追加してます(11/24現在) ※※小説家になろうで完結まで掲載 改稿して投稿していきます

一匹狼と、たったひとりのラナ

揺木しっぽ
恋愛
絶滅危惧種となった「人間」のラナ。 その希少さゆえに、あらゆる種族から欲望の対象として狙われる日々に、彼女は心を擦り減らしていた。 そんな彼女を救ったのは、一人の狼男・リゲル。 他の男たちとは違う、彼の大きくて温かな手に、ラナは初めて希望を抱くが――。 獣の本能と、孤独な少女。 密やかに育まれる、甘く濃密な執着の物語。 ※本作には一部、経血に関する執着描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。 毎日21時頃、全12話完結まで更新いたします。

俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜

せいとも
恋愛
高校時代バスケ部のキャプテンとして活躍する蒼空先輩は、マネージャーだった凛花の初恋相手。 当時の蒼空先輩はモテモテにもかかわらず、クールで女子を寄せ付けないオーラを出していた。 凛花は、先輩に一番近い女子だったが恋に発展することなく先輩は卒業してしまう。 IT企業に就職して恋とは縁がないが充実した毎日を送る凛花の元に、なんと蒼空先輩がヘッドハンティングされて上司としてやってきた。 高校の先輩で、上司で、後から入社の後輩⁇ 複雑な関係だが、蒼空は凛花に『はじめまして』と挨拶してきた。 知り合いだと知られたくない? 凛花は傷ついたが割り切って上司として蒼空と接する。 蒼空が凛花と同じ会社で働きだして2年経ったある日、突然ふたりの関係が動き出したのだ。 初恋相手の先輩で上司の複雑な関係のふたりはどうなる? 表紙はイラストAC様よりお借りしております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

処理中です...