22 / 201
三次審査編
三次審査⑭
しおりを挟む自分の部屋に戻り、一眠りした後シャワーを浴びた空はスーツに着替えた。
コンディションは最悪だが、今日は黒狐族一の美女、玉鬘とのお見合いが入っている。
身嗜みを整え、神殿に向かう。何時ものカフェスペースで座っていると、文官達が大きな台車を引きながら何かを運んでいるのが見えた。
台車の上には沢山のプレゼントが積まれている。姫君達への贈り物だろう。
(俺も何か贈った方が良いのかな・・・)
お見合いをした四人の姫君が浮かぶ。お礼として、全員に細やかな贈り物をするのも有りだろう。
(若紫は何が良いだろう・・・)
編みぐるみ作成が趣味だが、工場見学の動画も大好きなプリンセス。
(工具キット・・・は駄目か)
余り女性と関わってこなかった空は女性にどのようなプレゼントを贈れば良いのか分からなかった。
ここはネットに知恵を得ようと検索すると、花やジュエリーが無難なようだ。
(ジュエリー・・・イフラースさんに聞いてみようかな)
宝石がざっくざく採れる鉱山を幾つも所有する鉱山王・イフラース。彼は宝石の知識も豊富で、女性の好きなデザインも知っているだろう。ジュエリーが手に入ったら手紙を添えて贈ろう。便せんも一人一人変えた方が良いだろうか?
母以外の女性にプレゼントを贈った経験が無い空だが、何とか姫君達を喜ばせたい。必死で考えていると、文官に呼び出された。
「久是空様、お時間です」
「あ、はい!」
玉鬘とのお見合いは神殿内にある霊木『悠久の藤』の下で行なわれる。
悠久の藤を植えたのは天帝だ。天界から持って来た種をこの地に植えて、大きく成長し満開になった瞬間から時が止まった。
満開のまま永遠に咲き誇り続ける藤の花。その美しさも霞む美女が空を待っていた。
玉鬘。
黒狐族一の美女はただ静かに空を見た。
「久是空様でいらっしゃいますね。わたくしは玉鬘様の側仕え兼護衛の柘榴と申します。これより、玉鬘様とのお見合いを開始致します」
ホッキョクオオカミの武官は恭しく礼をした後、玉鬘の直ぐ後ろに控えた。
「久是空です。今日はよろしくお願いします」
「・・・よろしく」
おや、と空は思った。
これまでお見合いをしてきた四人は最初から空に好意的だったが、玉鬘は違う。
先ず目線を合わさない。ずっと下を向いたままだ。彼女は赤地に赤と白の牡丹が刺繍された着物を着ていた。長い睫に黒曜石の大きな瞳、ぷっくり色づいた紅い唇に、きめ細やかな白い肌。無表情でも彼女の美しさは際立っていた。
「?」
よく見ると、帯に何かが付いている。緑色の蛇みたいなヌイグルミ。蛇の頭には二本の白い角が生えているので、きっと龍だ。
「龍がお好きなんですか?」
「・・・何で?」
「帯にヌイグルミが付いていたので」
「・・・本物は、無くしたから」
「玉鬘さんが作ったんですか?」
「・・・家で一通り裁縫は習うから」
未だに目を合わせないが、質問には答えてくれる。ひょっとしてシャイなのだろうか?
玉鬘は空の二つ上の十九歳。慣れないが、ここは自分がリードするべきだろう。空は会話を広げるためにヌイグルミの話を続ける事にした。
「大切なものだったんですね。再現するなんて、凄いです」
「・・・とても、大切なものよ。本物はもっと温かかったけど」
「温かい、ですか?」
「・・・・・」
返事はない。余り聞かれたくないのかも知れない。空が次に質問したのは在り来たりだが、趣味の話だ。
「裁縫が趣味なんですか?」
「・・・趣味は、特に。敢えて言うならお菓子作り」
「お菓子ですか?」
「・・・家業なの。お菓子屋さん」
「え、見て見たいです」
玉鬘はスマホを取り出すと、空に写真を一枚見せた。画面には白い壁に青い屋根、沢山のお花が飾られた可愛らしいお店が映っていた。白い指が画面をスライドすると、ショーケースの中に美味しそうなケーキと焼き菓子が沢山並んでいた。
「どれも美味しそうです!」
「うん。美味しい」
褒められて嬉しかったのか、玉鬘は小さく笑った。
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