ハーヴェインワールド

ハギノキ

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4話 邂逅2

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「さっきと同じ…場所だよな?」

 俺は転生してすぐ辺りを見渡し、見慣れた道と森を見つけて安堵する。

 いや、安堵してどーする。
 もしかしたらすぐにさっきのヤツがやってくるかもしれない。

 頬を軽く叩いて気を引き締めると、すぐさまさっきとは逆方向に向かう。速度は早歩き。気持ち的には走りたいところだが、今はまだ走って逃げられる体力を温存しておきたい。

(んー、こっち側も似たような感じか)

 反対方向の道も原生林を貫くように出来た道がひたすら続いている。

 それにしてもさっきの使徒とかいうのは、何でこんな場所にいたんだろうか。雰囲気からして何かを追っているという感じでもなかった。ただ一人旅にしては何も荷物がないのが不自然だ。異世界だし見た目は魔法使いだから、もしかした空間魔法とかでどうにかしている可能性もあるか。

 だがそんな魔法が使えそうなら、わざわざ歩かずに移動は転移魔法で済ませてしまうようにも思う。まあでも見た目が魔法使いっぽくても魔法使えるとは限らないし、アイテムの収納は魔法的な道具でどうにかしているのかもしれないな。

 とにかくこの世界についての情報が無さ過ぎて、推測くらいしか出来ないのが辛いな。

「ふぅ…とりあえず、十分くらいは歩いたか? よし、後ろからは…誰も来てないな」

 後ろに振り向き誰もいないことを確認してから、一息ついてその場に座り込む。
 
 こっちの方も今のところ町どころか人の気配すらない。

 馬車っぽい車輪の跡は、それなりに新しいように見えるんだけどな。ただ馬の足跡がないことが気になる。異世界の馬は常時飛んでる可能性も無くはないだろうが、それなら馬車ごと飛んでそうではある。

 そうなるとこれは馬車が通った跡ではないという可能性も出てくるが、ならこれは何が通った後なのだという謎めいた疑問が浮かんでくる。

「もうちょっとわかりやすい世界に転生したかったな……。とにかくそろそろ出発すっか」

 もしかしたら使徒とかいう奴が、何らかの方法で俺の存在を感知してこっちに来るかもしれない。そんな強迫観念からそろそろ足腰に疲れを感じ始めていた身体を気合で立ち上がらせる。そして再びまだ見ぬ町を目指して歩き始めた。



「うわっ…道が二手に分かれてる」

 数分後、ようやく何も変化がない道に変化があったのだがそれは分かれ道だった。
 一つは坂に作られた細まった道、もう一つは俺が歩いてきた平坦で広い道だ。

 どっちに行くべきだろうか?

 何か判断材料はないだろうかと双方の道に注目する。

 ふむふむ……。まず細まった道の方は人の足跡が多く残っていている。あと雑草とかが所々生えているし道がガタガタで歩きにくそう。それに対して平坦で広い道は相変わらず綺麗で、さっきからある車輪の跡がずっと続いている。

「坊主。どうしたんだ? 迷子か? へぇー珍しいな黒髪なんて初めて見たよ。一体どこから来たんだ?」

 っ…びっくりした。人じゃん。今度はオッサンか。んー害はなさそうだけど、さっきの例があるし一応警戒して距離とっとくか。

 多分四十か五十代くらいかな。茶髪でちょっと…いやかなり頭頂部が寂しい感じ。
 やや草臥れた感じの白色のシャツに茶色のズボン。
 中世を舞台としたゲームや映画でよく見るような恰好に似ているが、どことなく違うような雰囲気もある。

 そうか! このオッサンが何も荷物を持ってないからか。

 映画だとベルトに色々袋とか付けてたり、何か手荷物持ってるイメージがある。それにこのオッサン髪がボサボサな割にヒゲが生えてない。

 もしかして思ったよりも若いとか? というかまずこのオッサン何処から現れた? つーかこの人異様に煙臭いな。健康診断の当日にタバコ吸って怒られて、燻製人間と揶揄された会社の上司並みに臭うぞ。

「町を探してるんです」

 正直めちゃくちゃ怪しいが、会話は出来そうだし聞くだけ聞いてみる。

「ほー、そうか。俺はドガドデーバ。坊主はなんて名前だ? いやーそれにしても中々良い服を着てるな。もしかして貴族か何かか?」
「ただの一般人です」

 意図して名前の質問は無視し雑に返事する。

「なるほど。じゃあ次の質問だ。どの神を信仰している? 加護は持っているか?」
「加護? 特に信仰している神はないです。……あっ、でも神の存在は信じてます」

 しおりに神がいる世界だと書いてあったし、一応フォローを入れる。
 神がいる世界で私は神を信じませーんとか言ったら、どんな目に遭うかわかったもんじゃないしな。

「そうか、なら大丈夫か。町ならこの細い道を進んだ先にあるぞ」
「そうですか。ありがとうございます」

 何が大丈夫なんだ、さっきから質問ばっかしやがって。何か怪しく見えてきたなこいつ。

「あの…本当にこっちに町があるんですか? 馬車の跡は大きい道の方に続いていますけど……」
「ばしゃ…? 坊主の言ってることはよくわからんが、荷車が通るのは大きい道だけだ。こっちの道は狭くて坂になってるだろ。ここを登るってなると追加料金がかなり掛かっちまうからな。だからここからは人を使って物を運んでるんだ」

 道をよく見ればわかるだろうと、オッサンが地面を指さしながら言う。なるほど。だからこっちの道には馬車の跡が無くて、人の足跡だけが残っていたわけか。一応、話の筋は通っているか。

