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朧月夜の章
朧月夜の章⑤
しおりを挟むディアゴ自身も畑を耕し、麦を作り始めた。ディアゴが作る麦は販売用ではない。自分が食べる分以外は災害が起きた時の非常食として備蓄していった。
フォルクバングを豊かにしようと必死に働くディアゴを領民達は慕い、名士と讃えた。
領主と農家、両立のために忙しい日々を送るディアゴの元に訃報が届いた。
あのろくでなしの父親が遂に亡くなったそうだ。
身内の情で葬式だけはあげようと父の遺体を引き取りに病院へ向かった。父親の病室に入った筈だが、横たわる人物を見て最初は誰かと思った。
昔の面影など一切無い、小さく痩せ細った男が静かに眠っていた。
「・・・前領主様はずっと待っていらっしゃいました。息子に一目会うまでは死ねないと・・・」
父の看護を受け負っていた看護師は、涙ながらにディアゴに手紙を差し出した。
父からの最後の手紙。何時ものように燃やせば良いのに、それが出来なかった。初めて封を開けると、中に入っていたのはたった一枚の便せんだ。
『ディアゴ、すまなかった』
力が入っていないと分かる細い文字だった。
妻に先立たれ、息子に見限られ絶縁されたも同然の状況で、最期は一人ぼっちで息を引き取った父。
何の謝罪なのだろう?何が済まなかったなのだろうか。父親が本当に謝罪すべき人間は自分ではないのに。
過労死まで追い詰めた母に謝罪するべきだろう。
散々苦しめた領民にこそ頭を下げて許しを請うべきだろう。
・・・自分は、謝罪なんて一つも欲しくなかったのに。
最期までわかり合えないまま、ディアゴは淡々と父の葬儀を終えた。手紙も一緒に燃やしてしまおうと思ったが、未だに捨てられずにいる。
父のようにはなるまいと必死で領地運営と農作業に明け暮れていた結果、名士と呼ばれた虎は未だ独り身。
今回の見合いも、ディアゴが自ら応募した訳ではなかった。フォルクバング全領民の推薦によってディアゴは参加が決定した。
ディアゴは見返りなど求めていなかったが、領民達は彼に恩義を感じていた。
『我らが領主様に美しき妻を』
このスローガンの元、あっという間に署名は集まり推薦状が完成した。
最初こそ戸惑っていたディアゴだが、今は感謝しかない。彼らのお陰で朧月夜に出会えた。彼女をフォルクバングに連れて帰りたい。
ディアゴの愛する領地と領民達を、朧月夜に紹介したかった。
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