「疲れていると人を疑いたくなる気持ちはわかる。途中に教会があるから、一旦そこで休憩していくといいさ」
「わかりました。ありがとうございます」

 確かにオッサンの言う通り、疲れて少し疑い深くなっていたのかもしれない。
 異世界での初めての出会いが使徒とかいう訳の分からない奴だったし、自分も気づかない内に疑心暗鬼になっていたのかもな。

 信頼関係を築くにはまず自分が相手を信頼しろとも言うし、一旦ここはオッサンの言うことを信じてみよう。

 軽く息を吐いて道端に座り込んだオッサンに手を振りながら、細い道の先にあるという教会を目指して歩みを進めていく。

 それから五分くらい歩くと、道の脇に石作りの大きな建物が姿を現した。これが恐らくオッサンが言っていた教会なのだろう。

 だが元の世界でよく見かけたような教会の感じではない。一言でいうなら怪しい神殿。建物の周囲にはいくつも黒い柱が立っていて、建物の入り口である高さ三、四メートルはある大きな両開きの扉は鮮血を浴びた様に真っ赤だ。

(まともな建物には見えないけど本当にこれが教会か?)

 教会には実際に行ったことも見たこともない。だとしてもこれが教会です。と力説されてもちょっと信じられない。

 入るべきか? それともスルーしてこのまま先に進んだ方が……。

 そんな風に悩んでいると、建物の扉がギギギと音を立てて開く。そして中から修道女のような服を着た女性が現れた。

 女性は周囲を軽く見てから俺に目を止め、大きく目を見開いた後ニッコリと笑顔を浮かる。そして道のど真ん中に突っ立っている俺の方に近づいてきた。

(うわー。めちゃくちゃ美人)
 
 やや白っぽい金色の長い髪に、緑色の綺麗な瞳。肌も雪のように白くて、何よりも色々とデカい。
 男なら無言で親指を立てて頷きたくなるような見事なスタイルだ。

 十字架じゃなくて黒い短剣みたいなアクセサリーを着けていたり、足が服で隠れているのもあるだろうが幽霊みたいに地面の上を滑るように移動しているように見える事が気になるが、それ以外はまさに理想の修道女といった感じだ。

 どことなく幼さを感じるから、年は十代後半から二十代前半くらいといったところだろうか。

 手を伸ばせば届くような距離になると、女性は再び笑みを浮かべ俺に目線を合わせるように身体を屈めた。

「町の人に聞きましたわ。森の中を寂しそうに歩いてる子供がいると。一人で心細かったでしょう?」

 女性は柔らかな優し気のある声でそう言うと、俺を頭をポンポンと撫でてからゆっくりと抱きしめた。
 その瞬間俺の抱いていた些末な警戒心は一瞬にして溶解され、頭の中はデカい。と柔らかい。という言葉に塗り替えられてしまう。

「そ、そんなことはない…です」
「大丈夫。もう頑張らなくていいのよ。さあこっちにいらっしゃい。今日はお姉ちゃんと一緒にここで過ごしましょう。明日になったら一緒に町に行きましょうね」
「は、はい…」

 天使か。

 彼女と手を繋いで建物の中へと入る。

 建物の中は思ったよりも教会に近かった。床には絨毯が敷かれていて長椅子もある。一番奥には背中に大きな翼を持つ鎧姿の高さ二、三メートルくらいある女性の像が祀られていた。
 
 祀ってある像が鎧の女神ってことは戦いの女神がこの教会の神なのだろうか。ならまあ多少は建物の外観のデザインにも納得が出来なくもない。

 だが何だか神聖なはずの教会にしては薄暗いし、油が腐敗したような嫌な臭いが鼻に突く。

「お腹が空いたでしょう。まずはこのスープを飲んで身体を温めるといいわ。すぐにちゃんとした食事を用意するわね」
「あ、ありがとうございます」

 スープは無色透明で匂いもしない。謎の黒い葉っぱが一枚浮いているシンプルなものだ。見た目はまったく美味しそうに見えない。

 だが、色々と疲れていた俺にはまるでご馳走のように思えて、フーフーと息で冷ましながらゴクゴクと呷った。

 くぅー。染み渡るー。
 
 特に味もしなかったが美人が作ってくれたものと思うだけで、何だか身体の中から元気が湧いてくる気がする。

(もう一口飲もう)

 そう思ってお椀を口元に近づけようとしたが、俺の意志と反して何故かお椀を持つ手が徐々に遠ざかっていく。

 あれ…おかしい。そういえば何だか全身が痺れてきて……。
 
 やがて立つこともままならなくなってきた俺は、そのままその場に倒れ込んだ。
 身体の自由がまるで利かず、顔面を強打してしまうが何故か痛みも無ければ感覚もなかった。

 目と耳と鼻、そして思考だけは働いているがそれ以外は一切動かせない。

 一体どうして?

「ふふっ、子供は単純で助かるわ」

 冷たい女性の言葉が俺の耳に届く。一瞬誰の言葉だと思ったが、この声色には聞き覚えがあった。そう、俺に優しくしてくれた天使の声だ。

 だがそんなはずはない。そう思って姿を確認しようとするが、やはり身体の自由は利かず声の主の姿を見ることは叶わない。

「安易に人を信じすぎてはいけないって、教わらなかったのかしら?」

 声の主は嘲笑いながら俺の身体を仰向けにし、顔を覗き込んできた。

 は…え?

 俺の顔を覗き込んだ人物は、残念ながら間違いなく先ほど天使かと思った女性だった。しかしその表情に張り付いているのは先ほどの優しさを感じる笑顔ではなく、人を物と見ているような狂気の色に染まったナニカだった。

「安心なさい貴方は有効活用させてもらうわ。神への捧げものとしてね…ふふふ」

 彼女は気持ち悪い笑みを顔に貼り付けたまま、首の掛けていた短剣型のアクセサリーを俺の心臓に向かって振り下ろした。
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